若者にヒットする音楽「ダリハイ」とは──Lost Frog Productions・石原ハルオに聞く、“Hyperflip/Dariacoreの現在地”

原動力は、常に「もっと新しいものを」という“欲”
——BandCampのページを見ると、実はかなり多彩なジャンルの音楽を扱っていますよね。Lost Frog ProductionsはHyperflipの専門レーベルというわけではない?
石原:はい、基本的にLost Frogはジャンルレスなレーベルです。いいと思うものがあればリリースしたいと思っているので、(ジャンルへの)こだわりは全くないです。ただ一つだけこだわりがあるとすれば、「私自身がいいと思えるかどうか」という部分ですね。
また、既に名の知れたアーティストをリリースしたいという感情も薄いです。というのも、ある程度知られている人って、私がやらなくても誰か他の人がやってくれるじゃないですか。だから「自分じゃないと、これはやらない/やれない」という意味をどうしても求めてしまうんです。
——まだ知られていない、“ダイヤの原石”を探す喜びですね。
石原:そうですね、そこが一番重要であり、焦点を当てている部分です。
昔からLost Frogを知っている同世代の友人たちからすると、今のLost Frogのリリース内容には理解が及ばない部分も多いようですが「石原くんらしさはものすごく感じる」と言ってくれて。根底にある「自分がやっている意味」や、“らしさ”みたいな部分がちゃんと伝わっているんだな、と分かって、ちょっと嬉しかったですね(笑)。
——失礼ですが、石原さんは現在おいくつでいらっしゃいますか?
石原:いま53歳ですね。
——石原さんの存在を知ったときに、53歳で10代20代の若者たちが熱狂する音楽をディグり続けられるのがすごいなと、素直に驚嘆していたんです。ただ同時に、今のお話を聞いて納得しました。自分もSoundCloudで色んな楽曲を聴いていると、Lost Frog Productionsのアカウントがコメントしているのをよく見かけるんですよ(笑)。年齢に関係なく、石原さんの好きな音楽にシンパシーを感じる人、趣味が合う人が集まっているんだな、と。
石原:それこそ同世代の友人たちからも「石原くんはなんで若い人たちと話せるの」と言われますね。ただ、音楽では理解しあえても、若者が話していること、ネットミームとか流行り言葉は全然理解できないことも多いですけどね(笑)。でもそういうときは「それってどういう意味なの?」と素直に聞くようにしています。若者が何を考えているのか、一応理解しなくちゃな、と思うので。

——その原動力は?
石原:もともと新しいものが好きなんです。アニメも好きですし、「いい歳したおじさんがアニメを見てるなんて」と思われるかもしれないけど、全然恥ずかしくない。毎シーズン10〜20作品くらいずっと見続けてきていて。もちろん古いアニメで好きなもの、ちゃんと評価しているものもあるんですけど、それだけをずっと自分の中で好きなものとして永遠に擦り続けることができなくて。常に「もっと新しいものを」という欲が強いですね。
それは音楽に対しても同様で、たとえば二十歳くらいの頃に聴いていた音楽は今でも大好きだけれど、それを一生聴き続けよう、という気は全然なくて。もっともっと新しいもの、という感じで普段から生活していますね。
あとは私の場合、自分でバンドをやっていたこともあって、曲よりもアーティスト自身にものすごく興味を持っていて。その曲を作っている人物がどういう人物なのか、ということに結構興味があるんですね。「すげえ変な曲なんだけど、何を考えていたらこんな曲が作れるんだ」と思っちゃう。だからわりと気軽にその人とコンタクトをとって、「普段どういうものを聴いているの」「どういう感じでこの曲ができたの」みたいなことを聞いたりしています。昔も同じで、ネットがない時代もわざわざ手紙を英語で書いて海外に送っていました。返事が戻ってくるまで1カ月くらいかかるのに(笑)。
——30年前にやっていたことと、現代のデジタルなネットミュージックシーンを盛り上げることは対極にあるように見えて、石原さんの中では「どうしたらこんな曲が作れるんだろう」という疑問が浮かぶ点で共通していると。そして、「うちから曲を出さない?」と声をかけるところまで一貫しています。
石原:そうですね、変わっていないです。ひとつ補足をしておくと、言葉としては「うちからリリースしませんか」なんですけど、私としては「この音楽をアーカイブしたい」という気持ちなんですね。これはInternet Archiveに影響を受けた部分でもあって、現在も変わっていません。Internet Archive自体が、画像でもテキストでも、良いものでも悪いモノでも、ネット文化の遺産を永久に保存する、という理念に基づいて設立されていて、その部分にものすごくシンパシーを感じました。
カセットテープやCDで出していた頃はまだ「リリースしたい」という意識が強かったのですが、ネットレーベル化してからはリリース=アーカイブすることと捉えていて。永遠にその曲をネット上に残すことをとにかく大切にしています。たとえば、今のHyperflip楽曲たちを100年後の人たちが聴いたらどう思うんだろう、と考えるとワクワクしませんか。そういう意識です。
もちろん今の人に伝えたいというのもあるんですが、それだけではなくて、後世にも残したいという部分がものすごく大きいです。そうでないと、せっかく素晴らしい音楽なのに、10年後には消えてしまうかもしれないじゃないですか。
——そうですね。本人が消してしまうかもしれないですし。
石原:それを私がアーカイブすることで、もしかしたら50年後、100年後にも残っているかもしれない、と思っているので、こういう活動を続けています。
わずか1日でソールドアウトした『Car Crash & Siren 4』
——ここからは、8月に開催される『CCS4(Car Crash & Siren 4)』の話についてもお伺いさせてください。シーンのメッカというか、お膝元という感じのイベントで、今回は即ソールドアウトしたとのことですが。
石原:びっくりしちゃいましたね。『CCS3』のときも同じ渋谷のWOMBでやっているんですけど、そのときは4カ月前から告知して前売り券を売り始めて、ソールドアウトまでほぼ4カ月かかったんですよ。イベントの1週間前くらいにようやく全部売り切れた、という状態だったのですが、今回はほぼ1日でDAYもNIGHTもソールドアウトしてしまったので、衝撃的でした。WOMBの方にも「ウソですよね」と言われましたから(笑)。
——個人的にも驚きましたよ。WOMBで即ソールドって、とんでもないなと。めちゃくちゃ盛り上がっている印象はありますが、現場の雰囲気はどうですか。
石原:イベント自体は7時間くらいやってるわけですが、とにかくずっと盛り上がりっぱなしです。演者がミスしても盛り下がってるところ見たことないですね。最初の『CCS』は中野のheavysick ZEROというクラブでやったんですが、そのときはキャパが100人だったので、チケットが2〜3分で売り切れちゃって。『CCS2』は渋谷のCIRCUSでやって、そのぐらいから年齢層や男女比をこちらでも集計し始めたんですよ。それで気が付いたのですが、『CCS』って未成年のお客さんの数がすごく多いらしいんです。
——たしかに多そうですよね。
石原:まず、このシーンのアーティストは10代の割合が異常に多く、リスナーも10代の若い子たちが圧倒的に多いですね。アーティストに関しては一番年下で12歳くらいからいます。
——今の若い子たちが、若い子に向けて作っている。
石原:おっしゃる通りです。出演者とお客さんが完全にリンクして盛り上がっているのが肌で感じられるイベントです。
——ある種無鉄砲なエネルギーを感じる音楽でもあると思うので、それもすごく納得ですね。
石原:でも、意外にも『CCS』を開催するたびにお店の方に「お客さんのマナーがすごく良いですね」と毎回言われるんですよ(笑)。10代の子が多いのも関係しているのかな、とは思います。

——クラブでやる音楽ジャンルの中でも、ナンパ目的で来る人が圧倒的に少ないジャンルじゃないですか。
石原:そうですね。『CCS』で初めてクラブデビューしました、というお客さんも結構いるので、そういう風に治安良く、でも大盛り上がりしているのを見ていると嬉しいです。
親御さんからすると「クラブに行くの?大丈夫?」と心配される未成年のフォロワーさんもいるみたいで。そういうSNSの投稿を見たときは「マナーの良い人が多く、危険な空間じゃないから大丈夫ですよ」とコメントすることもあります。
——Hyperflipは特にネットで活動する人が多い世界だと思うんですけど、『CCS』があることで現場が生まれて、新しい出会いやコミュニケーションが生まれていくわけじゃないですか。「これは現場でやる意味があるな」と思う瞬間、「やってよかったな」と思うことがあれば教えてください。
石原:日常生活では友達が少ない人たちもいるようで、そういう人たちが、うちで販売しているTシャツを着ているだけで声をかけられたとか、『CCS』で同じような仲間に出会って友達ができました、と言う話を聞くと、やっててよかったなと思います。
——かなり親目線というか、保護者感が出ていますね(笑)。
石原:私の息子も、リスナーさん達と同世代なので、ついつい見守ってしまうというのはあるかもしれないです(笑)。
——色々納得がいきました。同じ年代のお子さんを持つ親が開いているイベントとなると、親御さんに対して「大丈夫ですよ」と伝えたくなる気持ちもわかりますね。出演者についてはいかがでしょう?
石原:出演者からしてみれば……自分でこういうことを言うのも恥ずかしいんですけど、『CCS』に出たことで“箔が付く”という感じになればいいな、と。
イベントだとどうしても出演者の人数が限られるので、みんなを出したい気持ちはあるけれど全員は出せない。たとえばmomoneなんかは完全に『CCS』の顔なので、ずっと出すべきだろうし、出てほしいと思っています。ただ、以前から活動している人だけじゃなくて、今まさに出てきている新しい人たちも、いい人がいればどんどん『CCS』に出してあげたい、という気持ちは常にありますね。
——フックアップするという理念に沿って。
石原:現場のイベントだと、どうしてもDJをある程度やれることが前提になるので、ちょっと難しいんですけどね。DTMができても、イコールDJができるわけではないので。
——たしかに、それはそうですね。しかもHyperflipのDJ、めっちゃ難しいでしょうし(笑)。
石原:DJスキルのハードルは低めにしてますが、1回もDJ機材に触ったことがないと難しいかもしれないので。
ぶっちゃけ、『CCS』は何をしてもウケちゃうんですよ。他のイベントだと、有名で人気のある演者のときはワーッと盛り上がるけど、そうでもない人のときはシーンとなっちゃうこともある。でも、『CCS』は有名無名関係なく、誰がやっても盛り上がっちゃう場で、めちゃくちゃお客さんの熱量が高いんですよね。
——別のイベントで、momoneさんとcurrenさんのB2Bを見たことがあるんですが、そのときも「この人たちは多分Hyperflipのコミュニティの人だな」という人がずっと盛り上がっていました。終始「ヤバい」「ありがとう」と叫んでいて。演者からしても頼もしいでしょうし、いい現場なんだろうな、と想像できました。
石原:そうですね。まあ、楽しみ方は人それぞれなので、みんなが爆ノリすればいい、みたいな風には別に思わないんですが、恥ずかしがらずに自分の熱量を発散できる場ではあるんじゃないかな、と思っています。
とはいえ、盛り上がり方が異常ではあるかもしれないです(笑)。普段あまりはっちゃけることのない人たちもいるので、溜め込んだエネルギーを爆発させている、というか。
——でもマナーはいいから治安は悪くならない、と。
石原:お店のスタッフの方にも、「フロアにゴミも少なく、助かります」みたいなことは毎回言われます(笑)。

——今後、イベントについてはどのように展開していこうと考えていらっしゃいますか? それこそ、規模の拡大などは……。
石原:難しいところで、8月の『CCS4』のキャパが大体700人くらいなんですね。700人で足りないとなると、もう1000人じゃないですか。1000人規模のクラブとなると、もう限られてしまっていて。予算もそうですし、クラブ側から出される条件も厳しくなってくるので、「みんなが漏れることなく来られるように大きくしたい」という気持ちはあるんですけど、その辺をどうするか、という部分では今、悩んでいますね。学生のお客さんも多いので、チケットの値段は高くしたくないんです。
——1人に絞るのは難しいと思うんですけど、石原さんが今、Lost Frog Productionsとして「こいつはやばい」「多分このシーンを塗り替えるな」と注目している、フックアップしたいHyperflipのアーティストがいれば、ぜひ教えていただきたいなと。
石原:現在、Temenoughというアーティストとアルバムを作っていて、今9割くらい出来上がっているんですけど、かなりすごい作品に仕上がっていて、シーンの他の楽曲と比べてもかなり個性が強い、センスの塊のような感じです。
——「Urban Groove flip」など、めちゃくちゃ聴いてます。
石原:うちはテクニックよりも「個性」をすごく重要視しているので、その人が本来持っている素質をすごく大事にしています。だから、楽曲的に未熟であってもセンスがものすごくいい人には声をかけることが多いですが、Temenoughに関しては、テクニックも抜群で、センスも唯一無二だと思っています。
聴いた時点で「これはうちの作品として誇りに思える」と確信してます。7月中にはリリースできるかと思うので、ぜひ皆さんに聴いてもらえたら嬉しいです。
結局サンプリングミュージックって、どれだけ「引き出し」を多く持っているかという部分がすごく大事になってくるんです。幅広く音楽を聴いている人であればあるほど、それだけ多くの引き出しを持っているということなので。
もし今の流行りの音楽しか聴いていなければ、ネタとなる引き出しがそこしかなくなってしまいますよね。
その点、Temenoughはかなり幅広いジャンルや、年代の音楽を聴き込んでいて、親御さんからの音楽的な影響も受けているみたいなんです。だからこそ、音楽の幅がものすごく広いんですよね。
——Temenoughさんは何歳くらいの方なんですか。
石原:21歳です。「この曲、よく知ってるね」と話したら、「親が好きでよく聴いていたので」という話をしていて。そういうことは他のアーティストでも、結構あります。おそらく彼らの両親も私と同じくらいの年齢だと思うので、若い頃に音楽をバリバリ聴いていた世代のお子さんが多いんだろうなと。
石原ハルオが考えるHyperflipの今後と、注目のアーティスト
——アルバムの完成が楽しみですね……! 続いては文化全体についてで、ネットミュージックってものすごい勢いで流行りが変わっていく印象があって、その中でHyperflipは今後どうなっていくと思いますか?
石原:これはHyperflipに限らず他のジャンルでもそういうことあると思いますが、ある程度したら落ち着いて、下火になる時期が絶対に来るだろうとは思っています。
ただ、これまでの流れを見ていて思うのは、たとえば最初の黎明期にやっていた人たちが1〜2年でやらなくなったとしても、それを後から聴いた下の世代の人たちが作り手に回って……という連鎖が持続するどころか、さらに盛り上がりを見せています。数日SoundCloudをチェックしてないだけで、追いつけなくなるくらいの曲数が毎日投稿されていますね。
——現状でも、いわゆる“表の名義”に切り替えてやり始めている方もチラホラ増えていますよね。
石原:実際、Leroyも現在はJane Removerとして、バリバリ活動していますからね。先駆者である氏がそうやってオリジナルへと歩みを進めている姿を見れば、後続のアーティストたちが“憧れ”を抱いて後に続くのは自然な流れでしょう。
それに、ある程度音楽を仕事にしたい、何かを成し遂げたいと思ったら、「オリジナルを作らなくちゃ」と、そちらの領域へシフトしていく人がいるのも当然だと思います。ただ、これまでの流れを見ている限り、誰かがシーンを離れても必ず次の新しい才能が台頭してきますし、当分はこの熱量が続いていくんだろうなと感じています。
私は、それはすごく良いことだと思っています。みんなが同じ方向を向いて同じことばかりやっていたら、やがて誰も見向きもしなくなってしまいますから。どこかで常に「新しい風」が入ってくることは絶対に必要なんです。
だからこそ、自分がSoundCloudをディグっていて「この人、ちょっと今までと違うな」と感じた才能は、絶対に見逃さないようにしています。その時点では、本当にその風がシーンに吹き荒れるかまでは分かりません。ただ、「未来の何かに繋がるかもしれない」という可能性の欠片があるかどうかが重要なんです。
それで言うと、うちからアルバムをリリースしているcluli(クルリ)というアーティストは、まさにその象徴でした。最初に曲を聴いた時点で、DariacoreやHyperflipの様式美を完璧に捉えつつも、他の誰にもない独自のバイブスやエッセンスが凝縮されていると感じたんです。
当時のcluliはフォロワーも全然いなくて、誰も注目していないような状態でしたが、私は「このアーティストは本当にヤバい」と直感しました。そして、何曲かトラックが溜まってきたタイミングで「これ、アルバムとしてうちから出そうよ」と声をかけたんです。そうしたら、今や彼はHyperflipシーンの重鎮ですからね。
cluliやTemenoughのように、うちと関わったことで多くの人の目に触れ、そこからmomoneやcurrenのように外部のイベントに誘われるなど、アーティストたちがどんどん自分の世界を広げていけるような流れを作れたら、これほど嬉しいことはないですね。
——フックアップして、送り出していく。
石原:私は、うちのレーベルはあくまで彼らの「通過点」でしかないと思っているんです。だから、今後ここを足がかりにしていろんなシーンで活躍してくれたら嬉しいですし、極端な話をすれば、別に音楽の道じゃなくたっていい。
どういう道に進むにしても、ここで一緒に音楽を作ったり笑ったりした経験を糧にして、とにかくこれからの人生を元気に生きていってくれれば、それだけでいいなと思っています(笑)。
■関連リンク
Lost Frog Productions:https://lostfrog.bandcamp.com/
Lost Frog Productions 公式X:https://x.com/lostfrognet























