若者にヒットする音楽「ダリハイ」とは──Lost Frog Productions・石原ハルオに聞く、“Hyperflip/Dariacoreの現在地”

日本におけるHyperflipの盛り上がりは一枚のコンピから

『FASTFUSION』

——ありがとうございます。そんなHyperflipが、定義付けも難しいまま若い人に刺さって、シーンに人がどんどん入ってきているのを、石原さんはどのように見ていらっしゃいますか。

石原:正直、数年前にやり始めたときは、こんなに盛り上がるとは当然、思っていませんでした。最初にうちから出したのは、agathaが企画してくれた『farewell dariacore, you WONT be missed』というコンピレーションなんですけど、これは海外の人が多めで。

 そこにmomoneやcurrenといったよく知られているメンバーも入っているんですが、その縁で知り合って話していくうちに「日本人だけで作ってみない?」ということになって。それで作ったのが『HYPERFLIP OVERTURE』というコンピだったんですね。

 そのときは「いいコンピになるだろうな」という確信はあったんですけど、一方で「こういう音楽がこれから盛り上がるだろう」なんてことは全く思っていなくて。ただ、うちのレーベルでは以前から、Breakcoreなどサンプルベースの作品を扱っていたので、フォロワーさんもそういう音楽を聴く人が多かった。だから、わりと受け入れてくれるんじゃないかな、とは思っていて。

 そうしたら予想以上に反響があったので、「じゃあもうちょっと何かやってみよう」ということで次のコンピも制作することにしたんです。で、『HYPERFLIP OVERTURE』を出したときに反応が薄かった層がいて。それがHardcoreとかBPMの速い音楽が好きな層だったので、「BPM200以上のものを作ったらどうだろうか」と思って『FASTFUSION』が生まれたんです。

——BPM200で、音圧ももっと足せと(笑)。たしかに、Hardcoreと比べるとBreakcoreはアーメンブレイクの軽快なリズムが特徴ですから、リスナー層が異なるのも理解できます。

石原:そうですね。そういう意図で『FASTFUSION』を作って、「これは成功するだろうな」という確信を持って、実際思った通りの結果になった。ただ、思った以上に反響があったので、ちょっとびっくりはしましたね。

 若い世代に受けている理由については、DariacoreやHyperflipの魅力をみんなが語るときによく言われるのが、「同世代の人たちがもっと若い頃……小学生や中学生だった頃に聴いていた色んな音をサンプリングしていることが多い」という点なんです。自分のたどってきた人生の中で好きだったものを全部聴けるような、その要素が詰まっているのがHyperflipだ、と思っている人が多いみたいです。

LEMCUS & ANTITY(Photo by POGO)

——『ニンテンドーDS』の起動音とかですよね。

石原:そうそう(笑)。だから、そういうものにシンパシーを感じる人が多かった、作っているアーティストと同世代の人たちにとって、フックになる部分がものすごくあったのかな、という風に思っています。

 基本的に、Hyperflipの曲って馬鹿馬鹿しいんですよ(笑)。馬鹿馬鹿しさもありつつ、真面目な部分もあったりするので、1曲の中で感情の変化が激しい。すごく抑揚のある音楽なんじゃないかなと思いますね。

——たしかに、Hyperflipの楽曲は泣きのメロを使っていることが多いですよね。そこと“DSの起動音”のような懐かしさが合わさって、新しいのにノスタルジーも感じられると。あと、最近よく言われる「ドパガキ」的な文脈にも沿っていて、泣きの部分や美味しい部分が早めにやってくる構成の曲も多くて。最近の流行楽曲の特徴もちゃんと捉えながら作られている、という感じですかね。

石原:そうですね。

——流行でいうと、ボカロシーンでもHyperflipっぽい楽曲が注目を浴びています。たとえばドワンゴが開催している『The VOCALOID Collection』のルーキーランキング……ボカロPとしてデビューしたての人たちが投稿できる部門では明らかにHyperflipやDariacoreを意識して作っているであろう楽曲がすごく増えているんです。少し前には「米津玄師がとうとう音割れを使い始めた」とXで話題になったりもして、サブカル的に愛されてきたシーンが、いよいよメインストリームのJ-POPや、ボカロシーンにも影響を与えている印象を受けていて。このあたりはどう見ていらっしゃいますか。

石原:すごく興味深いと思っています。それだけ、Hyperflipが持つサウンドデザイン面の魅力を「面白い」と思ってくれる人が多いんだな、と。

 ただ、一方でそれらをHyperflipと呼んでいいのかというと「少し違うかな」と思っていて。先ほども言ったように、HyperflipやDariacoreはあくまでサンプリングミュージックの分類なので、オリジナル楽曲でサウンドデザインだけを真似して作ったものは差別化する必要があるんじゃないか、ということで「Hyperflip Inspired(Hyperflipに影響されたもの)」というタグ付けをしているんです。正直、私自身はどっちでもいいんですけど、一応サンプリングが前提ではあるので……。

再現.leaper / 星尘Infinity -

——それこそ、定義したがる傾向がある?

石原:そうそう。だから突っ込まれたら嫌だなと思って(笑)。だからボカロの最近のそういった楽曲は僕も聴きますが、個人的に分類するなら「Hyperflip Inspired」ですね。スネアだけDariacoreみたいなスネアが入っている、という曲もよく耳にします。けど、トータルとしては「みんな興味を持ってくれているんだな」と感じるので、すごくうれしいです。

——「Hyperflipもメジャーになったな」と感じた瞬間はありますか?

石原:もう2年くらい前になるのかな、『beatmania IIDX』にZAQUVAさんがHyperflip的な音作りで楽曲を作ったことがあって。しっかり曲のジャンルにも「Hyperflip」と書かれていてすごく話題になったんです。もちろん、商業の音楽ゲーム作品なので、完全にオリジナル楽曲ですけど。

 それで、「ついにHyperflipもオーバーグラウンドに行ったんだ」みたいな風に思った記憶はありますね。私はそのとき、すごく肯定的というか、未来がひらけた感じがしたんです。そういう形でこのムーブメントがピックアップされるんだったら、今シーンで活動している若い子たちも、今はBootlegのような形で作っているけれど、自分の曲が評価されたり、ステムを使ったRemixの仕事に携わるチャンスができる、彼らもオーバーグラウンドに行ける可能性があると思って。

——シーンの中から反発はなかったですか?

石原:もともとHyperflip自体がアンダーグラウンドなものなので、なかには「オーバーグラウンドな場所でHyperflipを名乗るのはどうなの……」と言う人たちもいたし、そういう気持ちは分かるんですけどね。

 でも、私がレーベルをやっている目的は、今はまだ知られていないアーティストをみんなに紹介することで、その人たちが成長して、もっと上のレベルに行けたらいいな、という思いでやっているので。完全にアンダーグラウンドだったHyperflipの、若いアーティストたちが、音ゲーのようなメジャーシーンで大きなプロジェクトに関われる未来があるのかもしれない、と思って、結構な希望を持てましたね。

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