美術館で“癒される”をAIで可視化 「博物館浴」研究が国立西洋美術館などで実証実験へ

九州産業大学とYume Cloud Japanが、文化芸術体験のウェルビーイング効果をAIで可視化する「AI博物館浴」モデル開発に向けた共同研究契約を締結したことが発表された。国立西洋美術館などで、8月から実証実験を開始する。
「博物館浴」は、九州産業大学 地域共創学部の緒方泉特任教授が提唱する研究で、博物館見学を通して得られる癒し効果を、人々の健康増進や疾病予防に活用しようとする取り組みだ。森林浴や海水浴と同じように、鑑賞によるリラックス効果、脳の活性化、自律神経の調整、ストレス軽減といった効果を科学的に検証している。海外では英国の「Creative Health」や、カナダ・ベルギー・スイス・台湾などの「博物館処方箋」など、文化芸術施設を健康政策に活用する動きが広がっている。

九州産業大学は2020年9月から全国で実証実験を進めており、国立西洋美術館をはじめ、全国100箇所以上の博物館で1500名以上の科学的データを蓄積してきた。今回の共同研究は、その成果を基盤に、AIを活用して文化芸術体験の効果をより客観的に可視化し、一人ひとりに最適な鑑賞体験を提案する「AI博物館浴」の実現を目指すものだ。


全国8施設・10回の実証実験を322名を対象に実施した結果、ストレス状態が高い参加者の約83%で状態改善または現状維持が確認されたという。自律神経の改善率は85%(変化なし含む)、総合ストレス値であるMSスコアの改善率は49%(変化なし除く)にのぼり、22条件中19条件で鑑賞後にスコア改善が確認された。


今年度の実証実験は、国立西洋美術館(8月21日、9月18日、10月16日のいずれも金曜日の夜間開館時)、おぶせミュージアム・中島千波館(8月22日、23日)、下関市立考古博物館(8月4日)に加え、南阿蘇ルナ天文台、北谷町立博物館などで実施が予定されている。
共同研究では、博物館浴体験前後の自律神経の状態・脳の覚醒度の変化分析、AIによるウェルビーイング変化パターン解析、個別最適な文化芸術体験設計への応用を進めていく。将来的には「今のあなたには、この作品、この展示体験がより適している」といった提案を可能にする「AI博物館浴」の実現を目指す。あわせて、博物館・美術館にとどまらず、企業の健康経営、文化観光・ヘルスツーリズム、スポーツメンタルコンディショニング、学校教育、高齢者のフレイル予防など、幅広い分野への展開も期待されている。
■コメント
・緒方泉(九州産業大学 特任教授)
博物館浴は、文化芸術の力を活かして、人々の健康やWell-being向上に貢献する新しい取り組みです。これまで全国の博物館で実証を重ねる中で、博物館での文化芸術体験が人の心身にポジティブな変化をもたらす可能性が見えてきました。次に私たちが目指しているのは、“AI博物館浴”です。その時の心身の状態や興味関心に応じて、どの作品、どの展示、どの鑑賞体験がより良いWell-beingにつながるかを科学的に導き出し、一人ひとりに最適な文化芸術体験を提案する未来です。今回の共同研究では、Yume Cloud Japanの測定・分析技術も活用しながら、その評価基盤をさらに高度化していきたいと考えています
・吉田大輔(株式会社Yume Cloud Japan 代表取締役)
昨年度の『博物館浴』実証では、文化芸術体験のBefore / After可視化という新しい取り組みに技術面から参加させていただきました。文化芸術の価値は感覚的に語られることが多い一方、AIや生体解析技術によって、その変化をより客観的に可視化できる可能性があります。
今回の共同研究では、九州産業大学が目指される『AI博物館浴』の実現に向け、測定・分析基盤の面から貢献してまいります
・田中正之(国立西洋美術館 館長)
美術館で作品を鑑賞することが、心身の健康に大きな影響を与えると言われています。今回の実験で、美術館が社会的課題解決のために果たせる役割を科学的に明らかにできることを期待しています
・鶴田典昭(おぶせミュージアム・中島千波館 館長)
博物館浴が住民と来訪者のウェルビーイングに寄与することが実証され、博物館の本来の存在理由が日本全国の行政の中で位置づけられることで、「幸せ」を感じる人が増えることを期待します
・濱崎真二(下関市立考古博物館 館長)
児童生徒はもとより、市職員のメンタルヘルス支援や高齢者のフレイル予防に対する効果が定量的に示され、これからの社会におけるWell-beingの実現に向けた施策において、博物館の役割が、新たに位置づけられることを期待します
・高山哲朗(医療法人社団志嵩会かなまち慈優クリニック 理事長/東海大学医学部客員准教授)
博物館浴の血圧やメンタルヘルスへの好影響に大きな期待を寄せています。本研究は、実際の医療現場で使えるエビデンスを創出するための大規模臨床研究の礎になるものと確信しており、今後のさらなる発展を祈念しております
・吉村有司(東京大学先端科学技術センター 特任准教授)
ルーヴル美術館や国立科学博物館で進めてきた、AIとビッグデータによる来館者行動分析と同様に、博物館浴研究は博物館体験をデータに基づいて解明する試みです。来館者の移動軌跡や滞在時間データなどの行動データと心身の変化を統合した、新たな研究展開に期待しています

























