掃除機は「隠す家電」から「置きたくなる家電」へ シャープ『RACTIVE Air』が示した新しい暮らしの提案

シャープが2026年6月、本年度のコードレススティック掃除機「RACTIVE Air(ラクティブ エア)」シリーズを報道向けに発表した。新開発の「極吸ヘッド」を搭載したステーションタイプの新モデルや、シリーズ史上最小の運転音を実現した上位モデル、交換頻度を抑えた紙パック式モデルなど、今年のラインアップは使い勝手の向上を強く意識した内容となっている。
なかでも注目したいのが、新たに投入されたステーションタイプの『EC-CR1』だ。住宅のコンパクト化が進み、掃除機の置き場所に悩む家庭が増えるなか、同モデルはステーションの奥行きを従来機比約47%削減。リビングに置いても圧迫感の少ない薄型デザインを実現した。吸引力や運転時間といった従来の性能競争とは異なる視点から生まれたこの製品には、現代の住環境とライフスタイルに対するシャープの新しい提案が込められている。
リビングに置ける掃除機が求められる時代

ロボット掃除機やコードレススティック掃除機が普及し、掃除は以前よりも手軽になった。しかしその一方で、都市部を中心に進む住宅事情の変化は、新たな課題を生み出している。それが「掃除機の置き場所」だ。
近年のマンションや集合住宅では専有面積の縮小が進み、収納スペースも限られている。便利なコードレス掃除機も、充電スタンドや付属品まで含めると意外に場所を取る。結果としてクローゼットの奥にしまわれ、使いたい時にすぐ取り出せないという状況も少なくない。

今回の発表会でシャープのSmart Appliance&Solution事業本部 清潔ランドリー事業部 国内商品企画部・主任の加藤篤史が語ったのも、こうした住環境の変化だった。『EC-CR1』はステーションの奥行きを154mmまで薄型化し、設置面積も大幅に削減。さらに垂直・水平を基調としたデザインによって、従来の家電らしい存在感を抑えている。実際に展示機を見ると、その印象はこれまでの掃除機とは少し違う。
主張の強い家電というより、家具やインテリアの一部として空間に溶け込むような佇まいだ。掃除機を収納するのではなく、暮らしの中に置いておく。そして汚れに気付いた時にすぐ使う。『EC-CR1』は、そんな新しい掃除との付き合い方を提案しているように見えた。
見た目以上に効果的だった「しまわなくていい」という発想から生まれた構造
そして、便利な自動ゴミ収集機能を維持しながらコンパクトにするため、製品の仕組みそのものを見直す必要があったという『EC-CR1』では、本体に搭載されたモーターひとつで床掃除と自動ゴミ収集の両方を行う「マルチ吸引構造」を採用。これによってステーション側のモーターを不要とし、薄型化を実現している。発表会にも参加していた「家電王」こと中村剛氏に話を聞くと、興味深い言葉が返ってきた。

「みなさんコンパクトさやデザインに目が行きますが、本当に面白いのはその内側なんですよ。モーターに注目するのがポイントなんです」
一見するとデザインやサイズ感が主役に見える。しかし、その暮らしやすさを支えているのは見えない部分の工夫だという。
そこで前述した開発担当者の加藤篤史氏に改めて話を聞くと、苦労したのはまさに中村氏が着目したモーターであり、それを成立させるための制御回路の構築だったという。掃除中と自動ゴミ収集時では求められる性能が異なるため、ひとつのモーターで最適な動作をさせるための調整に時間をかけたそうだ。こうした話を聞くと、今回の薄型化は単なるデザインの工夫ではなく、「しまわなくていい掃除機」を実現するための総合的な設計の成果だったことが分かる。
限られた住空間の中で、性能と省スペース性をどう両立するか。『EC-CR1』には、現代の暮らしに向き合う家電メーカーの試行錯誤が詰まっていた。
気付いた瞬間に掃除できることが、いちばんの価値になる
そして『EC-CR1』で見逃せないのが、スティック掃除機とハンディ掃除機を柔軟に行き来できる点だ。近年は床だけでなく、ソファの隙間や棚の上、テレビ周辺、デスク、さらには車内まで掃除したい場所が広がっている。本体を取り外してハンディクリーナーとして使えることで、掃除の自由度は大きく高まる。


発表会では「汚れに気付いたらすぐ掃除する」という利用シーンが繰り返し紹介されていた。リビングに置かれた掃除機を手に取り、そのまま床だけでなく家具や棚まで掃除する。EC-CR1は掃除機を出す、組み立てる、片付けるという一連の手間そのものを減らそうとしているように見えた。

さらにも、その思想の延長線上にある。壁際にゴミが残る、髪の毛がブラシに絡まる、大きなゴミが吸い込み口で詰まる――。そんな日常の小さな不満を解消するために、「端までブラシ Plus」や「メガマウス構造」、「からみにく~いブラシ Plus」といった工夫が盛り込まれている。
また、上位モデルの『EC-XR3』ではシリーズ史上最小の運転音も実現したそうだ。吸引力を競うだけではなく、掃除そのものをもっと気軽な行為にする。今回のRACTIVE Airシリーズからは、そんな開発思想が伝わってきた。
より、暮らしに寄り添う家電へ

今回のRACTIVE Airシリーズを取材していて感じたのは、掃除機の価値基準そのものが変わり始めていることだ。かつて掃除機は、使う時だけ取り出す家電だった。しかしこれからは、暮らしの風景の中に自然に存在し、気付いた時にすぐ手に取る道具へと変わっていくのかもしれない。
どこに置くのか。どれだけ手間がかからないのか。家族やペットと快適に共存できるのか。そうした生活全体の体験が、家電選びの重要な要素になりつつある。掃除機を隠すのではなく、見える場所に置く。そして気付いた瞬間に手に取り、床も家具もその場で掃除する。
今回のRACTIVE Airシリーズから見えてきたのは、掃除機の進化というよりも、住まいと家事の関係そのものの変化だった。『EC-CR1』は、その変化を象徴する一台として、多くの人の暮らしに新しい選択肢を提示している。






















