YOASOBIなどのMVを手掛ける藍にいなが「インディーアニメ」に挑戦した理由 音楽とアニメーション、そしてAIとの関係性についても語る

チームでの制作と使用ツールの統一化
――使用されている機材についてもお聞きしたいです。過去のインタビューでは、クリスタ(CLIP STUDIO PAINT)で描いて、After Effectsで編集するというスタイルだとおっしゃっていましたが、今でもそれは変わっていないですか?
藍にいな:変わっていないです。その上で、『LUCA』ではAfter Effectsでワンカットずつ作って、最終的にPremiereで繋げるという工程が加わった形です。
――Premiereを使うようになったのはなぜでしょうか?
藍にいな:MVの時は、撮影(光のエフェクトを加えたり色彩のレイヤーを調整したりする仕上げの工程)まで自分でやっていて。そんなに難しい作業をしていなかったこともあって、After Effectsで完結できていたんですけど、今回はプロの撮影さんに入ってもらって、すごく複雑なことをしていただいたんです。それをまとめるために、一つひとつAfter Effectsで書き出したものをPremiereで繋げる作業が必要になったという流れでした。
――プロの力を借りたのは、MVだと長くても5〜6分のところ、今回は12分と尺が長くなったことが大きいのでしょうか?
藍にいな:そうですね。もちろん自分が10人くらいいればいいんですけど(笑)、そうもいかないので。作画についても、今回は15人くらいのアニメーターさんに入っていただきました。これからどんどん長尺の作品を作っていきたいと思っているので、人数を増やしていって、長い分数にも耐えられるチームを作っていきたいなと考えているところです。
――このくらいの規模ならこのくらいの人数が必要だなという感覚は、作ってみる中で初めて摑めてきた感じですか?
藍にいな:漠然と、スタジオと協力したり、自分でチームを作ったりみたいなことが将来的に必要になるんだろうなとは思っていたんですけど、漠然としすぎていてどうしたらいいかわからないみたいな状態だったのが、「この規模感を広げていけば作れるな」と想像できるようにはなりましたね。
――ちなみに今回、12分の作品を仮に1人で作っていたとしたら、どのぐらいかかったと思いますか?
藍にいな:作画だけでも1年か1年半はかかるのかなと。プラス、今回はプロット作りで半年以上かかったので……もろもろ計算するとやっぱり2年、クオリティを上げようと思ったら3年くらいかかっちゃうのかなと思いますね。背景美術とかもありますし、1人で完結させるのは大変だろうなと思います。
ポップミュージックからの影響とショート動画時代の長編作り
――音響まわりのお話も聞かせてください。今回、Ayaseさんが手がけられている音楽ですが、にいなさんとしてはどのような点にこだわられたのでしょう?
藍にいな:先程話した「日常的なことを描いているけど非現実的」みたいな部分は、音響面でより高めてもらったところです。今回はクラシックのピアノがお話のキーになっているので、ところどころで実際のクラシックのフレーズを入れていたり、あえてガラスとか水とか、もう少し抽象的なものに落とし込んだ音を入れてもらったりもしています。
――そのAyaseさんが手がけた『マジカルミライ2023』のテーマソング「HERO」のMVを手がけた際に、にいなさん自身もボカロカルチャーにルーツがあるとおっしゃっていました。ボカロって、音楽を作る人と映像を作る人が密に、個人単位の小さなチームとして作品を作ることが多いですよね。MV制作で音楽家の方と仕事することになった際に、昔からそういった文化に触れていたことでやりやすかった面などはありますか?
藍にいな:イメージはしやすかったのかなとは思いますね。やっぱりボカロって基本的にMVはアニメーションかイラストなので。中学生ぐらいから「この曲のイラストを描きたいな」と思ったりしていましたし、自然に入っていけたのかなと。

――米津玄師さんからの影響が大きいということも別の記事でおっしゃっていたと思うんですけど、米津さんって、ハチ時代には自分で絵も描いて音楽も作られていたじゃないですか。そういった、音楽も映像も自分で作るアーティストへの憧れもあったのでしょうか?
藍にいな:ありましたね。実は私、中学時代は絵よりも音楽を作ってる時間のほうが長かったんです。ずっと音楽ソフトとボカロをいじりながら色々作ってみるみたいなことをしていて。
――DAWで音をタイムライン上で操作することは、当時からされていたわけですね。
藍にいな:そうですね。
――MVの仕事を手がける中で、音楽家の方と密にやり取りする機会もあると思います。その中で、考え方や視点が違うな、とハッとさせられた経験ってありますか?
藍にいな:むしろ根本は一緒だなと思うことが多くて。作っているものは違うけど、やっぱりクリエイターなので、興味があることだったり考え方は結構みんな通ずるものがあるなと。その上で、多くの人に届けるためにはどういう形にしたらいいのかをより強く考えている方が多いなという印象はあります。言葉と音があって、伝わるスピードが速い分、すごく多くの人に届く媒体だからだと思うんですけど。
――「ポップとアートの中間領域を担っていきたい」というお話も以前されていたと思うのですが、音楽に親しんできたことも、そういった志向性と関連しているのでしょうか。
藍にいな:そうですね。ポップミュージックの大衆性を、すごく強固なものだなと感じてきたので。ちゃんといろんな人に伝わる形で、かつ作家性を保った作品を作りたいというマインドは、音楽を聴いて、音楽を作られている方のインタビューも読んだりしながら培われてきたのかなと思います。
――音楽ってショート動画の流行もあって、大衆的なものほど尺が短くなっているじゃないですか。SNSやサブスクの普及でコンテンツの総量が増えて、今後はAIが大量に生成したコンテンツとも競合しなければいけなくなる中で、まず入口に立ってもらうための「短尺化」は映像作品においても無視できないトレンドだと思います。これから長編を作っていくにあたって、にいなさんはどのような点を意識して届けていきたいと思いますか?
藍にいな:大前提として、時間が長くなると、そのぶんお客さんの時間を拘束することになるから、大衆性を備えていないと難しいですよね。ただ、そもそも大衆的なものって、個の意識が弱くなるという意味で、突き詰めるとAIが作れるものに近づいていってしまうと思うんです。
なので、これからはむしろ長編であるほど、「これってこの人にしか作れないよね」というものを作っていくことが大事になっていくんだろうなと。『LUCA』を作っている時にも、「流行りを意識しない」とか、「わかりづらくても、自分の今一番描きたいところをピンポイントに描く」とか、「大衆的に響くものにするために、個人性を薄めない」とかいったところはすごく意識しました。
その上で、映画の世界でも縦型のショートムービーのような形式の存在感が増しているので、そういった変化に順応していくことも必要だと思っています。『LUCA』も最初からYouTubeで公開する予定だったので、展開をめちゃくちゃ詰めてるんですね。ナレーションが始まってすぐに音楽が始まって、セリフとセリフの間もかなり詰めているし、「YouTubeで観るならこのぐらいのテンポ感であるべきだろう」というのはかなり意識していて。なので今後長編を作ることになっても、そういった意識は持ったまま制作することになりそうだなとは思っています。

















