NANAのテック・アルテミス 仕事に役立つBizテック観測所(第25回)
Meta、Google、Appleはどう動く? AIスマートグラスの現在地と未来
テック業界に身を置く筆者として正直に語ると、かつてのスマートグラスはどうしても「試作品感」があった。機能を詰め込む一方でデザインや装着感には無理があり、日常使いには少し距離が感じられたからだ。
ただここ数カ月、AIスマートグラス関連の記事を書く機会が一気に増えたことで印象は大きく変わった。新進気鋭メーカーの『Rokid』や眼鏡の聖地と知られる福井・鯖江発の『SABERA』、そして約3ヶ月の長期実践レビューした『Even G2』。これらに触れてみると「未来のガジェット」という印象はかなり薄れてきていると感じる。
なぜなら最近のAIスマートグラスは便利な機能を搭載しつつも、見た目やかけ心地まで含めて、普通のメガネに近づいてきているからだ。以前のような「未来のデバイス感」は薄れ、「日常の中で自然に使える」方向へと進化しているといえるだろう。
「普通のメガネ」に近づいたAIスマートグラス
これらの最新AIスマートグラスの大きな特徴は、見た目がガジェットしすぎていないことだ。
たとえば『Even G2』は、カメラもスピーカーも搭載しないシンプル設計を採用している。重量は約36g前後と軽く、チタンフレームのおかげで長時間装着していても負担が少ない。視界には小型HUD(ヘッドアップディスプレイ)が表示され、通知や翻訳、テキスト情報を自然に確認できる。
『SABERA』もカメラ非搭載という方向性を選び、日常利用やプライバシーへの配慮を重視した製品だ。国産ブランドらしく、日本語環境への最適化や自然な装着感にも力を入れており、「毎日かけ続けられるAIスマートグラス」を目指した思想が見えてくる。
『Rokid』は、リアルタイム翻訳やナビゲーション、文字起こしといった機能を視界に表示できるほか、カメラを搭載している点も特徴で、AIによる視覚認識を活かした機能展開も視野に入れている。スマートフォンを取り出して確認する場面が減る感覚もある。
どの製品にも共通しているのは、「未来の特別な道具」ではなく、「普段使いのメガネ」に近づいていることだ。
朝にかけて外出し、そのまま夜まで使う。そうした使い方が少しずつ現実になってきた。たとえば装着していることを意識しないレベルまで軽量化やデザインが進んだ点は、このジャンルにおける大きな変化だと思う。
先日、激しい雨の中、取材で初めて訪れる会場へ向かう機会があった。しかし、『Even G2』のおかげで視界にナビゲーションが表示され、傘と荷物で両手が塞がっていても、スマートフォンで地図アプリを確認することなくスムーズに目的地までたどり着けた。とても助けられた場面だった。
AIスマートグラスという言葉を聞くと、漫画やアニメに登場する近未来デバイスを思い浮かべる人も少なくない。以前は「いつか実現するかもしれない存在」だった。
だが今は違う。実際にかけて街を歩き、通知を確認し、翻訳を使って別の言語同士で会話する。空想の世界にあったものが、現実のプロダクトとして形になり始めている。まさに「想像」から「創造」のフェーズへ入りつつある。
Meta、Google、Appleはどう動くのか
この流れは、スタートアップだけで終わらない。今後の市場で特に注目されているのが、Meta、Google、Appleの3社の動向だ。
まずMetaは、すでに先行ポジションを築いている。『Meta Ray-Ban Display』は、AIスマートグラスを「普段使いできるデバイス」として広く浸透させた存在だ。テック好き向けの機器に留まらず、普段使いできるアイウェアとして浸透させた意味は大きい。
また、2026年4月には「数ヶ月以内に日本を含む国際市場への展開拡大を計画している」とも案内しており、日本語対応の強化とあわせて、日本市場への本格投入にも期待が集まっている。
GoogleもGeminiを軸に、AIスマートグラス分野への本格参入を進めている。同社は近年、「生活に自然に溶け込むAI」を強く打ち出しており、その流れはメガネ型デバイスとも相性がいい。ファッションブランドとの提携も進んでおり、より洗練されたアイウェアとして展開していく方向性が見えてきた。
そしてAppleも、この市場を静観しているわけではない。『Apple Vision Pro』では「空間コンピューティング」を強く押し出した一方で、サイズや価格は一般ユーザーへの普及における課題として残った。だからこそ、次はより軽量で日常寄りのAIスマートグラスへ向かう可能性が高いという噂もあがっている。
もしAppleが本格参入すれば、市場全体の空気が一気に変わる可能性もある。スマートウォッチやワイヤレスイヤホンと同じように、「一部のガジェット好きだけの製品」から、「誰もが身につけるデバイス」へ変化するタイミングが来るかもしれない。
情報は「見る」から「視界に現れる」時代へ
AIスマートグラスが広がると、情報との接し方そのものが変わっていくはずだ。スマートフォンは、取り出して、画面を開き、操作する必要がある。だがAIスマートグラスは、視線や音声を通して、より自然な形で情報へアクセスできる。
歩きながら翻訳を確認する。会議中にリアルタイムで文字起こしを表示する。目の前の商品情報をその場で確認する。そうした体験は、すでに一部では実現し始めている。
もちろん課題も残っている。カメラ搭載モデルに対するプライバシーへの不安、バッテリー持続時間、周囲からどう見られるかという問題、AI精度のばらつき。どれも簡単に解決できるテーマではない。
それでも、ここ1〜2年で進化のスピードは明らかに加速している。実際に『Even G2』や『Rokid』を試してみると、「もうここまで来たのか」という感覚のほうが強い。
かつては想像の中にあった世界が、少しずつ現実になり始めている。こうしたデバイスが本当に定着するかどうかは、実際に使うユーザー側の受け入れ方にもかかっている。
メガネをかけるだけで、情報との距離が変わる。そう、例えば会議中にペンを手に取り、メモを残す必要がない世界が。それは、思っている以上に近くまで来ているのかもしれない。