「入力体験」への執念が生んだ結晶 FMVのDNAを現代に再構築するキーボード『FMV Keyboard X』

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は、新型キーボード『FMV Keyboard X』を発表した。現在、クラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で支援募集を行っており、一般販売予定価格は税込2万9700円。製品の発送は2026年9月中旬を予定している。

 本製品は、FCCLが販売する個人向け単体キーボードとしては第3弾に当たる製品。「Lifetime Comfort」をコンセプトに、日本の住環境やビジネスシーンに最適化して開発したコンパクトキーボードだ。

 今回の支援募集の開始に先立ち、メディア向けに発表会を実施。まずはFMVキーボードマイスターの藤川英之氏が製品について紹介した後、ゲストとしてガジェット編集者かつガジェットインフルエンサーとしても知られる矢崎飛鳥氏が登壇し、藤川氏とスペシャル対談を実施した。

ラピトリ&ガスケットマウントで高速入力と静粛性を実現

 『FMV Keyboard X』の大きな特徴のひとつが、一般的なビジネス向けキーボードでは珍しい磁気スイッチ(ホールセンサー方式)を採用した点。キーの押し込み量を磁気の変化として検知する仕組みにより、「キーがどの程度沈んでいるか」を0.1mm単位で把握できる。

 この特性を活かして実現されているのが、ラピッドトリガー機能だ。キーの沈み込み量をリアルタイムで検知できるため、押下・リリースのどちらも素早く反応し、入力のオン/オフを瞬時に切り替えられる。

 これにより、次の入力への移行がスムーズになり、高速なタイピングでもリズムを崩しにくい。もともとはゲーミング用途で知られる機能だが、本製品では文章作成や事務作業における入力効率の向上を狙って採用されている。

 一方で、ラピッドトリガーは反応の速さゆえに、慣れないうちは入力がシビアに感じられる側面もある。そこで本機では、単に機能を搭載するだけでなく、用途に応じて選べる3種類のプリセットを用意した。

 FMVノートPCに近い打鍵感を再現した「おすすめ入力」、軽いタッチで素早く入力できる「ライト入力」、しっかりと押し込む感覚を重視した「ハード入力」といった設定が用意されており、違和感なく使い始められるよう配慮されている。

 さらに、各キーごとに0.1mm単位で調整できる詳細設定にも対応。ユーザーそれぞれの指の力やタイピングの癖に合わせて、「自分専用の打ち心地」を追求できる設計となっている。

 加えて、静音性へのこだわりも本製品の核となる要素だ。独自開発の静音スイッチによって、底打ち時とリリース時の両方のノイズを抑制。さらにガスケットマウント構造を採用することで筐体内の反響音を抑え、「コトコト」とした落ち着いた打鍵音に仕上げている。

 市販スイッチを流用せず、あえて独自開発に踏み切った理由について、藤川氏は「集中できる環境」を重視した結果だと説明する。静音性は誰にも気を遣わずに作業へ没入するための前提条件だという考えだ。

 開発初期には、「磁気スイッチはもともと静かであり、これ以上の静音化は差別化にならないのではないか」という見方もあったという。それでも既存の常識にとらわれず試作を重ね、3度以上の改良を経て現在の静音性にたどり着いた。周囲を気にせず使える打鍵環境は、「Lifetime Comfort」というコンセプトを象徴する要素のひとつだ。

 日本語入力に最適化された配列もポイント。かな表記なしのJIS配列を採用し、カーソルキーは独立配置とするなど、ノートPCライクな操作感を重視。アルミ切削のトップカバーや、指なじみと耐久性を両立したソフトフィール塗装のキーキャップなど、質感への配慮も抜かりない。サイズは約299mm幅のコンパクト設計ながら、実用性を犠牲にしないバランスに仕上げている。

矢崎氏も絶賛するFCCLの日本語入力へのこだわり

ガジェットインフルエンサーの矢崎飛鳥氏

 発表会の後半では、ゲストとして登壇した矢崎氏からFMVのキーボードの開発のきっかけとなったエピソードが語られた。

 長年、ガジェット編集者としてPC業界を見てきた矢崎氏は、富士通(現FCCL)のキーボードについて「日本語入力へのこだわりを長年積み重ねてきた」と評価。その上で、2018年頃に「このキーボード体験をPC購入者だけに限定するのはもったいない」と感じ、当時のFCCL社長に単体製品化を強く提案したという。この一言が社内の動きを加速させ、現在のプロジェクトに至っている。

FMVキーボードマイスターの藤川英之氏

 さらに対談では、AI時代におけるキーボードの役割にも話題が及んだ。音声入力や生成AIの活用が広がる中で、矢崎氏は「AI時代になっても日本語を入力することはなくなりそうにない」と指摘する。

 これに対し藤川氏も、AIとの対話においてこそ入力の精度が重要になると応じた。「AIとチャットするにしても、正確に正しい言葉を伝えていく。そのやり取りをきちんと成立させるためにも、入力は欠かせない」と語る。

 利便性の高い新しいインターフェースが登場しても、意図を過不足なく伝えるための手段として、キーボードの価値は揺らがない。むしろ、思考を言語化し、相手に正確に届けるためのインターフェースとして、その重要性は増していく。

 対談の締めくくりでは、キーボードはこれからも技術の積み重ねによって進化し続ける存在であり続ける、という認識が共有された。

 『FMV Keyboard X』は、発表会時点(4月)でのソフトウェアや実機はまだ「バージョン0.1」のような段階であり、これから製品の発送時期である9月に向けて、さらなる調整や作り込みが行われる予定だ。

 派手な機能で目を引くのではなく、「入力体験そのもの」をどこまで高められるかに主軸を置いた本製品。その思想は、対談で語られた日本語入力へのこだわりや開発背景とも明確に重なる。

 これからの数カ月を経て、その価値がどこまで実用レベルで結実するのか。成熟したキーボード市場に対するひとつの問いとしても、動向を追う価値がある一台だ。

FMVの技術を結集した高性能キーボード『FMV Keyboard X』 磁気スイッチ×静音設計でクラウドファンディング開始

FCCLが磁気スイッチ方式採用の高性能コンパクトキーボード『FMV Keyboard X』のクラウドファンディングを4月8日より…

関連記事