“格安スマホ”の枠を超え、次なる10年へ mineoが「音声フルMVNO」で目指す「共創プラットフォーム」としての進化
2026年1月27日、株式会社オプテージはモバイル事業の中長期戦略発表会において、二つの大きな挑戦を発表した。一つは、au回線において国内初となる「音声フルMVNO」への参入。もう一つは、異業種のモバイル事業参入を支援するプラットフォーム「MVNO Operation Kit」の提供開始だ。
2014年のサービス開始から10年以上が経過し、契約回線数137万(2025年時点)を抱える独自系MVNOの雄は、なぜ今、巨額の投資を伴う「フルMVNO化」と「プラットフォーマー化」へ舵を切るのか。株式会社オプテージ モバイル事業推進本部 モバイル事業戦略部 部長の松田守弘氏、同部 モバイル事業統括チーム チームマネージャーの合田慎氏、同チーム マネージャーの藤井啓治氏に、その真意と勝算を聞いた。(編集部)
「今から一緒に革命を起こせる、そのプロセスに参加できる」というワクワクを
ーーまずは「音声フルMVNOへの参入」について、既存のライトMVNOからフルMVNOへ移行する、しかもこれまでのデータ通信だけでなく音声通話まで自社でコントロールするというのは、経営判断として非常に大きな決断だったはずです。水面下ではどのような準備が進められてきたのでしょうか。
松田:音声フルMVNO自体の検討が始まったのは、およそ4、5年前になりますね。「音声フルMVNOになったらまず何ができるのか」という根本的な議論からスタートしました。特に音声通話を自社で扱うことについては、オプテージとしてFTTH(光ファイバー)事業の中で固定電話サービスを提供してきた実績があり、電話に関する一定のノウハウを持っていたことが背景にあります。そこから「音声もできるのではないか」という社内の機運が高まり、調整が始まりました。
その後、具体的にどう接続するかという点でKDDI様と協議を重ねていくわけですが、その過程では「これはどうしたらいいんだ」と頭を抱えるような大きな課題も次々と出てきました。それらを一つひとつ解きほぐし、解決策を見つけていく作業の連続でしたね。ようやく技術的に「いける」という確証が得られ、KDDI様に正式に申し入れができたことで、今回の発表に至りました。
ーーその中で最大のボトルネックとなったのは、やはり「音声」の部分でしょうか。
合田:おっしゃる通りです。先ほど松田が申し上げたように固定電話での知見はあるものの、モバイル特有の技術的課題は非常に大きかったです。移動体であること、多種多様な端末やIoTデバイス、OSとの組み合わせ、そして総務省が定める通信品質の遵守など、固定系とは異なるモバイルならではの難しさがありました。それらをいかにクリアしていくかが一番のハードルでしたね。
ーーKDDI(au)回線での音声フルMVNO実現は「国内初」とのことですが、なぜ他社に先駆けて実現できたのでしょうか。
松田:一番大きかったのは、私たちが最初から「将来的にはマルチキャリアでやりたい」という明確なビジョンを持っていたこと、そしてKDDI様もまた、新しいチャレンジに対して前向きに応じてくださったことだと思います。
もちろん交渉は簡単ではありませんでしたが、オプテージとして固定通信事業の実績があり、技術的な信頼関係があったことも有利に働いたかもしれません。何より、「これまでにない選択肢をユーザーに提供したい」という両社の思いが合致した結果だと考えています。
ーーサービス開始は「2027年度下期」を予定されています。発表から約2年という期間がありますが、通信業界における2年は非常に長く、技術トレンドも激しく変化します。この「空白の2年」をどう過ごし、どのような布石を打っていく計画でしょうか。
合田:構想開始から構築が見えるまで数年かかっていますが、実際に設備を作り始めるのはこれからです。音声交換機や加入者管理装置(HLR/HSS)といった巨大な設備を構築し、相互接続試験を行うには、どうしても物理的な時間がかかります。
しかし、単に構築と検証だけをして2年間を過ごすつもりはありません。mineoの最大の持ち味は「共創」です。これまでもユーザーのみなさまと対話を繰り返し、アイデアやサービスを作り出してきました。今回の発表を経て、ユーザーのみなさまと「フルMVNOで何ができるか」を対話できる準備がようやく整いました。この期間を使って、ユーザーの声を反映させたサービスを一緒に作り上げていきたいと考えています。
ーーまさにその「共創」こそがmineoのアイデンティティだと思います。サポートコスト削減のためにコミュニティを作る企業は多いですが、mineoのようにブランドの根幹に据えている例は稀有です。なぜここまでユーザーコミュニティが活性化し、機能しているのでしょうか。
松田:「お客さまと一緒に作る」という姿勢を、私たちが本気で示し続けてきたからだと思います。言葉を選ばずに言えば、お客さまと「付き合う」という上から目線のスタンスではなく、真摯に向き合う。時には厳しいご意見もいただきますが、オフ会で直接お会いしたり、コミュニティサイト「マイネ王」の「アイデアファーム」などを通じて声を拾い上げたりしています。
いただいたアイデアは、役職者が集まる会議で一つひとつ検討しています。「これは無理だな」と思うものも含めて、「こうすれば実現できるのではないか」「これとこれを組み合わせたら面白い」と真剣に議論する。そして、実現が難しい場合は「なぜ難しいのか」も含めて本音でフィードバックする。そうした泥臭い積み重ねが信頼関係を生み、「意見を言えば聞いてくれる」「自分たちのサービスだ」という愛着につながっているのだと思います。
ーーオープンソースのコミュニティ運営に近い感覚ですね。モデルケースなどはあったのでしょうか。
藤井:立ち上げ当初、イギリスの「giffgaff(ギフガフ)」という携帯電話事業者を視察しました。彼らは店舗を持たず、サポートもコミュニティ内でのユーザー同士の助け合いで完結させるモデルで成功していたので、同社を参考に「マイネ王」を立ち上げました。日本国内でここまで徹底してやっている通信会社は珍しいかもしれません。
ーーそのコミュニティの力を借りて、これからの2年間で「音声とデータの融合」など新しいサービスを模索していくわけですね。
松田:はい。実は発表会のあった1月27日の夜にも、ユーザーのみなさま向けの生配信を行いました。そこでも「こんなことはできるのか」といった熱いご意見をたくさんいただき、手応えを感じています。まだサービス内容はフルで決まっているわけではありません。ユーザーのみなさまには「今から一緒に革命を起こせる、そのプロセスに参加できる」というワクワク感を感じていただければ嬉しいですね。
ーー音声フルMVNOになることで、具体的にどのようなサービスの再設計が可能になるのでしょうか。発表会では「音声とデータのメディアの違いを超えた融合」という言葉もありましたが。
合田:現時点ではまだアイデアレベルですが、音声通話の柔軟性が飛躍的に高まります。これまでのライトMVNOでは、MNOから卸提供される「通話機能」の有無や、「かけ放題」などの定型のオプションを売ることしかできませんでした。
音声フルMVNOになれば、例えば「パケット放題 Plus」や「ゆずるね。」のように、音声通話においても「余った通話時間を誰かとシェアする」「困った人を助ける」といったコミュニティと絡めた仕組みが作れるかもしれません。また、特定の人との通話が多い方向けのプランや、月ごとの利用変動に合わせた柔軟なプランなど、画一的な「かけ放題」ではない選択肢も提供できるでしょう。
合田:電話番号自体をサービス化することも考えています。現在はランダムに割り当てられていますが、例えば「記念日に合わせた番号」や「覚えやすい番号」など、番号を選ぶこと自体に価値を持たせることも可能になるはずです。「電話をどう使いたいか」という原点に立ち返り、mineoらしい独創性のある価値を生み出していきたいですね。
ーーMNO各社がサブブランドを強化し、価格競争も激化しています。その中で「独立系MVNO」として生き残るためのポイントはどこにあるとお考えですか。
松田:価格競争だけで戦うのではなく、「独自性」と「納得感」だと思っています。安さはもちろん重要ですが、それ以上に「自分にとってちょうどいい」「かゆい所に手が届く」サービスであることが重要です。
これまでのmineoは、ある意味で「安かろう」からスタートし、そこにユーザーが必要とするオプションを足していくことで満足度を高めてきました。しかし今後は、音声フルMVNOという基盤を活かし、最初から「これ一つで十分」と思えるような、高品質かつユニークなサービスを提供したい。まずはそのサービス自体の魅力でmineoを知っていただき、そこからコミュニティの熱量に触れてもらうことで、ファンになっていただく。その循環を作ることが生き残り、さらなる成長への鍵だと考えています。
個人でも法人でも“共創”を続け、「なくてはならない存在」になりたい
ーーもう一つの柱である「MVNO Operation Kit」についてもお聞かせください。異業種の参入を支援するこのサービスは、見方によっては「自社のライバルを自ら増やす」ことにもなりかねません。社内ではどのような議論があったのでしょうか。
松田:おっしゃる通り、競合が増える側面は否定できません。しかし、mineo単独ですべての国民にサービスを届けることは不可能です。
「MVNO Operation Kit」を通じて、私たちが通信インフラと運用ノウハウを裏方として提供することで、異業種企業の皆様が持つ顧客基盤やブランド力を活かした通信サービスが生まれます。それによって、これまでmineoがリーチできなかった層にも間接的にサービスを届けることができる。これは単なる競争ではなく、市場全体のパイを広げる取り組みだと捉えています。
ーーB2C(mineo事業)からB2B(MVNO支援事業)へ軸足を移していく、ということなのでしょうか。
松田:軸足を移すというよりは、両輪を回していくイメージです。個人のお客様には、引き続きmineoとして共創を通じたサービスを提供し、ブランドを磨き上げていく。一方で、法人のお客様には「MVNO Operation Kit」を通じて、新たなビジネスを共創するプラットフォームを提供する。
私たちが目指すのは、個人向けでも法人向けでも「共に創る」という姿勢です。mineoというブランド名が表に出なくても、その裏側で私たちが通信を支え、社会の様々な課題解決に貢献している。そんな「なくてはならない存在」になりたいと考えています。
ーー具体的に導入を検討されている企業として、株式会社日宣や株式会社ジャパン・セキュリティシステムなどの名前が挙がっていましたが、どのようなシナジーを期待されていますか。
松田:たとえば、監視カメラを展開するジャパン・セキュリティシステム様の場合、これまではカメラの「売り切り」がビジネスの中心でしたが、通信機能とクラウド録画をセットにしたサブスクリプションモデルへの転換を模索されていました。
ただ、自社で通信インフラを構築し、毎月の課金請求システムまで整備するのは、セキュリティ業界の方々にとって非常にハードルが高い。そこで私たちが「MVNO Operation Kit」を提供することで、通信回線だけでなく、バックオフィス機能も含めたパッケージとして導入いただける。これにより、彼らは本業であるカメラやソリューションの開発に集中でき、かつ短期間で新ビジネスを立ち上げることが可能になります。
藤井:日宣様のようなメディア・広告関連企業であれば、特定の趣味やジャンルに特化した「ファン向けSIM」のような展開も考えられます。エンタメや「推し活」と通信の組み合わせは、mineoのコミュニティ運営の知見とも非常に相性が良い。通信そのものではなく、その先にある「体験」や「つながり」を価値にする、新しい通信の形が生まれてくることを期待しています。
ーー最後に、これからのmineoが目指す未来について教えてください。2027年のサービス開始以降、どのようなキャリアになっていたいとお考えですか。
松田:これまでの「Fun with Fans!」という価値観は変わりませんが、それをさらに拡張していきたいですね。mineoというブランドを知っている人も知らない人も、気づけばmineoのプラットフォームの上で生活が豊かになっている。そんな「社会のインフラ」としての役割を果たしていきたいです。
ユーザーコミュニティについても、もっと多様な人が集まる場にしていきたい。通信に詳しい「玄人」だけの場ではなく、推し活や趣味を通じて集まった人たちが、結果として通信についても語り合うような、よりオープンで活性化したコミュニティを目指します。
松田:音声フルMVNOとOperation Kit、この二つが動き出すことで、mineoは単なる「格安スマホの会社」から、「共創で価値を生み出すプラットフォーマー」へと進化します。2年後のサービス開始に向け、スピード感を持って、かつ品質には万全を期して準備を進めていきますので、ぜひ期待していてください。