小笠原流・実践レビュー 現代の傑作品を訪ねて(第9回)
エレコムの新モバイルバッテリーに採用された「半固体電池」とは何か 「出遅れ」の背景に安全への高い検証基準

モバイルバッテリーの発火事故がたびたび報じられるなか、安全性への関心はかつてないほど高まっている。そんな中、エレコムが「半固体電池」を採用した次世代モバイルバッテリーの発売を3月より順次開始すると発表した。
半固体電池を採用したことで、従来の液体リチウムイオン電池よりも発火リスクを低減し、寿命面でも従来比約4倍となる約2,000回の充放電サイクルを実現するといった特徴がある。
しかし、「半固体電池」を採用した次世代モバイルバッテリーにおいて、エレコムが先行しているわけではない。すでに一部メーカーから製品が登場しており、同社は自らを「他社より遅れた」と位置づけている。その背景には、安全性を最優先とし、自社で定めた厳格な基準を満たすまで製品化を見送ってきたという事情がある。
そもそも「半固体電池」とは何か

「半固体電池」という言葉について、まだ聞き慣れないという人も多いだろう。ここでは改めて、半固体電池とはどのようなものなのかを整理しておきたい。
現在、モバイルバッテリーに広く使われているリチウムイオン電池は、内部に「液体」の電解質を持つ。エネルギー密度が高く、小型・軽量化しやすいというメリットがある一方で、強い衝撃や内部ショートが起きた場合、可燃性の電解液がガス化・噴出し、引火するリスクを抱えている。いわゆる「熱暴走」が起きると、急激な温度上昇によって発火するケースもある。
そのリスクを低減するため、この電解質を液体ではなく「ゲル状(ゲルポリマー型 )」にしたものが半固体電池だ。
一部、電極に練り込むクレイ型や固体(セラミックなど)に少量の液体を染み込ませた液添加型もあるが、モバイルバッテリーではほとんどがゲルポリマー型を採用している。
電解質をゲル状にすることで可燃性成分の揮発を抑え、ガスの発生や放出を減らす。さらに、内部で発生した熱を一点に集中させず、分散しやすい特性があるため、温度が制御不能に上昇する状態になりにくい構造となっている。
また、筐体が破損しても液漏れしにくいため、物理的な圧力や衝撃に対する耐性を高めやすいのも安全性を高める上での重要なポイントだ。
- 液体電池:電解質が100%液体のもの
- 半固体・準固体電池:電解質をゲル状にしたもの
- 全固体電池:電解質に液体成分を含まず、正極と負極を分けるセパレーターも不要な構造のもの
なお、「半固体電池」という呼び方には、業界共通の明確な定義があるわけではない。メーカーごとに基準や表現が異なり、独自の判断で「半固体電池」や「準固体電池」と呼んでいるのが実情だ。

その上で、エレコムでは自社の「半固体電池」を、次の2つの条件を満たすものと定義している。
ひとつ目は、電解質が「ゲル状」であること。従来のリチウムイオン電池では、リチウムイオンが移動するための電解質は液体だが、エレコムの半固体電池ではこれをゲル状(半固体)にしている。
ふたつ目は、独自の試験で高い安全性が確認されていること。従来のリチウムイオン電池と同じ条件で各種試験を行い、高い安全性が確認できたものだけを半固体電池としている。
エレコムが公表した試験では、特に過酷とされる「釘刺し試験」において、従来品が発火した条件下でも発火は確認されなかったという。また、ズボンの後ろポケットに入れたまま座るといった、日常的に起こり得る圧力を想定したテストでも安全性を確認したとしている。
「半固体電池」を採用したエレコムの新型モバイルバッテリー、さっそく実機を試してみた

エレコムが投入する新製品は10,000mAhと、5,000mAhの2種類がラインナップされてお り、今回は10,000mAhのものを試すことができた。
サイズは幅70mm × 奥行19mm × 高さ114.6mmで、重量は約220g。従来のリチウムイオン電池を採用したモバイルバッテリーに比べると同等か少し重いくらい。10,000mAhもあれば、スマートフォンなら約2〜3回ほど充電することが可能だ。

搭載する充電ポートは、USB Type-Cが2口、USB Type-Aが1口。このうちType-Cは入出力の両方に対応する。出力は単ポートで最大35W、複数ポートを使用した際には合計で20Wに抑えられる仕組みだ。スマートフォン、タブレット、パソコン、スマートウォッチなど最大で3台同時に充電できる。また、モバイルバッテリーを充電しながらスマートフォンを充電することもできた。

最大出力が35Wということで、ノートPCなど高出力を必要とするデバイスでは少々パワー不足かもしれないが、スマートフォンなどの大きな出力を必要としないデバイス用としては十分なスペックだろう。
半固体電池になったことで、充放電サイクルが従来の約500回から約2,000回へと大きく伸びているのも特徴のひとつだ。さらに充放電回数を記録し、劣化状態をLEDで可視化する「Health Monitor」機能も搭載しており、目視でバッテリーの劣化具合を確認することが可能だ。
- 消灯(〜約250回):安定した状態
- 青色(約251〜500回):性能低下が始まる段階
- オレンジ色(約501回〜):買い替え推奨
表示は消灯・青・オレンジの3段階で、約500回をひとつの目安としてユーザーに知らせる仕組みだ。実際の電池寿命はそれ以上であっても、経年劣化を考慮し、安全側に余裕を持たせた設計となっている。
また、使用できる温度の範囲は、従来モデルの0~40℃から-15~45℃へと広がっている。猛暑や寒冷地など、従来モデルでは不安が残る環境下でも、安定した動作が可能なのも半固体化による恩恵だ。
なぜエレコムは「出遅れた」のか

半固体電池を採用したモバイルバッテリーはすでに一部メーカーから発売されており、エレコムは後発となる。「他社はすでに製品化しているのに、なぜ今なのか」と感じる向きもあるだろうが、冒頭に説明したように、その背景には同社が独自に設けた厳格な安全基準に基づく慎重な判断があった。
同社によれば、半固体電池モバイルバッテリーの開発は2024年秋ごろに始まった。当初は早期投入を目指していたものの、量産直前の最終試験で想定外の結果が出たという。
採用予定だった電池を厳格な条件で再評価したところ、従来の液体リチウムイオン電池と比較して、安全性に明確な差が確認できなかった。さらに、独自に設定したより過酷な試験では発火も確認。半固体を名乗っていても、同社の基準では十分とはいえないと判断し、電池の選定から設計、評価までを全面的に見直した。
電池工場の選定も難航した。他社で採用実績のある工場であっても、エレコムの品質管理・監査基準を満たさないケースが多く、候補先を精査する必要があったという。

エレコムは、市場に出回る半固体・準固体電池を独自に分解・検証した結果、自社の基準を満たしたものは約2割にとどまったとしている。前述のとおり、半固体電池には業界で統一された明確な定義がない。どこまでを「半固体」と呼ぶのかが曖昧なまま、マーケティングワードとして先行している側面もある。
同社では「電解質がゲル状で、従来電池より高い安全性が実証されたもの」を半固体電池と位置づける。液体成分を完全に排した全固体電池は理想形とされるが、コストや量産性の面でハードルが高い。そこで安全性と軽量・コンパクトさのバランスを取れる現実的な選択肢として、半固体電池を採用したというわけだ。
エレコムは今後、ケーブル一体型や20,000mAhクラスの大容量モデルにも半固体電池を展開していく計画だ。ただし、スマートフォンに直接差し込むタイプなどで使われる円筒型電池は、現時点では半固体化が難しいため、半固体にこだわらず、より安全性の高い電池へ切り替えることで、製品カテゴリー全体で発火リスクゼロを目指すとしている。
モバイルバッテリーは「利便性」だけでなく「安心」を競う時代に

近年、電車内でモバイルバッテリーが発煙・発火する事例が報じられるなど、公共交通機関内での発火事故が相次いでいる。さらに、国土交通省は国際民間航空機関(ICAO)のルール改正に合わせ、2026年4月頃から航空機内でのモバイルバッテリー使用を原則禁止する方針を固め、飛行機内でのモバイルバッテリーの使用は実質的にできなくなる見通しだ。
将来的には、発火リスクの低い半固体電池モバイルバッテリーが普及することで、こうした事故は少なくなるだろう。ただし、すべてのユーザーが安全性の高いモバイルバッテリーに切り替えるには相当な時間がかかるため、規制強化の流れは少なくとも当面続く見通しだ。
一方で、市場規模を見ると、世界のモバイルバッテリー市場は2025年に約250億米ドル規模、2026年には260億米ドル超、2030年頃には320億米ドル規模へと年平均5%前後で成長すると予測されている。日本国内でも、スマートフォン出荷台数の回復や急速充電需要を背景に、2033年頃まで年平均6%超の成長が見込まれている。(※Market Research Future (MRFR) -「Mobile Power Bank Market/2026年2月」より)
こうした市場拡大の中で、半固体電池は「安全性」を軸にした新たな差別化技術となる可能性が高い。価格の安い無名メーカーの製品ではなく、信頼できるメーカーの製品を選ぶ重要性は、これまで以上に高まっていくだろう。モバイルバッテリーの進化は、「利便性」だけでなく「安心」を競う時代に入っている。
























