インテルの「再起」を賭けた次世代CPU『Core Ultra シリーズ3(Panther Lake)』が示すPCの変化

今年も米ラスベガスで開催されたテクノロジーの祭典「CES 2026」において、米インテルは次世代CPU「Core Ultra シリーズ3(開発コード名:Panther Lake)」を発表した。Panther Lakeは、ノートPC向けを主軸とする新世代のクライアントCPUであり、電力効率の向上、内蔵GPU性能の強化、そしてローカルAI処理への最適化を重視した設計が特徴だ。従来のようにCPU単体の性能を引き上げるのではなく、GPUやNPUを含むプラットフォーム全体で処理を分担し、限られた電力枠の中で実用性能を最大化することを狙っている。
インテルがこの世代を「再起を賭けた製品」と位置付ける背景には、Arrow Lakeの評価が芳しくなかったことや、Lunar Lakeが一定の成功を収めたことがある。Panther Lakeでは単なる性能向上にとどまらず、PCの役割そのものを見直し、再定義しようとする意図が込められている。
Panther Lakeが特に重視しているのは、AI処理の効率化だ。AI処理をクラウドに依存するのではなく、ユーザーの手元にあるPC上で高効率に実行するというアプローチを採用している。高い性能と電力効率を両立させることで、ノートPCという制約のある環境でも、本格的なAI処理を可能にする設計となっている。
「Intel 18A」と「ローカルAI」でPCの役割はどう変わるのか

Panther Lakeは、クライアント向けCPUとして初めて「Intel 18A」と呼ばれる新しい製造プロセスを採用している。「Intel 18A」は、北米で設計・製造される初の2nmクラスノードで、供給チェーンの多様化と安定性を提供する。
これはインテルにとって、長年の課題だった「製造技術の立て直し」を象徴するものとなる。ここ数世代、同社は半導体プロセスの微細化で競合に後れを取り、技術的な停滞を指摘されてきた。そのため、「Intel 18A」の実用化は、その流れを断ち切りふたたび主導権を握ろうとする取り組みでもある。
この新プロセスにより、ワット当たりの性能は前世代比で15%向上し、チップ密度も30%以上高まったとされる。同じ消費電力でも、より多くの処理をこなせるようになったことを意味するが、処理能力を引き上げながら発熱を抑えやすくなったことにより、ノートPCにおける静音性やバッテリー駆動時間といった体感面に直結する。
処理性能と電力効率の両立が進んだことで、マルチスレッド性能も強化された。Panther Lakeでは、前世代比で最大60%の性能向上を達成しつつ、消費電力の増加は抑えられている。チップ密度の向上と電力効率の改善が組み合わさることで、高負荷な処理を長時間続けても、電力や発熱に左右されにくい設計が実現している。
その成果が分かりやすく表れているのが、動画再生のような日常的な用途だ。4K動画のストリーミング再生では消費電力を大幅に削減し、最大27.1時間の連続再生が可能とされる。ピーク性能だけでなく、軽負荷から中負荷の領域でも無駄な電力消費を抑えられる点は、外出先でPCを使う時間が長いユーザーほど実感しやすい。
設計面でも方向性の見直しが行われた。前世代のLunar Lakeでは低消費電力を最優先し、メモリをCPUパッケージ内に統合する構成が採られていたが、Panther Lakeではこの方針を改め、DIMMスロットやオンボードメモリを再び選択できる設計へと切り替えられている。
この変更によって、PCメーカーは用途に応じた構成を選びやすくなった。省電力を重視した薄型モデルから、性能や拡張性を優先する構成、価格を抑えたモデルまで、幅広い展開が可能になる。結果として、ユーザーにとっても自分の使い方に合ったPCを選びやすくなりそうだ。
『Battlefield 6』がヌルサクに 内蔵GPUの性能アップに大きな期待感

Panther Lakeでは、内蔵GPUとAI性能も重要な要素として位置づけられている。内蔵GPU「Arc B390」は、AIを活用したフレーム生成機能を備え、外付けGPUに頼らずとも3Dゲームがプレイできる性能を目指して設計された。
CES会場で行われたデモでは、ノートPCの内蔵GPUだけで最新ゲーム『Battlefield 6』を快適に動かす様子が披露された。内蔵GPUが補助的な存在から、いよいよ実用的な処理基盤へと変わりつつあることを印象づけるものだった。

AI性能については、CPU・GPU・NPUを含むプラットフォーム全体で最大180TOPSの処理能力を備える。とくに大規模言語モデル(LLM)の推論では、内蔵GPUに搭載されたXMXユニットが中核を担い、高負荷な処理を効率よく実行できる設計となっている。
実機デモでは、300億パラメータ級(30B級)のモデルを完全にオフライン環境で動作させ、自然な対話に加えて外部ツールと連携する「AIエージェント」として安定して動く様子が確認された。一方で、NPUは音声処理や常時稼働型のAI機能などを低消費電力で担当し、GPUに負荷を集中させない役割を果たしている。
重い推論処理をGPUが担い、常に動き続けるAI処理をNPUが支える。こうした役割分担によって、性能と電力効率を両立させる構成が明確に打ち出されている点も、Panther Lake世代の特徴と言える。
通信環境に左右されず、データを外部に送らない。この特性は、応答の速さやプライバシーの面で、これまでのPC体験とは異なる価値をもたらすだろう。
Panther Lakeの登場でPCは再び「考える端末」に

インテルが「Core Ultra シリーズ3(Panther Lake)」で示したものは、チップ性能の競争の先にある「PCの役割の変化」だ。
かつてPCは、計算や処理、判断まですべてをローカルで行う存在だった。しかしクラウドの普及により、重い処理はサーバー側に任せ、PCは入力と表示を担う端末へと役割を移していった。生成AIの広がりによって、その傾向はさらに強まり、「考える」部分はクラウドにあるという使い方が一般的になりつつある。
Panther Lakeが提示しているのは、そこからの揺り戻し。高い電力効率と内蔵GPU、そしてNPUを組み合わせることで、AIの判断や生成を再びPCの中で動かせる環境を整えようとしている。通信環境に左右されず、データを外部に出さずにAIを使える点は、速度やプライバシーの面でも意味を持つ。
すべての処理が一気にローカルへ戻るわけではないだろうが、それでもクラウド一辺倒だったAIの使い方に、もうひとつの選択肢を示した意義は大きい。Panther Lakeは、PCを再び「考える場所」として取り戻そうとする、その第一歩と位置づけられる。
「Core Ultra シリーズ3(Panther Lake)」は現在生産が行われており、1月27日よりグローバルでリリースされる予定となっている。プレオーダーは1月6日から始まっており、2026年上半期を通じて同チップを搭載したPCが展開されていく予定だ。
























