インテル、米経営陣刷新で業績好調スタート 登場予定の新プロセス「CPU」とそのマイルストーンとは

Q3決算は想定より上、Intel 18Aの成功と新たなAI戦略がカギ

 インテル株式会社はIntel Core Ultra(シリーズ3)となる予定の新CPU、コードネーム「Panther Lake」の技術動向などを説明する四半期定例のプレスセミナーを実施した。

 冒頭、代表取締役社長の大野誠氏は米Intelは新経営陣となり、日本のインテルは新オフィスで新たな時代に向かったと発言。新経営陣最初の決算となる25Q3はガイダンスを上回る業績を上げ、米国政府、NVIDIAやソフトバンクの投資も入った。ちなみに東京の新オフィスは週4日の出社を義務付けたそうだ。

インテル株式会社 代表取締役社長 大野 誠氏
米インテルの経営陣は全面的に刷新、25Q3の決算はまずまずで、Intel 18Aプロセスの確立と製品出荷、そして新たなAI戦略が方針となる
日本インテルも本社移転。オフィス回帰で週4日のオフィス勤務を義務付ける

 また、インテルの今後を占う重要な新プロセス「Intel 18A」も量産に向けて順調に開発が進んでいる。Intel 18Aの製造はオレゴンとアリゾナの二拠点で行い、アリゾナはFab52の新設工場で本格的な量産を行う予定だ。量産に向けて順調に不良率が低下しているというグラフを見せた。

 Intel 18Aを使用する最初の製品となるのは(おそらくCES 2026で採用製品が発表されるであろう)インテルの新CPUだ。コンシューマー向けが「Panther Lake」、サーバー向けがClearwater Forestというコードネームで開発しており、正式発表を楽しみにしていると大野氏は語った。

インテルの直近の生命線は新プロセスのIntel 18Aの成功だ。Q4への量産に向けて不良率は順調に低減しているという
Intel 18Aを使用する最初の製品は自社CPUコア。Panther LakeとCrearwater Forrestで採用予定。ちなみに後者はEコアだけを使用するコア数重視型のサーバー用製品

 (売り上げが芳しくない)AIに関しては学習を諦めたわけではないと言いつつ、現状は推論用途、Agentic AIとPhysical AIに着目しているという。

 エージェントAIに関しては評価が分かれており、米国ではGoogleがAIエージェントを導入している一方、ガートナーは過度な期待(と現実の差)によって2027年までに40%以上のエージェント型AIプロジェクトが中止されるという見解を出している。

インテルのもうひとつの戦略の柱はAI。現在の盛り上がりもすごいが、一方で調査会社が2年後までに4割のプロジェクトが中止となる見解も出しており、混沌としている

 インテルとしてはエンタープライズにおいてAgentic AIがより多くの価値を引き出すと推定しており、2028年までにAIコンピューティングの80%が推論に使われると想定しており、ワークロード要件も多岐にわたる。

 インテルは今後のAgentic AIは多種多様なAIコンテナ群とそこに最適化されたハードウェア、全体を管理するオーケストレーター・エージェントになると想定している。

 そこで二つの製品を出す事を予定しているという。Agentic AIに対してはデータセンター向けGPUのCrescent Islandでワット当たりのトークン量を念頭に開発。競争力のあるワット当たりパフォーマンスを実現する。

現在のAgentic AIは同種のシステム上に実装しており、CPの拡大が難しいと予測
そこで、それぞれのビルディングブロックで最適なハードを使用し、全体をオーケストレーションするシステムがよいという
今後ワット当たりのトークン量を念頭にCrescent Islandを開発中とのことだ。AI推論特化型のGPUと学習ではなく推論にフォーカスする

 Physical AIに対してはロボティックス向けのリファレンスボードを投入し、製品の市場投入までの時間を短縮するようにする、さらにロボティックス向けのAIスイートも投入することであらゆる種類のロボティックス開発を加速する。

Physical AIに関してはリファレンスボードを提供。これにより市場投入を加速する

AI PCの裾野を広げるべく、文系人材にもAIハンズオンを実施

 執行役員 技術・営業統括本部 本部長の町田奈穂氏からは「AI PCのさらなる広がり」として、エコシステムに関しての説明が行われた。

インテル株式会社 執行役員 技術・営業統括本部 本部長 町田奈穂氏

 AI PCソフトウェアエコシステムは現在350以上のISVが開発しており、900以上のAIモデルをサポートしているという。しかし、従来インテルがサポートしているのはソフトウェア技術者に偏っていた。

ここまで3世代のAI PC向けのCPU提供で、AI PCソフトウェア エコシステムは急速に拡大しているという

 AIの活用に関しては幅広い人がかかわるべきと、今回「PEAR Experience by intel」という取り組みを始める。PEARはPC、Edge、AI、Revolutionの頭文字を取った造語で、従来プログラム経験のない文系の人も含めたAIアプリ開発ワークショップを来月から開始する予定だという。

 LLMを使用して、自然言語からプログラムを作成するVibe Cordingという用語があるように、現在のプログラマーは必ずしもプログラミング言語を覚える必要がなくなってきている。

 「プログラミングの経験がない人でも新しいアイディアや思い付きをプログラムにできれば、AIの裾野が広がる」と町田氏はコメントしていた。が、一方ノーコードでも敷居が高いと感じる人をどう克服するのか興味深い。

今後国内AI PC向けの開発支援はAI PC開発者だけでなく、文系の人にもワークショップを提供するという

 なお、「(NPUさえ入っていればよい)AI PCの売り上げに対し、(NPU 40TOPS以上でインテルが現在提供しているのは「Lunar Lake」だけの)Copilot+PCの売り上げはまだ低いのでは?」とやや意地悪な質問をしたところ「秋冬商戦でLunar Lakeマシンが大きく伸びると予想している」という回答だった。

 AI PCが普及するか否かは「AI機能入りのアプリによる生産性向上やROIの向上」という目に見える結果がなければ企業での採用も進まないだろう。

 一方でパイが小さければローカルAI機能を盛り込むアプリも少ないままになる。「鶏が先か、卵が先か?」というのはよく言われる話だが、ローカルAIの活用事例を業界あげて打ち出してほしい。

年末商戦では「Lunar Lake」製品の拡大を目指し、次のAI PCとしてIntel 18AでCPUコアが製造される「Panther Lake」に期待を寄せる

「Panther Lake」は3つの基本構成ながらパッケージは同一

 技術本部 IA技術本部 部長の太田仁彦氏はPanther Lakeの説明を行った。なお、今回の発表は具体的な製品発表前の技術説明なので、SKU構成等はない。

インテル株式会社 技術本部 IA技術本部 部長 太田 仁彦氏

 一言で説明するとPanther Lakeは前世代の二製品(Lunar Lake/Arrow Lake)のいいとこどりだ。現在の最新世代CPUのうち、ノートパソコン向けのLunar Lakeはx86としての電力効率を上げたが(メモリ内蔵で)柔軟性に欠ける。Arrow Lakeはスケーラブルな構成には優れているが、電力効率はLunar Lakeほど高くない。

 Panther LakeはCPUやGPUが複数用意された構成ながら、ベースタイルの上にタイル(チップレット)を載せるため構成の柔軟性があり、タイル間はFoveros-S 2.5D パッケージで接続されている。

Panther Lakeの特徴を一言でいうとLunar Lakeの電力効率とArrow Lakeのスケーラビリティの両立

 基本構成を3つ用意しつつ、パッケージは同じで性能の異なる製品群を一つのマザーボードでよいと、製品メーカーにとって魅力的なポイントを持たせている。

 今回TDP等の説明はなかったが、ノートパソコンすべてをPanther Lakeで対応するのではないだろうか?

「Pather Lake」の構造は「Meteor Lake」から続くベースタイル上にCPU/GPU/コントロールタイルを取りつけるFoveros-S 2.5D パッケージ。構成によってはすべて別プロセスで製造される

 「Lunar Lake」では速度を重視するためにパッケージ内にメモリを実装していたが、Panther Lakeでは外部メモリとなっておりLPDDR5では最大9600MT/sで最大96GB、DDR5では最大7200MT/sで最大128GBと速度と容量で選択が可能となっている。性能を重視する用途ならLPDDR5、拡張性や構成の柔軟性を求める用途にはDDR5が使われるだろう。

 「Panther Lake」の一番基本的な構成は8CPU/4GPUの構成だ。CPUは4xPcore(Cougar Cove)+4xLEcore(省電力Eコア:Darkmont)の組み合わせで、メモリクロックは最高6800MT/s(LPDDR5)・6400MT/s(DDR5)。プラットフォームコントローラーにはWi-Fi7、Bluetooth 6.0、4xThunderbolt、2xUSB3.2、8xUSB2.0、8xPCIe Gen4と4xPCIe Gen5。GPUはXe3のコアが4つ入る。

 拡張製品が16CPU/4GPUの構成で違いはCPUが4xPcore+8xEcore+4xLEcoreと(通常動作の)Eコア(Darkmont)が増え、メモリクロックは最高8533MT/s(LPDDR5)・7200MT/s(DDR5)。8xPCIe Gen4と12xPCIe Gen5とPCIeが大幅に増える。太田氏は外部GPUをつける事を念頭にしていると説明した。

 質疑応答ではLEcoreとEcoreの詳しい違いについて質問があったが、LEcoreはより省電力動作となっているとして明言を避けた。ただし、どちらもDarkmontのコードネームであり、LEcoreの方がより低電圧での動作に特化し、クロック周波数もソコソコになるはずだ。なお、Cougar CoveとDarkmontは共に前世代のLion Cove/Skymontの改良版ゆえに性能アップに関してはソコソコと思ってよさそうだ。

「Panther Lake」の対応メモリはLPDDR5 最大9600MT/s最大96GBとDDR5 最大7200MT/s最大128GB。速度と容量、柔軟性で選択可能
Panther LakeはPCB一つで3種類の基本構成のどれでも取り付けが可能。OEMメーカーに配慮したパッケージとなっている

 最上位の製品は16CPU/12GPUの構成で違いはメモリクロックは最高9600MT/s(LPDDR5)でGPUからのメモリ負荷が大きい事を想定し、速度が低くなるDDR5をサポートしない。

 そのGPUはXe3コアが12と3倍になる。内蔵GPUでのゲーミングPCを想定しているようだが、このバージョンだけDDR5をサポートしないのでメモリ増設が行えない。また、PCIeも12レーン(8xGen4+4xPCIe Gen5)となっている。

 タイルの製造プロセスだが、CPUタイルはIntel 18A、プラットフォームコントローラーは外部(TSMCだろうがプロセス非公開)となっている。GPUはGPUが4コアはIntel 3で製造されるが12コアだと外部となっている。

 とはいえ、最大の大きさのベースタイルと心臓部であるCPUタイルがIntel製になったのは大きい(注:Lunar LakeはタイルすべてがTSMC製)。外部ファウンダリータイルを使う理由として、適材適所と説明していた。従来もCPUは最新プロセス、周辺チップは古いプロセスを使用していたので、その延長線上と考えればよいだろう。

 Thunderboltの世代だが、資料のミスかSKUによって異なるのかわからないが4と書いてある資料と4/5と書いてある資料があった。これも正式発表時にSKUによって対応が分かれる可能性がありそうだ。Wi-Fi7とBluetooth 6.0コアも入る。

3種類のパッケージの比較。パッケージごとにメモリの最大速度が異なるほか、GPUのXe3コア数、外部PCIeレーン数が異なる。ちなみにこの表だけThunderbolt 4/5の表記があった
P-CoreがCouger Cove、(L)E-CoreがDarkmontコアになるが、基本的には小改良に留まるようだ
GPUは新しくXe3アーキテクチャを投入。このスライドでは最大構成の12コアだが、基本は4コアの製品が使われる

 NPUは最大50TOPSに強化されCopilot+PCの条件を満たすほか、Windowsで使用する40TOPSに10TOPS分の余裕があるのでサードパーティアプリが登場した際に違いとなりそうだ。今回から数値表現にFP8にも対応するようになった。

 GPU単体では最大120TOPSと差が縮まったのも見逃せない。世間の「AI演算を内部で行うアプリ」の大多数はNPUを使わずにGPUで演算している。となるとNPU必須のAI PCでなければいけない理由が薄れる。今後ローカルAIが本格化するとNPUの性能はさらに上がるだろう。

 Qualcommは自動運転用にOver100TOPSのSoCを投入しているだけでなく、NPU単独で100TOPSの製品も投入しており、後者はDELLから内蔵ワークステーションが登場している。

NPUはより小さく、より省電力となり、最大50TOPSに拡大。またFP8表記にも対応する

 インテルのCPUは古くからメディアのハードウェアエンコーダー、デコーダーが含まれているが、今回はH.264/H.265/AV1に加えてXAVCにも対応し、民生用ビデオカメラへの対応が広がったのがポイントだ。AVCやAV1も10bitフォーマットに対応している。

 太田氏は「AV1 4:4:4やXAVCのHW対応はクリエイターの品質/効率要求に直結し、モバイルでのプロ用途を拡大する」とコメントしており、日本インテルのクリエイター向け施策「Blue Carpet Club」でも使われそうだ。

以前から定評のあるメディアエンジンも新たにAVC/AV1の10ビットに対応するほか、XAVCもサポートするという
スレッドディテクターもパワーアップし、複数のOS上で最高の体験を実現し、AC/電池駆動時で一貫したKPIを出すようになるという

前世代と比較しても大幅な性能アップになるという

 

AIとともにさらなる飛躍を。『Intel Year End Party 2024』レポート

インテルが進める「Blue Carpet Project」は2022年からクリエイター支援を続けており、最新のAIとクリエイター…

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