オーストラリアで感じた、ボカロ&歌い手文化の浸透具合 kz(livetune)とNORISTRY出演『SMASH!』現地レポート
7月11日から13日にかけてオーストラリア・シドニーで行われた、国内最大規模のアニメ・マンガイベント『SMASH! Anime Convention』。ポップカルチャーファンによるポップカルチャーファンのために創設された非営利団体「SMASH Inc」運営のもと、2007年にスタートした歴史を持つ同イベントだが、今回は国内最大規模のカルチャーイベント『ニコニコ超会議』を主催する株式会社ドワンゴと、シンガポールを拠点に東南アジア最大級のポップカルチャーイベント『アニメ・フェスティバル・アジア』(通称AFA)を主催するSOZO Pte Ltdが協力する国際的なクリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」の一環として、kz(livetune)とNORISTRYが出演した。
『SMASH! Anime Convention』が開催されたのは、シドニーのICC(International Convention & Exhibition Centre)。直訳すると国際会議場&エキシビジョンセンターということで、複数階層にわたってイベントが開催できる大きな施設だ。日本でいうと東京ビッグサイトのようなものだといえばわかりやすいだろうか。筆者は別のイベントでも同会場を訪れたことがあり、その際はサイバーな空間がホール内に演出されていたのだが、今回はアニメやマンガにフォーカスを当てたイベントということで、明るくポップな雰囲気が会場を包み込んでいた。
また、会場のあるエリアはダーリング・ハーバーと呼ばれる港町であり、近くには学校やヴェニュー・ギャラリーの多いチッペンデール地区やチャイナタウンがあり、シティと呼ばれるビル群が並ぶ都会のど真ん中にも容易にアクセスできる。それらの性質からか、筆者の目には若者と観光客の多いエリアのように見えた。(中村拓海)
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日本のアニメも“時差無し”で伝わる時代に 同時代性を共有する世界中のオタクたち
この期間、特に目を引いたのはコスプレイヤーの衣装や展示されているIP群の“新しさ”だ。
日本のアニメにフォーカスを当てた海外のイベントは一昔前から開催されてきたが、コスプレイヤーはいわゆるジャンプもの(『週刊少年ジャンプ』作品)や侍・忍者といった「ザ・日本」のような作品の衣装を好んでいたような印象がある。そこには、プラットフォームやIPホルダー側の環境整備がされておらず、リアルタイムで日本のアニメを見る方法が違法アップロード以外になかったという状況も寄与していただろう。
しかし、いまはNetflixなどの大手資本に加え、Crunchyrollといった特化型の動画配信プラットフォームも登場したことで、世界のどこにいても日本のアニメを合法的にリアルタイムで楽しめる状況が生まれている。そうなると世界中のアニメ好きは「言語が違うだけの同時代のオタク」になり、垣根が一気に薄くなるわけだ。時を同じくしてボーカロイドカルチャーが世界中で受け入れられるようになったのは、こうした“オタクとしての価値観・同時代観”が世界で統一されてきたからなのかもしれない。
その点を踏まえて『SMASH! Anime Convention』を見ていこう。コスプレイヤーたちの衣装は新しい作品も多く、会場内に掲示してあるポスターや販売されているグッズも比較的近々の作品ばかり。初音ミクをはじめとしたボーカロイドのコスプレも少なくなかった。
そんな会場の一角に用意されたライブエリアが「DOPA DONBURI PERFORMANCE STAGE」。先述したkz(livetune)とNORISTRYもここに出演していたのだが、他にも日本人アーティストやアイドル、さらには現地のアーティストやアイドルが日本のアーティストの楽曲をカバーする様子も見られた。日本のアーティストを応援するだけでなく、好きが高じて自分達もプレイヤー側に回る人がここまで多いのかと驚かされるとともに、ジャパンカルチャーの浸透を感じた瞬間でもあった。ここではDay 2の模様をレポートする。
先に登場したNORISTRYは「ロキ」(みきとP)からスタート。イントロが鳴った瞬間に観客がワッと沸き、サビ終わりでは「Oi! Oi!」と掛け声が上がったかと思えば、中盤の〈Selfie〜〉の部分ではコールアンドレスポンスも巻き起こった。そこから流れるように歌い上げられた「KING」(Kanaria)では、小型のサークルモッシュのような動きをする観客もいた。続けて『ONE PIECE』のオープニングテーマである「ウィーアー!!」(きただにひろし)、『デジモンアドベンチャー』のオープニングテーマである「Butter-Fly」(和田光司)、『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニングテーマである「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)を熱唱。どこの国に行けども人気の楽曲群を前に、観客はまるで日本でライブをしているかのようにスムーズなリアクションを見せた。
NORISTRY自身も持参したメモを片手に英語でMCをし、観客へ精一杯の感謝を伝えると、オーディエンスは温かい拍手と歓声でそれに応える。一瞬ここがオーストラリアであることを忘れてしまいそうになった。
続いて登場したkz(livetune)は、いきなり「Tell Your World」×Porter Robinsonの「Sad Machine」をマッシュアップした大ネタを投下し、フロアを一瞬で沸騰させると、自然発生的に緑のペンライトの海が広がる。「ファインダー」「Yellow (Re:Dialed)」と自身のミク曲を立て続けにプレイしたかと思えば、ClariS 「irony」、『初音ミク -Project DIVA- X』の描き下ろし楽曲「Satisfaction」ではあまりの興奮に奇声を上げる観客もあらわれ、ドロップでは「Oi! Oi!」と野太いコールが巻き起こる。セブンスシスターズの「SEVENTH HAVEN」で〈Ah (Ah) Ah (Ah) 〉のコールアンドレスポンスが瞬発的に決まった瞬間のホーム感たるや。
その後も「Catch the Wave」や「ray」「Hand in Hand」「never ender」など、自身のキラーチューンを次々に投下したあとは、にじさんじの「Virtual to LIVE」、そして最後に再び「Tell Your World」をプレイ。「Tell Your World」ではステージの前方まで移動し、観客と共にシンガロングしたのちに「また来ます、Sydney!」と叫び、ステージを後にした。
もうひとつ、先述したICC(International Convention & Exhibition Centre)のDay1とDay2の間には、『Fortress Sydney』でkz(livetune)も出演するアフターパーティーが開催されていた。同会場は、ショッピングモールのなかにLANパーティーができるエリアや音ゲーなど日本のアーケードゲームがプレイできるエリアとバー・クラブが合体した“夢のような空間”だ。重低音の効いたスピーカーから流れるダンスミュージックで深夜まで踊り倒す若者たちの姿。無性にフロアのオーディエンスたちへ親近感を覚えながら撮影したことを、まるで昨日のように思い出す。
シドニーという過ごしやすく日本文化にも寛容な都市で感じたのは、世界へのボーカロイド・歌ってみたカルチャーの浸透具合と、キャリアを積み重ねてきたクリエイター・歌い手のステージング力の高さ。日本のボーカロイドPや歌い手を多く“輸出”する「Asia Creators Cross」の可能性を感じた数日間だった。
■「Asia Creators Cross」について
日本のクリエイターが世界で、世界のクリエイターが日本で、相互に活躍できる機会の創出を目的としたクリエイター連携プログラム。
本イベント『Anime Festival Asia 2025』におけるクリエイターの出演もその一環となっています。
今後も、世界中の影響力のあるさまざまなイベントを通じて、クリエイターがより多くのファン、共に制作を行う仲間、クライアントとボーダレスに出会える場を広げ、コミュニティの構築やリソースの共有、ネットワーキングを促進していきます。
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