「ゲームデザイナーズ大賞」受賞で話題呼ぶ『INDIKA』 映画の文脈から考える、“時代錯誤的”な面白さとは

 一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(以下、CESA)は9月23日、「日本ゲーム大賞2025」の受賞作品を発表した。

 2024年4月1日から2025年5月31日までにリリースされた人気作品がラインアップを彩るなかで、ひときわ注目を集めたのが、ゲームデザイナーズ大賞に選出された『INDIKA』。本稿では、同タイトルの概要を踏まえたうえで、その魅力を考えていく。

“奇ゲー”とも評されるロシア発の3人称視点ADV『INDIKA』

『インディカ』アナウンストレーラー

 『INDIKA』は、かつてモスクワに拠点を置き、現在はカザフスタンで活動しているインディースタジオ・Odd Meterが開発を手掛けた、3人称視点アドベンチャーだ。プレイヤーは、宗教的ビジョンと厳しい現実が交錯する19世紀末のロシアを舞台に、主人公である若き修道女の自分探しの旅の物語を追っていく。

 特徴となっているのは、ファンタジーとブラックユーモアが融合した奥深いストーリーと、ドストエフスキーやブルガーコフといった近代ロシア文学作品にも通ずる荒唐無稽な世界観、3DCGを用いた美しいグラフィックなど。多くが特別に信仰する宗教を持たず、固定の宗教観がない日本のプレイヤーにとっては、やや人を選ぶ作品であるが、そうした難解さもまた、同タイトルの個性となっている面がある。

 Steamプラットフォームでは、全体の89%が「おすすめ」とし、上から2番目のランクである「非常に好評」に分類されている。一方で、日本語で寄せられたレビューは50件ほどしかなく、国内では評価の割にまだあまり知られていないタイトルであることも見て取れる。

 対応プラットフォームはPC、PlayStation 5、Xbox Series X|Sで、価格は税込2,750円(※PC版は税込2,800円)。2025年11月28日には、海外市場向けにNintendo Switch版のリリースも予定されている。

ミニシアターの映画を彷彿とさせる『INDIKA』に盛り込まれたゲーム体験

 ゲームデザイナーズ大賞に輝いたことで、ようやくフリークたちに広く認知されることとなった『INDIKA』。同賞は2010年の設立からこれまで、日本のトップクリエイターの視点から見る「創造性」「革新性」を評価の基準とし、斬新な切り口で制作されたさまざまな話題作を選出してきた。主な受賞作品は以下のとおり(括弧内は選出年と開発元)。

・『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(2010年/Quantic Dream)
・『風ノ旅ビト』(2012年/thatgamecompany)
・『Ingress』(2015年/Niantic, Inc.)
・『Life Is Strange』(2016年/DONTNOD Entertainment)
・『ASTRO BOT: RESCUE MISSION』(2019年/Sony Interactive Entertainment)
・『マリオカート ライブ ホームサーキット』(2021年/任天堂株式会社)

 今開催で審査委員長を務めた桜井政博氏は、発表授賞式の場でのプレゼンテーションのなかで、「3Dとピクセルの世界を横断して描く表現手法が新鮮である」「システムが斬新というよりは、悪魔の存在や積み上げていくポイントの意味など、考えさせられる点がところどころに散りばめられており、そのことが深い体験を生み出している」と、『INDIKA』のゲーム性に触れている。今回の同タイトルの選出は、ゲームデザイナーズ大賞の慣例とはやや毛色の違う選出だったようだ。

日本ゲーム大賞2025「経済産業大臣賞・年間作品部門」発表授賞式

 はたして『INDIKA』の面白さはどのような点にあるのか。私はシネマティックな演出、シナリオ/システムのディティールを詳細に語らないアプローチこそが、同タイトルの魅力になっていると考える。

 前者に関して、『INDIKA』では、映像におけるモノクロの色彩表現やカメラの揺れ、ライティング、カット割り、BGMなど、物語を演出するさまざまな要素に映画文化からの影響を感じさせられる。実際のプレイを通じて、「まるで映画を観ているよう」と感じたフリークも多かったのではないか。

 このことは同タイトルが斬新なシステムを売りにするゲームらしいゲームではなく、どちらかといえば、シナリオを重要視するノベルゲームのような体験を主題としていることとも地続きである。その映像美から、一見するとわかりやすい見どころ、遊び心を備えたアクションやホラーのようにも見える『INDIKA』だが、プレイしてみると、そうしたゲーム性以上にシナリオに主眼を置いたタイトルであることがわかる。各所に散りばめられたシネマティックな演出は、物語をより印象的に響かせるための『INDIKA』ならではの工夫であると言える。この点が同タイトルをめぐる体験に色を添えていることは否定のしようがない。

 また、後者に関して、年齢・性別を問わず愛好されるようになり、アンダーグラウンド感が薄まった昨今のゲームカルチャーでは、シナリオ/システムの両面で、わかりやすさ、キャッチーさといったエンターテインメント性が重要視されやすい。ここ数年でトレンド化するゲーム作品のメディアミックスも、そうした傾向を反映した動きであると言えるだろう。

 その観点から考えると、『INDIKA』に盛り込まれているすべてを語り尽くさないアプローチは、時代錯誤的であるとも言える。このことがかえって、同タイトルから得られる体験を特別なものとしている面もあるのではないか。

 先述したように『INDIKA』は、どちらかといえば物語を楽しむ作品であるが、シナリオ/システムをめぐる表現に哲学性、含みを持たせることによって、そこにある体験を文化的で高尚なものとプレイヤーに感じさせている節がある。演出と同様に「映画」という軸で語るのならば、ゲームカルチャーにおける主流がシネマコンプレックスで上映されている作品、『INDIKA』に代表される傍流がミニシアターで上映されている作品とも言い換えられるのかもしれない。コアなフリークにとっては、同タイトルがまとうサブカルチャーらしさもまた、無二の魅力となっている可能性がある。

 シナリオの面だけをピックアップするのであれば、ソウルシリーズや「女神転生」シリーズのそれとの共通項も見出だせる。後者においては、派生元/派生先の関係にあり、よりエンターテインメント性が強い「ペルソナ」シリーズとの対比も面白いだろう。両作品群は類似するシステムを持ちながらも、その作品性によって異なる支持層を抱えている。現在もなお、古き良き名作として「女神転生」シリーズが愛され続けている状況からも、『INDIKA』の作品性に含まれる魅力を語ることができるのではないだろうか。

 今回のゲームデザイナーズ大賞の受賞をきっかけに、多くのプレイヤーから関心を寄せられている『INDIKA』。その世界に触れることが、プレイヤー側の感受性を豊かにすることにもつながるのかもしれない。

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