今度の「ドラクエ」は“ヴァンサバ風”? 『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』制作発表に見る可能性と課題
スクウェア・エニックスは9月17日、新作タイトル『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』を発表した。
近年、看板シリーズのモバイルゲーム化に力を入れるスクウェア・エニックス。『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』は、内外からかかる期待に応えるタイトルとなれるだろうか。その分岐点を考察する。
「ドラゴンクエスト」シリーズからモバイル向けローグライクRPGが登場
『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』は、スクウェア・エニックスがモバイル向けに展開する「ドラゴンクエスト」シリーズの最新作だ。プレイヤーは、フィールド上に次々と現れる敵たちを直感操作で撃破しながら、キャラクターを強化し、さらなる強敵へと挑んでいく。
特徴となっているのは、シリーズらしいキャッチーなキャラクターデザインと、ローグライクの要素を取り入れた新たなシステム。ゲーム中にはキャラクターを強化する手段として、「冒険スキル」と呼ばれる仕組みが登場する。公式によると、同要素にはランダム性があり、取捨選択によってプレイのたびに異なる成長と戦略が楽しめるとのこと。繰り返し遊んでも飽きのこない体験が、同タイトルのゲーム性の根幹であると思われる。
『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』は、2026年リリース予定。基本プレイ無料(アイテム課金型)で、モバイル(Android/iOS)に対応する。スクウェア・エニックスは今回のタイトル発表にあわせ、ティザーPVを公開するとともに、2025年10月14日よりクローズドβテストを実施することも明らかにした。募集の概要については、公式サイトを参照してほしい。
『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』成功のカギは、オリジナリティをどう表現するかに
一切の情報がないなかで、突如として発表された『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』。SNS上では「ドラゴンクエスト」シリーズの最新作であることとともに、そのゲーム性や登場するキャラクターたちのデザイン、モバイル向けのライブサービスゲームとなることなどが話題を呼んだ。
スクウェア・エニックスは直近、家庭用ゲーム機でリリースされ人気を博した看板シリーズのモバイルゲーム化に力を入れている。2015年以降、以下のようなタイトルがAndroid/iOS向けに展開されている。
<「ドラゴンクエスト」>
・『星のドラゴンクエスト』
・『ドラゴンクエスト ライバルズ』
・『ドラゴンクエストウォーク』
・『ドラゴンクエストタクト』
・『ドラゴンクエストけしケシ!』
・『ドラゴンクエスト チャンピオンズ』
<「ファイナルファンタジー」>
・『ファイナルファンタジー レジェンズ 時空ノ水晶』
・『メビウス ファイナルファンタジー』
・『ファイナルファンタジーグランドマスターズ』
・『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』(以下、『FFBE』)
・『ディシディア ファイナルファンタジー オペラオムニア』
・『ワールド オブ ファイナルファンタジー メリメロ』
・『ファイナルファンタジー エクスプローラーズ フォース』
・『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争』(以下、『FFBE 幻影戦争』)
・『ファイナルファンタジーVII ザ ファースト ソルジャー』
・『ファイナルファンタジーVII エバークライシス』(以下、『FF7EC』)
このほか、「サガ」や「聖剣伝説」「スターオーシャン」「キングダムハーツ」など、さまざまな人気シリーズからも多くのモバイル向けタイトルがリリースされている現状だ。特筆すべきは、運営期間の長短にかかわらず、その大半がサービス終了を迎えている点。「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」に限ると、現在も提供が続いているのは、『ドラゴンクエストウォーク』『FFBE 幻影戦争』『FF7EC』など、ごく一部となってしまう(※)。このような背景もあり、フリークには「同社の展開するモバイルゲームは短命に終わる」というイメージも強い。『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』に対する否定的な意見のなかには、その継続性を危惧するものも少なからずあった。
※『星のドラゴンクエスト』『FFBE』は2025年10月31日をもって、サービスを終了する予定。
はたして『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』はそうした懸念をはねのけ、注目度に違わない結果を残すことができるだろうか。そのカギを握るのが、同タイトルに含まれる新たなゲーム性だ。業界動向に詳しい人ならば、あるヒット作品からの影響をイメージしたに違いない。そのタイトルとは、イギリスのゲームスタジオ・poncleによって開発/発売され、大ヒットを記録したローグライクRPG『Vampire Survivors』である。同作は2022年10月のSteamでの正式リリース以降、口コミで話題を広げ、近年を代表する業界トレンドのひとつとなった。現在はPC以外のプラットフォームにも移植され、さまざまな環境でプレイが可能となっている。
『Vampire Survivors』のヒット以降、ゲームカルチャーでは同作に盛り込まれたシステムを模倣したフォロワー作品が多数リリースされ、「ヴァンサバライク」というサブジャンルも確立されつつある。『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』に含まれる「次々と現れる敵を倒し続けるというハックアンドスラッシュ的インプレッション」「ランダム性のあるキャラクターの強化システム」などは、『Vampire Survivors』からの影響を強く感じさせるものだ。つまり、同タイトルもまた、システム面のみを取り上げれば、そのフォロワーであり、かつ「ヴァンサバライク」に分類される作品のひとつと考えることができる。
『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』が『Vampire Survivors』のエッセンスをうまく取り込み、その面白さを再現できれば、知名度やキャラクターデザインの面で優位性のある、魅力的なタイトルとなる可能性もあるかもしれない。また、「ドラゴンクエスト」シリーズのファン層と『Vampire Survivors』のプレイヤー層が完全には重ならないことが、支持獲得には追い風として作用する面もありそうだ。
その一方で、長期運営のためには、モチーフから受け取ったゲーム性以外の部分――同タイトルのオリジナリティも求められることになるだろう。現状ではティザーPVのみの公開であるため、その片鱗を感じ取ることは難しい。今後の続報や、開催が予定されているβテストでは、そうした点にも着目したい。
『ドラゴンクエストスマッシュグロウ』は、『ドラゴンクエストウォーク』『FFBE 幻影戦争』などに続くヒットタイトルとなれるだろうか。クローズドβテストの開催までは、あと1カ月ほど。スクウェア・エニックス発のモバイルゲームに対する風向きが変わるようなインプレッションが含まれていることを期待するばかりだ。