イラストレーター・tamimoonに聞く、“人生観が変わった瞬間” 人や創作との向き合い方に大きな影響を与えた海外遠征を振り返る

 2025年8月2日~3日の2日間にかけて、シンガポールにて『AFA Creators Super Fest 2025(以下、CSF)』が開催された。同イベントはシンガポールを拠点にするSOZO社が開催するアニメイベント『Anime Festival Asia(以下、AFA)』の、個人クリエイターたちに焦点をあてた、いわばスピンオフイベントだ。

 『AFA』は東南アジア最大級のポップカルチャーイベントであり、日本市場からも大きな注目を集めている。同時に現地民からは「本場」として見られてもいるため、開催ごとに大きな盛り上がりを見せる。そんな『AFA』からスピンオフした『CSF』の、イベントキービジュアルを手がけたのが、日本のイラストレーター・tamimoonだ。

 昨年開催された『AFA Singapore 2024』への出展をきっかけに、SOZO社からの熱烈なオファーを受けてキービジュアルを担当することになったtamimoon。そして彼女にとっても、『AFA』は“自身の人生観を変えた”思い入れのあるイベントだという。『CSF』に参加した振り返りと共に、現在のポップカルチャーに対する視座、人生を変えた『AFA』との出会い、そしてこれからの展望を聞いた。(編集部)

「イベント参加の楽しさを教えてくれたのが『AFA』」

――まずはシンガポールでの『AFA CSF 2025(以下、CSF)』、お疲れさまでした。tamimoonさんはこれまで個展などは開催されていますが、こうしたイベントに出演されるのは前回の『AFA』が初めてだと伺いました。そういった意味でも『CSF』は思い入れのあるイベントかと思いますが、今回の『CSF』に参加された感想を教えてください。

tamimoon:すごく楽しかったです。展示会はみなさん結構静かに見ていかれますし、どちらかといえば交流も控えめなのですが、こういったイベントだとお祭り感があって。どちらの方が良いという話ではありませんが、また違う盛り上がり方があると感じましたね。

 自分のテンション感も違っていて、個展は「自分も個展の一部」として考えているので、ある種クールに振る舞うのも見せ方のひとつだと考えているんです。ですが、こうした即売会のようなイベントだともうちょっとフランクでいられるので、それも楽しかったです。

 それと、こうしたイベントならではの出会いとして、私のことを初めて知ってくださる方もたくさんいたので、すごく新鮮な気持ちでいられましたね。私にとってはイベントに参加する楽しさを教えてくれたのが『AFA』なので、すごく感謝しています。実は今年、初めて『デザインフェスタ』に出展したのですが、これも『AFA』がきっかけなんです。

――ある種の“お祭り感”というか、個展とはまた違った魅力がありますよね。サイン会やトークイベントで現地のファンの方々と交流して、作品の楽しみ方や愛情表現などの点で日本との違いを感じたことはありましたか?

tamimoon:これは意外な発見だったのですが、日本との差はあまり感じなかったです。日本の“推し文化”と同じようなものを感じて、すごく安心感がありました。来てくださった方々の私への対応もそうですし、ちょうど同じ時間帯にパフォーマンスをされていたアイドルの方々のステージを見ていても、日本と同じような掛け声やコールをしていたり、日本のポップカルチャーへのリスペクトを感じることが多くて、それも現地の方の温かさなのかなと思いました。そういった意味で、現地の方とのコミュニケーションという点で戸惑うことはなかった気がします。

――特に印象的だったファンの反応はありましたか?

tamimoon:ライブペイントで声援を送ってくださったりしたのは、緊張が和らいだのでありがたかったです。日本語で「可愛い」という言葉をすごくかけられて、海外の方もみんな「可愛い」って使うんだなと、改めて発見がありましたね(笑)。

 あとは、私のことを5年くらい前から知ってくださっているという若いファンの方もいて、インスタでは海外のフォロワーの方も多いので、そこから知ってくださったのかなと思うとSNSがあって良かったなと改めて思いました。

tamimoonの創作論と、キービジュアルを手がけたからこそ出来た“挑戦”

――tamimoonさんの作品は言語を必要としない、全世界共通で伝わる魅力がある作品だと感じます。意識的に仕掛けている部分もあるのでしょうか。

tamimoon:自分の作品作りのテーマが、もともと「言葉を必要としなくても感じるものがある」なんです。トークショーやライブペイントのときにも話したんですけど、私は自分が描いている女の子を“実際にいる女の子”として扱いたくて、自分の目の前に女の子がいて、私がカメラのシャッターを切るみたいなイメージで絵を描いていることが多いです。なので、意識して今の作風にたどり着いたという訳ではないんですよ。

©tamimoon

――今回はキービジュアルとして『AFA』の公式キャラクター・Seikaちゃんを描かれました。現地の方が見るイラストとして、またSeikaちゃんをより可愛く見せるためにどんな点にこだわりましたか?

tamimoon:自分のことをみなさんに知っていただくために自分らしさを出したいという気持ちもありつつ、イベントの歴史や趣旨もあると思うのでそれも大事にしつつ……というバランスは意識しました。それもあって、普段描かないテイストに挑戦できましたね。今回のようなハッピーでファンタジックな作品は自分の作品では多くないのでものすごく勉強になりましたし、描いていて楽しかったです。

――「普段やらないことに挑戦する」という意味でも、今回の『CSF』のキービジュアルを手がけたのはいい経験になったんですね。

tamimoon:そうですね。今回のイベントがなかったら描かない絵だったと思うので、すごくありがたかったです。

――今回のキービジュアルの中で、“Seikaちゃんらしさ”を意識したポイントなど、作品のこだわりについてもぜひ教えてください。

tamimoon:最初から髪がピンクで目が赤色というのは決まっていたんですが、私はもともといろんな髪色の子を描くので、その点は自分らしさを出せるモチーフでした。

 一方で、目の色は普段は変えて描くことが少なくて、自然な黒い目の子を描くことが多いんです。なので、そこはどうやって描こうか少し悩んだ部分でもありました。模索するなかで、全体を赤にするのではなく、目の中に赤い星を入れようというアイデアから、星をモチーフに全体も描いていきましたね。「星のステッカーをいろんなところに付けたら可愛いかな」みたいな感じで、最後には星だらけになりました(笑)。そういうところも含めて、悩みながらも楽しく描けたのでよかったかなと思います。

©tamimoon

――今回はSeikaちゃんの公式ビジュアルからイメージを膨らませた部分も多いかと思いますが、普段の創作ではどこからインスピレーションを得ることが多いですか?

tamimoon:普段はファッションであったり音楽だったり、自分の好きなものから浮かんでくることが多いです。あと最近は、今回のようなシンガポール遠征もそうなんですけど、新しい場所や考え方に触れることが創作意欲に繋がっていると思います。

©tamimoon

 これまでは、自分の考え方がある意味で“凝り固まっている”のを感じていて。「自分はここからインスピレーションを受けています」というのが明確にあったんですけど、最近はいろんな考え方をするようになって、いろんな場所や経験、文化からもインスピレーションが湧くようになったと感じます。

――自分の中の芯は残しつつ、さらにその幅が広がったという感じでしょうか。今回の『CSF』の遠征で言うと、スタッフと一緒に行動するのが基本だったこともあって「自分ひとりでは行かなかった場所」に足を運ぶ機会もあったと聞いています。自分の知らないところから意外なものに出会ったり、単純に国が違うことで文化が違ったり、いろんな発見がありそうですよね。

tamimoon:そうですね。海外での発見もそうですし、今回ドワンゴの方をはじめ、いろんな方が自分のために関わってくれたり、動いてくださったりしたのがすごくありがたくて。そういうものを間近で見て、そこでも一つ考え方が変わりましたね。自分のためにこれだけ頑張ってくださっているのだから、自分もそれに応えたいと思うようになったというか。今までは、自分のために絵を描いていて、それを届けられればいいと思っていたんです。

 でも、前回の『AFA』に参加してからは見てくれる人のことも考えるようになったというか。「見てくれる人に良い影響を与えられたらな」と考えるようになったと思います。それって、自分にとっても健康的だなと思えるようになりました。

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