芳賀敬太にとっての音楽的な「TYPE-MOONらしさ・Fateらしさ・FGOらしさ」とはーー『FGO』最新OSTを機に考える

 スマートフォン向けFateRPG『Fate/Grand Order』の楽曲をまとめたオリジナルサウンドトラックの第7弾『Fate/Grand Order Original Soundtrack VII』が7月30日にリリースされた。

 同作は「オーディール・コール 序」〜「オーディール・コール 0」〜「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」〜「奏章Ⅱ 不可逆廃棄孔 イド」〜「奏章Ⅲ 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」などのメインシナリオや、2022~24年の開催イベントのゲーム楽曲、TVCMで使用されたボーカル楽曲である「A Stain」、「Beyond The Gray Sky」「Wonderer (feat. ReoNa)」「The Burn Phase」「連星」「七星神威 (feat. 310)」「洋燈」も収録された4枚組全100曲の超大作となっている。

 「奏章」として始まったエクストラクラスの物語は、さまざまなTYPE-MOON作品の文脈とも合流しながら加速を続けている。同ゲームのメインコンポーザーである芳賀敬太へのインタビューでは、現在の『Fate/Grand Order』が描く世界観や芳賀にとっての「TYPE-MOONらしさ・Fateらしさ・FGOらしさ」の違い、さらには初の顔出しを行った『「Fate/stay night」20周年記念コンサート Finale』を終えての思いが語られた。(編集部)

※『Fate/Grand Order』本編シナリオへの言及も含まれますのでご注意ください。

シナリオライターチームの“集大成”である「奏章」に全力で応えたい

ーー『FGO』のオリジナルサウンドトラックとしては7枚目となる今回の『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅶ』。ついに収録曲は100曲、ディスク枚数も4枚となりました。大ボリュームですね。

芳賀:だんだん曲の数が多くなっているのは決して意図的ではなくて。サウンドトラックとしてリリースするなら、シナリオの区切りのいいところでリリースするほうがいいのかなとタイミングを考えていたら、この曲数・この枚数になったというだけなんですけどね(笑)。

ーー今回はメインシナリオとしては「オーディール・コール 序」〜「オーディール・コール 0」〜「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」〜「奏章Ⅱ 不可逆廃棄孔 イド」〜「奏章Ⅲ 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」と、奏章の楽曲を収録した作品となりました。芳賀さんに奏章の話を伺うのは初めてなので、前提の話から入りたいのですが、マイルームやタイトルなども一斉に変えることになったこのタイミングで、奏章全体の音楽はどのようなものにしようと考えたのでしょう?

芳賀:まずは第2部 第7章「Lostbelt No.7 黄金樹海紀行 ナウイ・ミクトラン 惑星を統べるもの」からの流れを一旦切ることを前提としました。第2部の1〜7章で作ってきた流れは、後半になるにつれてどんどん盛り上がっていきましたし、そこからさらに盛り上げるというのは終章になるので違うかなと。マイルームやマップについては、システム的な流れをまずは気にしましたね。

ーーシステム的な流れ、ですか。

芳賀:音楽が食い込むように被さってしまわないように気をつけたり、繋がりの部分に違和感がないようにしたかったんです。画面遷移についてスタッフに聞いたら「白紙化地球のマップから各章を選択すればすぐに次のマップの曲が流れる」ということだったので、それならマップ曲である「白紙化地球」については他より強い曲にしてはいけないと思い、音響感や質感で勝負するイメージの曲にしよう、と決めて取り掛かりました。

ーー「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」の話でいうと、このお話を聞いている最中にちょうどインドラのイベント(「インドラの大試練 ~巡るブロークン・スカイ~」)が行われていますが……。このあたりのお話って「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」の段階では聞いていたのでしょうか?

芳賀:インドラというサーヴァントが出ることはその時点で聞いていましたが、だからといってインドっぽい曲が必要かどうかもわかりませんし、出し惜しみしていても仕方ないので、インド曲のストックなどは作らずに進めていました。「奏章」は第2部におけるシナリオライターチームの“集大成”でもあるので、とにかく全力で応えようというのが根本のテーマでもありましたね。

ーーそんな全力で書かれた各シナリオについて、芳賀さんのなかではどのように解釈をして、音楽に落とし込んでいったのでしょうか。

芳賀:まず、最初の「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」で急に「エクストラクラスを濫用することはやってはならないことだった」という話になっているので、自分としてはそれが具体的にどういうことなのかを確認したうえで「奏章」を貫く曲が必要なのかという話し合いをしました。「into the end」や「白紙化地球」「クラススコア」のような楽曲を軸にして、各章で派生させていく、なんてアイデアもあったのですが、結果的にはそれぞれの物語に向き合って、各章でいちから作るというスタイルになっています。

 そうした流れで「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」は自分のなかで「『Fate/EXTRA』シリーズのテイスト×インド」というイメージで。あまりインドインドしないように気をつけながら、どちらかといえばEXTRAシリーズの色を強く出すイメージでした。

ーー「奏章Ⅰ 虚数羅針内界 ペーパームーン」はEXTRAシリーズが初出の「アルターエゴ」を再定義していたり、『Fate/EXTRA』のキャラクターが別の形で鍵を握る存在として登場したりと、物語的な結びつきも大きかったですもんね。「奏章Ⅱ 不可逆廃棄孔 イド」についてはどうでしょう?

芳賀:自分が元々抱いている巌窟王のイメージ――転じてイドにおけるアヴェンジャーのイメージを踏まえて、ピアノの音を中心にしようと決めていました。「決別の炎 ~巌窟王モンテ・クリスト戦~」では、ずっと頭の中にはあった巌窟王のイメージをようやく形にすることができたと思います。

ーーたしかにピアノ曲が多い印象です。あとはFGOでここまで現代劇っぽい曲や日常感のあるテイストの楽曲を使っているのも新鮮でした。

芳賀:たしかにそうですね。舞台を東京にしたシナリオとしては1.5部の新宿もありましたが、あれはどちらかというと伝奇寄りではありましたから、しっかり学園モノっぽい音楽的なアプローチをFGOのなかで行ったのはイドが初めてかもしれません。TYPE-MOON作品なのに伝奇を意識しないアプローチ自体が自分の中ではあまりなかった気もします。いま考えると不思議ですね……。

ーーそれは後半に待っている展開とのギャップを意識して、意図的に平和な日常を大げさに表現する、ということでもあったのかなと思うんですが。

芳賀:間違いなくそうですね。ある意味出オチ的な作り方をしたとも言えるかもしれません。

ーー後半でいえば、あそこまで露骨な悪役も中々いないだろうというカリオストロの音楽的な描き方も面白かったです。

芳賀:わかりやすく悪者、そして言うほど大物ではないという感じでしたよね(笑)。「Avengers Arise ~最終使徒カリオストロ絶望伯戦~」は大イントロ~イントロ~本編という特殊な構成にしているのですが、これはバトルの導入に合わせる形で作ったからです。

ーー特殊な構成といえば、直近はゲーム的なギミックというか、特殊な演出も増えましたよね。音楽を作る側としてもこの辺りの変化とは無縁ではないと思うのですが、そのような演出に合わせて書く楽曲も変化していますか?

芳賀:最初から決まっているものはそこに合わせて作りますが、制作の終盤で全体の演出を詰めるなかで「そういう形がいいんじゃないか?」と追加されるものもあるので、その場合は作っていた楽曲を演出に合わせてアレンジするケースもあります。バトル曲の場合、戦闘内で宝具を使うとなったときに、宝具BGMがボス曲のサビから転用しているパターンだと同じフレーズが重なったりすることもあるわけで……。そうならないように、バトルのイントロで頭サビ的に使って、ループの中でも帰ってこないところに置いてしまうという作り方もあります。そういう流れで“大イントロ”のような概念は生まれていますね。

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