連載:エンタメとテクノロジーの隙間から(第六十五回)

高いほうがイイって、誰が決めた? CMFの新イヤホン『Buds 2/2a』と過ごした数日間、価格と音のギャップにやられた話

 リアルサウンドテック編集部による連載「エンタメとテクノロジーの隙間から」。ガジェットやテクノロジー、ゲームにYouTubeやTikTokまで、ありとあらゆる「エンタメ×テクノロジー」に囲まれて過ごす編集部のスタッフが、リレー形式で毎週その身に起こったことや最近見て・試してよかったモノ・コトについて気軽に記していく。

 第65回は、先月からRealSound Tech編集部にジョイン。そんなことはさておき、一番好きなサッカー選手であるトレント・アレクサンダー=アーノルドのリバプール退団をうけて、悲しみに暮れている林がお届けします。

 記念すべき初レビュー記事は、Nothingさんからお借りした、Nothingのサブブランド「CMF」の最新イヤホン『CMF Buds 2』と『CMF Buds 2a』のファーストインプレッションを備忘録的に書き記したいと思います。

 ただ、そのままレビューするのはつまらない。そうだ、密かに夢みていた「好きな雑誌POPEYEの、あの独特でクセのある文体を模写した記事を書いてみたい!」という夢をここで叶えようと思う。ガジェットも好きで、POPEYEも同じくらい好きーーそんなニッチな層に、この記事が届いてくれたらうれしい。

安っぽいって? まあ、そうかもしれない。でも、そこがCMFっぽくて、なんだかいい

 CMFを語るなら、やっぱり外せないのが“手が届く価格”と“ちょっと気の利いたポップなデザイン”。プラスチックの質感というか、チープさは正直あるけど、そこがなんだか妙にいい。

 どちらも似ているけど、サイズにはほんの少し違いがあって、黒のほうが気持ち大きめ。そのほか、USB Type-Cポートの位置やLEDインジケーターの場所は同じだけど、ボタンは違う場所についていたり、まるで“間違い探し”みたいだ。

 CMFのイヤホンで、ひときわ目を引くのがこの回るダイヤル。初めて見たときは「お、これはボリューム調整かなにかかな?」なんて思ったのだけれど……まさかの、とくに機能なし。正確には、アクセサリーストラップをつけるための穴がある。けれど、それ以上でもそれ以下でもない(別モデルの『CMF Buds Pro 2』の場合は、ここで操作できるらしい)。

 ただ、この遊び心が「CMF、好きだな〜」と思うポイントだったりはする。

 ほかにも、「Ultra Bass」やら「ChatGPTを統合」やら、便利そうな機能はいろいろあるけれど、今回はそのへんはスルー。全部を網羅するよりも、音と、自分が「ん?」と思ったところにだけフォーカスしたい。

ひとまず、ブラックの方を耳に入れてみた

 こういうイヤホンを試すときに、毎回聴くって決めてる曲がある。それがエド・シーランの「Shape of You」。今回も、やっぱりそこから。なんというか、耳のチューニングみたいなものだ。

 で、聴いてみた感想だけど、正直これが1万円を切ってるっていうのは、ちょっと驚き!

 個人的には、一応上位っぽい立ち位置の『Nothing Ear (a)』も使っているんだけど、音の傾向はけっこう似ていた。もちろん、ハイエンドモデルみたいな、より細かな繊細さとか、強力なノイキャンはないけど、全体的なクオリティはしっかりしていて、点数をつけるなら80点は超えてくると思う。

 音楽はもちろん、ラジオもポッドキャストも、気づけば一日中なにかを流してる。そんな生活をしてるもんだから、音の聴こえ方にはちょっとこだわりがあるんだけど、このイヤホンは音声も違和感なくクリアな音が届いてきて、思った以上にストレスなく使えた。

 でも、あえて言うならノイキャン。効いてはいるっぽいんだけど、隣の席の人の会話の内容がうっすら理解できちゃったり、電車の中でも「The next station is Shibuya〜」が貫通してきて、“無”の世界とはちょっと遠い。Appleの『AirPods Pro』とか、Sonyの『WF-1000XM5』とか、あのあたりのハイエンドに慣れてると、やっぱり差は感じる。

 とはいえ、それを差し引いても、この価格とデザインなら十分すぎるんじゃないかって思う。むしろ、これは“カバンに常駐させておきたいサブ機”って感じで、しっくりきた!

次は、このオレンジの方。見た目からして「ザ・CMF」って感じの、ポップで愛嬌のあるやつ

 この2機種、見た目がほんとうによく似ている。色以外で違いを挙げるなら、ダイヤルが一部透明になっていることくらい。たったそれだけの違いなんだけど、そこにちょっとした“トキメキ”があるのがCMFらしい。使い続けるうちにじわじわと愛着が湧いてきそうな、そんなワンポイントで、地味だけど、こういうディテールの積み重ねが“好き”をつくっていくんだよな〜。

 性能面では、バッテリーなどに差があるらしいけど、今回そのへんはスルー。全部を網羅するよりも、音と、自分が「ん?」と思ったところにだけフォーカスしたい(大切なことなので2回目)。

 で、正直な話、音には違いを感じた。一言でいえば、“ちょっとチープ”で高価格帯のイヤホンに慣れていると、どうしても「物足りなさ」を感じてしまった。

 とくに中〜高音域が顕著で、安めのイヤホンによくある「全然聴けるんだけど、聴けば聴くほどすこ〜し浅く感じる」っていう、あの感じ。たとえば「Shape of You」でいえば、イントロ後半に聴こえてくるギターのカッティング音にチープさがある。ちょっと乾いた音というか、空気の層が一枚足りないというか……。

 ただ、全部がダメってわけじゃなくて、ノイキャンに関していえば、むしろこっちの方が効いてる気がする。さっきの電車案内の話でいえば「The n--t sta-- is Shi--ya〜」みたいな。なんとなく聴こえるけどちゃんとは聴き取れないみたいな、そんな感じだ。

 でも結局は、好みや期待値の問題だとも思ったり。音質よりも価格と気軽さを重視していて、「とにかく安くて、ある程度聴ければOK」っていうニーズには、しっかり応えてくれてるはず。まさに、そういう人に向いてるイヤホンだと思うし、そこを求めているなら全然アリ。むしろ、この値段でここまでやってくれるなら、正直、拍手したくなるレベルかも!

「高い ≠ 良い」:なんというか、自分の耳にちょっと自信がなくなるくらいの事件発生…!

 ……さて、そろそろ気づいた人もいるかも? そう、ここまで、“あえて製品名を出していない”ってことに! 理由はシンプルで自分が体験したちょっとした混乱を、そのまま味わってもらいたかったから。

 というのも、このイヤホンを開封してからの1時間、ふたつのモデルを、まるっと逆に認識したまま使ってたから…!

 完全に思い込みってやつで「お、こっちのほうがいいな」とか「あれ、ちょっとチープかも?」とか勝手に納得してたんだけど、改めて製品名を見てみると、「あれ、なんかおかしいぞ?」と。その“ズレ”に気づいたときの「ん?」となったときのあの感じが、なかなかの衝撃だったりして。

 某有名ドラマのセリフを借りるなら「事件は耳の中で起こってるんだ!」っていう感じ。

 もっと具体的に言うと「いや、こっちのほうが明らかに音がいいし、ブラックが高い方のBuds 2でしょ。で、オレンジが安い方のBuds 2a。うんうん、間違いない」って、完全に思い込んでた。でもそれが、まさかの逆。100台以上イヤホン試してきた自負もあったし、自分の“耳”にはちょっとだけ自信あったんだけど、あっさり崩された。まさか、ここで自信喪失するとは……。

 というのも、そもそもこの2機種、見た目がそっくりすぎて、どうやって見分けたらいいのか分からなかった。後になって気づいたんだけど、判別の手がかりは……なんと内側にちょこっと印字されている文字だけ。そりゃあ間違えるって。

スペックシートをにらんで、よ〜く見ると、ちょこちょこ違いがある

 改めてスペックシートを見比べてみると、音に関係してくるドライバーサイズは『Buds 2a』の方が大きいみたい。そりゃ音の差も出るわけだ、とひとり納得。やっぱり、耳で感じたことって意外と正しかったりする(自信HP1回復)。

 言い換えると「高い=良い」っていう、なんとなく刷り込まれてた思い込みがめくられたってことなのかも? 値段っていう先入観をいったんオフにして、まっさらな耳で聴いてみると「案外こっち(安いほう)のほうが好きかも…?」ってなる瞬間があるってことに、改めて気付かされた。いや〜、思い込みってこわい!

 本来、イヤホンもほかのモノも「自分にとって好みかどうか」の方が大きかったりする。そう思わせてくれた、ちょっと意外で、おもしろい体験になった。

◼︎『CMF Buds 2 / 2a』製品仕様
CMF Buds 2
・価格:7,800円(税込)
・カラー:ライトグリーン、ダークグレー、オレンジ
・11mmダイナミックドライバー
・48dB ハイブリッドアクティブノイズキャンセリング
・最大でケース使用時は55時間、イヤホンのみでは13.5時間再生可能
・Special Audio Effect
・IP55の防塵防水

CMF Buds 2a
・価格:6,000円(税込)
・カラー:オレンジ、ライトグレー、ダークグレー
・12.4mm ダイナミックドライバー
・42dB ノイズキャンセリング
・最大でケース使用時は35.5時間、イヤホンのみでは8時間再生可能
・IP54の防塵防滴

で、結論をいうと個人的なオススメは『Buds 2α』

 価格差は1,800円くらい。逆に価格差がそこまで離れていないからこその選ぶ難しさもあるんだけど、個人的には『Buds 2a』に軍配。

 音の好みってのもあるし『Buds 2』だけにある、空間オーディオとか、より高性能なマイク性能とかは、正直あんまり使わないんだよな〜ってのもあって。だったら、純粋に音が好みな『Buds 2a』でいいじゃん! って話(しかも安い←結局ここは大事)。

 まあ、どっちにも良さがあるし、気になるならいっそ2つ買って、聞き比べてみるのも楽しいと思う。

正直に言うと、一番気に入ったのは、今回の2モデルとは関係ない『Nothing Ear (open)』

 今回、ダークホースになったのが同時にお借りした『Nothing Ear (open)』。2024年10月に発売されたオープンタイプのイヤホンだ。

 じつは、一時期使っていたことがあったんだけど、同じ頃にAppleから『AirPods 4』が発売されたりしたこともあって、年明けごろには手放しちゃったという少しだけほろ苦い過去がある。

 でも、それから状況は少し変わって、リモートで働いてた日々から、今じゃ週5出社する毎日に。そんな日々の中で「お疲れさまです」なんて声をかけられることも。そうなると、まわりの音がちゃんと聴こえるイヤホン、必要じゃない? ってことで、再び日の目をみたってわけ。

 詳細は割愛するけど、音質はしっかりしてて、長時間つけてても疲れにくい。骨伝導やイヤーカフ型のイヤホンって、そこがどうしても引っかかってたんだけど、これは違った。そう、探していたのは、まさにこんなイヤホンだった!

 仕組みはいたってシンプルで、耳のすぐそばにちっちゃなスピーカーを置いてる感じ。だから音量を上げすぎれば、まあ当然音は漏れる。でも、音量をほどほどにしておけば、まわりの自然音にふんわり溶け込んでくれて、これが案外いいバランスだったりする。デスクワークのときも、駅までの道すがらも、休日にふらっと近所を歩くときも、ちょうどいい音のミックス感で音楽やラジオと一緒にいられるのが、なかなかいいんだよな〜。

 とはいえ、そういう構造なわけで、ノイキャンは皆無。まあ、そのへんは“ギブアンドテイク”ってやつで!

どうせ毎日使うなら、自分が“いいな”って思える見た目のものを選びたい

 デザインって、意外と大事だ。性能ももちろん大切なんだけど、どうせ毎日使うなら、自分が“いいな”って思える見た目のものを選びたい。そういう意味でも『Nothing ear (open)』の、前衛的なルックスにはグッとくるものがある。

 街を歩けばAirPodsばかり、っていう状況で「あれ、それなに?」って思われるようなイヤホンをつけてると、ちょっとだけ気分がいい。いまのところ使ってる人も少ないから、被りも少なくて、個性を出したい派にはうってつけ。ケースがちょっと大きめで、ポケットに入れるにはややかさばるのが惜しいところだけど、そのあたりは次のモデルでうまくやってくれるんじゃないかな〜なんて、勝手に期待してたりする。

 というわけで、長くなってしまったけど、今回のファーストインプレッションのまとめとしては『CMF Buds 2a』が音も価格もちょうどよくて個人的にはオススメ。そして『Nothing ear (open)』は気づけば、また欲しくなってしまうくらい、じんわりと味がでてくるスルメイヤホンだったってこと。

 貸出品だから返却しないといけないのが、正直さびしい……よし、もう一度買おう。というわけで『Nothing ear (open)』の再購入を静かに決意し、ポケットがNothingでパンパンだった1週間に、ひとまずピリオドを打つことにした。

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