『Weekly Virtual News』(2025年3月4日号)
キズナアイが活動を再開 多くの変化を経たバーチャル業界を、元祖・バーチャルYouTuberはどう歩む
この連載で、キズナアイの活動休止を伝えてから3年の月日が流れた。ひさしぶりに現れた“親分”の姿は、少しだけ大人びて、ちょっとだけ“こちら側”に寄せた身なりになった。
2月26日をもって、彼女は音楽アーティスト「KizunaAI」として、活動を再開するはこびとなった。多くの楽曲を届けてきたアーティストとしての活動に軸足を移し、インターネットダンスミュージックを軸に据えつつも、様々なジャンルを吸収・融合させていき、より多様な楽曲を送り出していくとのことだ。
そして早速、活動再開と同時にひさしぶりのシングル「かもね」がリリースされた。MVも同時に公開され、それまでの楽曲とは少し異なる世界観を見せている。音楽アーティスト・KizunaAI最初の一歩として、何百字にものぼるステートメントよりも雄弁なアクションだ。
当然ながら、業界全体でその帰還を祝う声があふれた。同じ時代を駆け抜けた同志からも声が投げかけられており、いかに彼女が大きな存在だったか、改めて感じるところだ。
一方で、彼女が眠りについた3年の間に、バーチャルタレントシーンでは劇的といってよいほどの大変動が起きた。すっかり様変わりしたこの業界で、彼女がどのように適応していくかは注視したいところだ。
余談だが、「3年ものブランクを経た活動復帰」は、業界全体にとってもよい先例となるだろう。2024年には多くのバーチャルタレントが活動終了に至っている。事務所との折り合いがつかなくなったケースもあれば、当人が疲れ切ってしまったケースもある。自由な所属変更はもちろん増えてほしいが、同時に「長い休暇で自身を見つめ直す」選択肢も増えてほしいと、個人的にも願っている。
VTuberをMRで“呼び出す”技術に注目
KizunaAIの活動再開があまりにも大きすぎるニュースだったため、今回の連載はここで……としてもよいのだが、気になるトピックがいくつかあるので紹介していこう。
まず、前回の連載でも軽く触れた「新技術実証実験イベント」について、追加で情報公開があった。にじさんじの加賀美ハヤトがMRで眼前に出現するライブイベントを体験できたこのイベントは、ANYCOLORと株式会社stuが共同で開発したとのことだ。
低遅延なデータ伝送により、バーチャルタレントと司会者、体験者の相互コミュニケーションを、MRライブで実現できるシステムが独自開発されたらしく、会場のネットワークインフラから再設計を試みたあたり、相当な力の入れぶりがうかがえる。今後どこか別の機会でもお目にかかれたらおもしろいシステムだ。
HIKKYが提供するアバター制作Webサービス「Avatar Maker」には、『VRChat』への直通アップロード機能が追加された。ゲームのキャラクリエイト感覚でアバターを制作できるこのサービスは、昨年『VRChat』向けアバターの一部がカスタムパーツとして登場しており、作り出せるアバターの幅が一気に広まった。
アップロードおよび更新に費用が発生する点は痛いが、UnityPackageとして書き出すのは無償なので、普段から『VRChat』のアバター文化に慣れ親しんでいる人には(各パーツ費用以外で)金がかからない。『Unity』には全く触れないが、多少の出費は許容できる層とは、うまい具合に棲み分けができそうだ。
NTTコノキューが提供していたWEBメタバース「DOOR」は、3月31日をもってサービス提供を終了すると発表された。WEBブラウザから手軽にアクセスできるプラットフォームだったが、「XR/メタバース市場の変化に伴い、経営資源の集中を行うため」に、サービス終了へと至った。
手軽さは魅力的ではあるが、それゆえに体験の深度はそこそこ、なのがWEBメタバースである。国内では『VRChat』が大きな注目を集め、関連する事業も成長が見られる。流行りの場所が生まれることで、閉じられていく場所も生まれていくことは、常に意識しておきたいところだ。