“東大物理学生”がなぜYouTubeに? 突き詰める理想の世界とは たむらかえインタビュー

“東大物理学生”がなぜYouTuberに?

アカデミア界隈は帰属意識が強い?

ーー「たむらかえ」を開設した約1年後、サブチャンネルとなる「たむらかえ2」を始めましたよね。

たむら:お菓子を作っているメインチャンネルは、1本の動画を上げるのにものすごく時間がかかるんです。「深夜にアメリカのお菓子作りまくったら限界すぎた」という動画があるんですけど、それなんかもう2週間くらいずっとその動画しか作っていなかったんです(笑)。そもそも私に編集の素養がないから、調べながら編集していたというのもあるんですけど。

ーー拝見しましたが、作る量や過程もすごいですし編集もかなりこだわっているので、かなりの労力だったんだなと思います……。

たむら:それでいて、再生回数は数百回とかでした。お母さんの友達が「見てるよ〜」って言ってくれたりして、本当に身内に見られる程度というか。だからそのときに、労力と成果が見合わないことには慣れたんです。

深夜にアメリカのお菓子作りまくったら限界すぎた

ーーそこからなぜサブチャンネルを開設することになったのでしょうか?

たむら:そこで1回力尽きて、メインチャンネルをしばらく投稿していなかったんです。「どうしようかな」と思ってたころ、オモコロチャンネルの原宿さんが、“光のつまらなさ”という話をしていたのを動画で聞いたんです。

ーー“光のつまらなさ”ですか?

たむら:つまらなさって2種類あって、光のつまらなさと闇のつまらなさがあるっていう話で。光のつまらなさは、つまらないけど心地いい。疲れているときって、笑いもしないけど何も考えずにショート動画を永遠と眺める時間があったりするじゃないですか。そういう、ストレスのないつまんなさっていうのがあって、そのつまらなさも大事なんじゃないかっておっしゃってたんです。

 それを聞いて、「たしかに」と思って。最初YouTubeを始めたときに、エンタメ系の動画をやりたかったけど辞めたのって、面白いことを思いつけるのかなとか、滑るのが嫌だなって思ったからなんです。だからサブチャンネルはそうじゃなくて、もっと見やすくて、コンスタントに投稿できるチャンネルにしたいと思ったんです。作る自分としてもハードルが高くなくて、見ている方もハードルが高くない、ちょうどいいものがいいなと。

 だから、お菓子作りの動画も本当は素材が3、4時間あるんですけど、自分が長い動画を見るのはしんどいので、めちゃくちゃカットしてます。

ーー結果、10分程度の尺になっているものもありますね。私だったらもったいないと感じてしまいそうです……!

たむら:いや、もう全然気にしてないです(笑)。自分で見ていて飽きないし、面白いと思えるか何度も考えて繰り返しいるうちに、どんどん尺が短くなっていきました。

東大物理学科女子のキャンパスゆるお散歩

たむら:いまはちょっと忙しくてできていないんですけど、サブチャンネルを開設した最初の1か月くらいは、毎日投稿をしていました。これぐらいの編集と、これぐらいの長さだったら毎日出せるなっていうのをテーマに作っていましたね。

ーー実際その作り方に変えて、どうでしたか?

たむら:内容も、友達とかに話してウケた話とかを語ったりして。自分のなかに貯金としてあったものを動画にしていたので、企画が枯渇することはなかったです。喋りたいことしかなかったので。

ーー現在はどのように動画を作っているのですか?

たむら:以前は過去の出来事をエピソード的に話していましたけど、いまは後々エピソードになりそうな瞬間があったらもう撮影してますね。人生のなかで「これ撮っておきたい!」と瞬間的に思う気持ちが、私はすごく強くて。

 たとえば修論の締め切り4日前とか本当にヤバい状況なんですけど、こんな状況あんまりないなと思ってカメラを回しました。今後こんなに追い込まれることも多分ないし、実際にYouTubeに追い込まれている修論生の動画ってないので。

ーーたしかにないですね(笑)。

たむら:「こんな動画まだないかも」っていうものが出来るように意識しています。

ーーそんなサブチャンネルですが、2本目にしてかなり反響がありましたよね。

東大物理学科女子、部屋終わってるかもルームツアー

たむら:そうですね……。でもあれだけこだわったお菓子作りの動画が伸びなかったという経験をしていたので、サブチャンネルでバズるぞという気持ちはそこまでなかったんです。本当に、毎日出せるくらいの動画にすることを意識していました。

ーーサブチャンネルが伸びた理由については、どう考えていますか?

たむら:“物理学科”っていうのが大きかったのかなと思います。SNSを見てると、修士学部生とか、日常に鬱憤を持っているアカデミック界隈が自分含め一定数いるんです(笑)。そういう人たちからしたら、私みたいな動画を発信している存在は新鮮だったんじゃないかなと思います。ただ「東大生が動画を上げています」っていうだけだと、東大生はあまり見ないかもしれないです。

ーー“物理学科”というのが、ヒットの要因のひとつだったんですね。

たむら:私もそうなんですけど、アカデミック界隈は帰属意識が強いんです。だから、同じ界隈の人がちょっとポップな感じで「YouTube始めました」って活動していたら、私も見ると思います。友達とか親戚がyoutubeやってたら見ちゃうのと同じですね。

【限界】修論が0文字の東大物理学科女子のお正月vlog

ーーたむらさんの動画は、ひと目で「東大物理学生」ということがわかりますよね。

たむら:見ただけで、ちょっと面白いと思ってもらえるようにしたかったんです。たとえば、芸人のジェラードンさんや粗品さんの動画も、サムネイルとタイトルだけでもうちょっと面白いじゃないですか。その方が、視聴者側も再生するハードルが低いと思うんです。

 そのためには、サムネイルとタイトルを見ただけで自分が何者なのかわかる方がいいかなと。幸いこのブランドイメージがすごく強いので、わかりやすいフリとして使っちゃえと思って、タイトルにもずっと「東大物理学科女子」というワードを入れています。

ーーなるほど。

たむら:もし何もワードを入れなかったら、私が女性ということしかわからないと思うんです。なんか女性ひとりのYouTuberって、ひとりで深夜にご飯食べるとかそういうコンテンツに括られやすいと思うんですけど、そういう見方をされたくなくて。自分自身そういった動画はあまり見てきていないし、狙ってるのはそこではなくて。もちろん面白いと思われたいというのが大前提としてあるんですけど。

ーー視聴者側の視点にも立ちつつ、自身の見え方を考えているんですね。

たむら:そうですね。基本的に、「こんな動画がYouTubeにあったらいいな」と思いながら作っています。

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