大反響の“配信者向けカラオケ”を使いこなすには? 『カラオケJOYSOUND for STREAMER』運営に聞く
発表時に大きな反響を持って迎えられた『カラオケJOYSOUND for STREAMER』は、配信者が“歌枠”や“動画投稿”としてYouTubeやTwitch、ニコニコ動画、OPENREC.tvなどのプラットフォームで配信を行う際、気軽にカラオケを活用した配信が可能な個人向けサービス。楽曲数は3万曲以上を収録し、毎月約100曲が追加される予定。配信を盛り上げる採点機能や、キー変更、クロマキー合成に対応したグリーンバック背景などを搭載している。並行して『カラオケJOYSOUND for Steam』もリリースされたため、これらの使い分けがわかっていないユーザーもいたり、使い方を間違えて動画がBANされるユーザーもいたりと、反響の裏側では様々なトラブルも起こっている。
そこで今回は運営元である株式会社エクシングで開発担当 を務める佐藤 港氏と小山智泉氏に、同サービスをうまく使いこなすコツや注意点、さらに初心者〜中級者が躓きやすいハードルについても聞いた。(編集部)
大反響の「JOYSOUND for STREAMER」 リリース前後は予想外の連続だった
ーー「JOYSOUND for STREAMER」はどんなサービスなのでしょうか?改めてターゲットやリリースの目的を教えてください。
佐藤:日頃から歌の配信をしている、配信中級〜上級者の方をコアターゲットに設定していました。彼らが抱えている課題として「歌の配信をしたいと思ったときに、著作権ルールに対する正しい理解が深まっていないことから手軽に配信できない」ことがあげられます。「カラオケJOYSOUND for STREAMER」は、著作権等管理事業者が管理をしていて、正しく使えば著作権を侵害するリスクのない楽曲を提供することを目的として誕生しました。
ーーサービスがローンチされると、さまざまなメディアに取り上げられ、大反響を呼びましたね。この反響の大きさは想定内でしたか?
佐藤:完全に想定外でした。ニーズがあることは事前調査で把握していたのですが、それでもニッチなサービスだと思っていましたから。歌を歌う配信者の方は多いですが、カラオケの配信となると母数は減るので、ここまで反響をいただくなんて正直驚きました。
ーー予想以上の反響を受けて、対応が必要となったタスクや課題はありましたか?
佐藤:2つあります。1つはガイドラインの整備ですね。ガイドライン策定にあたってはゲーム会社様のガイドラインを参考にさせていただきました。ただ、ゲームは自社で権利を保有する楽曲を使うケースが多い一方、カラオケではさまざまなアーティストの楽曲を扱います。著作権のうち、弊社が許諾できるのは「著作隣接権」という部分のみなのですが、このほかにも「著作人格権」や「著作財産権」があり、1曲ごとに状況を確認する必要があることから、熟考を重ねてガイドラインの制定を行いました。しかしながら、リリース前後に著作権の法律的な説明を省略した内容がSNSで拡散されてしまったこともあり、反響の大きさもふまえて、誤解や齟齬が起こりにくい表現に整える必要があると考えています。
もう1つは機材や設定に関するサポートの強化です。先ほどお話ししたように、もともとはある程度配信経験のある中級者以上の方をターゲットにしていましたが、ありがたいことに幅広い層の方々に広く認知していただくことができました。ただ、サービス内の設定を含め、機材やソフトの設定の部分でつまづく方が多く見受けられました。今後はこういった課題も解決できるようサポート体制を強化したいと思っているところです。
ーー「齟齬のある内容」とは、具体的にどんなものだったのでしょうか?
佐藤:「収益」という言葉に対して、認識のズレがあったように思います。僕らとしては、「収益」とは広告収入に加えて、投げ銭やスーパーチャット、メンバーシップ等の機能をすべてひっくるめたものと考えていました。ただリリースして顕著だったのが、「収益=広告収入」が一般的な認識だということです。収益化できるということは、広告収入をすべて得られることだと解釈されてしまいました。というのも、YouTubeでは「音楽等の既存著作物を利用した動画で得た収益は権利者に分配する」という明確なルールがあるので、配信者が広告収入を100%得られる仕組みにはなっていないです。そんな中で僕らが「収益を得たい方向け」と記載してしまったために、100%の収益を得られるものだという誤解を生むこととなってしまいました。
ーー「収益」という言葉に対して、ユーザーがイメージするものと、実際に作る側との認識が違ったんですね。楽曲をカラオケボックスで利用するのと、配信で利用するのとでは、権利者との権利関係も異なると思いますが、ラインナップはどのように決められたのでしょうか?
佐藤:いち個人が配信に利用できるカラオケサービスはこれまでになく、業界としても挑戦的な試みだと考えています。そのため、まずは提供側が想定した使い方以外の使い方をするユーザーが登場するリスクも考慮に入れ、楽曲数を制限する形でのラインナップとさせていただきました。
小山:配信ですとアーカイブが残ってしまいますし、通常のカラオケボックスのように歌って終わり、ではありません。ある程度のことは予想しつつも、使われ方は未知数なので、まずはサービスをお届けすることを優先しました。ラインナップの拡充への要望はとても多いので、楽曲を拡充していきたいです。
ーーまずはリリースを優先し、マイクロな規模感でスタートしたんですね。
佐藤:カラオケ業界の中でも初めてのことなので、新しい文化を我々JOYSOUNDが作っていきたいという思いでスタートしました。先駆者として、もちろん楽曲追加を進めていきたいところです。
ーーリスクへの想定はたくさんされたと思いますが、反対に予想外のユニークな使われ方はありましたか?
佐藤:本リリースの前に実施したベータ版での話ですが、採点が難しい楽曲で特定の点数を取れたらクリア、といった企画をグループでやられているのを拝見しました。コンテンツ性があってユニークですよね。
ーーカラオケの採点機能を使った配信というのは、たしかにバラエティ番組的で面白いですね。
佐藤:せっかくJOYSOUNDが作るのならば、絶対にカラオケボックスの採点機能を取り入れたいと思っていて。それをうまく使って企画として昇華させていて、おもしろい事例だなと思いながら拝見しました。
ーーそのほかに面白い使い方はありましたか?
佐藤:あとはテクニカルな話で言うと、音の遅延の問題で、ボイスチェンジャーを使われている方とは相性が悪いと認識していたのですが、そのハードルを越えて使ってくださる方がいたことは、とても驚きましたし、感動しましたね。VRChatと組み合わせて3Dなステージを作って配信している方もいて、すごく良い見せ方だと思いました。
小山:マイクでプリアンプを使われる方もいますし、想定した以上に充実した機材を揃えている方が多いですよね。
ーーストリーマーならではのカラオケ配信スタイルも生まれ、さらに配信文化が盛り上がりそうですね。新たな文化を作る第一歩を踏み出されたことは、大きな功績だと思います。
佐藤:収益についての誤解や、予想以上の反響はありつつも、ポジティブな反応やユニークな使い方を見ることができて、本当にリリースして良かったと感じています。サービスをさらに発展させていくために、まずはガイドラインや機材面のサポート体制などを整えていきたいです。