『ポケモンSV』が国内830万本販売で“初代超え” 成功を支えた挑戦の姿勢、そして強固なブランド力
株式会社ポケモンは11月18日、Nintendo Switch向けに展開する『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(以下、『ポケモンSV』)の国内累計販売本数が830万本を突破し、シリーズの国内最高販売本数を更新したと発表した。
誕生から28年の歴史を経て、シリーズがようやく到達した“初代超え”の高み。本稿では、『ポケモンSV』がシリーズの国内最高販売本数となった理由を考えていく。
トレンドの要素を取り入れたナンバリング最新作『ポケモンSV』
『ポケモンSV』は、2022年11月18日にNintendo Switchで発売となった「ポケットモンスター」シリーズの最新ナンバリングタイトルだ。プレイヤーは従来の作品どおり、ゲーム内に数多く登場するポケモンたちとともに、最強のトレーナーになることを目指していく。
特徴となっているのは、オープンワールドの世界と、自由に攻略順序を決められる仕様。ゲーム内には、「チャンピオンロード」「レジェンドルート」「スターダスト★ストリート」という3つのメインシナリオが登場するが、どれを選択するか、さらにはそれぞれのなかでどのような順番でストーリーを進めていくかといった点がプレイヤーの手に委ねられている。
こうした性質から同タイトルは、「現代のトレンドにフィットさせたシリーズの新しいカタチ」として、広くファンに受け入れられてきた。全世界においては、2024年9月末時点で2,569万本を販売している。
「ポケットモンスター」シリーズのなかで、これまで最も国内販売本数が多かったのは、ナンバリング第1作の『ポケットモンスター赤・緑』だった。1996年の誕生から28年の歴史を経て、ようやく最新作が“初代超え”という偉業を達成した形だ。
『ポケモンSV』“初代超え”の3つの理由
なぜ『ポケモンSV』は、他のシリーズ作品が到達できなかった高みへと至ることができたのか。そこには3つの理由があると考える。
ひとつは、先述したシステム面の挑戦がプレイヤーに受け入れられた点だ。これまでのシリーズの歩みを踏まえると、『ポケモンSV』に盛り込まれた変更点は、ある意味でスピンオフ的だったと言える。オーソドックスなコマンドRPGとして長く支持を獲得してきた「ポケットモンスター」を、自由かつシームレスな体験を中心に据えたものへと変えることは、シリーズにとって決して小さくない一歩であったはず。こうした積極的な変化がポジティブに受け止められたからこそ、同タイトルは初代超えの偉業を成し遂げることができたのかもしれない。結果的には、オープンワールド化に起因すると見られる処理落ちなど、少なからず問題も発生したが、発売前の期待感が初期の販売本数に影響したことを含め、挑戦は成功だったと言えるのではないだろうか。無論、その裏に、育成や対戦などの面においてのゲーム性の維持や、リリースから約半年後の『Pokémon HOME』への対応、2023年9月~翌年1月にかけてリリースされた有料追加コンテンツ『ゼロの秘宝』に集まる好評があったことも忘れてはならない。
2つめは、シリーズがファンの世代交代に成功している点である。直近では、『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』のリリースに集まる反響も話題となった。その盛り上がりを目の当たりにして感じたのは、少なくない同タイトルのユーザーが「ポケットモンスター」の誕生当時を知らない、さらに言えば、まだ生まれていなかった世代であるとみられることだ。
このようにシリーズが各時代の既存ファンに依存することなく、常に新規を開拓し続けてきたことが、28年目の偉業につながったのではないか。もし「ポケットモンスター」が初期ナンバリングの支持層に頼ったシリーズであったならば、販売数は尻すぼみとなっていたに違いない。歴史のどこかで新作の開発/発売が打ち切りとなっていた可能性も否定できないだろう。
こうした動向の背景には、多様性のあるタイトル展開があるように思う。ナンバリングはもちろんのこと、数々のスピンオフ、『Pokémon GO』や『Pokémon Sleep』といったユーザーの暮らしに密着したモバイルゲームの存在が、「ポケットモンスター」を老若男女を問わず愛されるシリーズへと変化させてきたのではないだろうか。その延長線上に『ポケモンSV』の快挙があったのだと言える。
最後に、忘れてはならないのが、対応するNintendo Switchの台頭だ。いくらシステム面の挑戦が受け入れられ、シリーズの世代交代が成功していたとしても、マーケットが限られていれば、物理的に830万本という数を販売できなかったことは言うまでもない。
Nintendo Switchは2024年2月時点で、国内累計販売台数が3,334万台を突破している。これにより、国内のゲーム機販売台数では、「ニンテンドーDS」シリーズの3,299万台を抜き、歴代1位となった。
「ポケットモンスター」からは『ポケモンSV』のほかに、『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイ』『ポケットモンスター ソード・シールド』(以下、『ポケモン剣盾』)『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』『Pokémon LEGENDS アルセウス』の4作品がNintendo Switchでリリースされているが、うち3作品がスピンオフやリメイクであることを考えると、比較対象となるのは、ナンバリング前作の『ポケモン剣盾』だろう。同タイトルの国内累計販売本数は、2022年3月末時点で564万本となっている。リリースされた2019年はまだコロナ禍以前で、Nintendo Switchが爆発的に普及する前だった。『ポケモンSV』の発売年の国内累計売上本数が推計434万本(ダウンロードを除く)であることを踏まえると、同機の台頭を背景に、前作とは初動の時点から販売本数の差があったものと考えられる。もちろん、『ポケモン剣盾』もまた、コロナ禍でのNintendo Switchの普及という追い風を受け、数字を伸ばしたが、“初代超え”には惜しくも届かなかったというのが実態のようだ。
「ポケットモンスター」シリーズは2025年、スピンオフ最新作『Pokémon LEGENDS Z-A』をNintendo Switchで発売予定としている。おそらくその後には、ナンバリングにおける最新作の発表やリリースも控えているだろう。一連の新作がどのような結果を残すかによって、『ポケモンSV』の830万本という数字の持つ意味もまた変わってくるのではないか。シリーズの誕生から30年弱。『ポケットモンスター』は、人気作としての新たな時代へと突入したと言えるのかもしれない。
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