ゲーム業界の“X離れ”は加速するのか? 『原神』がXでのイベント告知終了へ

 『原神』の運営は11月12日、タイトルのイベントに関連するお知らせを今後、Xなどを通じてではなく、miHoYoの公式フォーラム『HoYoLAB(ホヨラボ)』内にある原神公式チャンネルでのみ行っていく方針であることを明らかにした。

 なぜ『原神』はユーザーとの既存の大きな接点を手放すという判断に至ったのか。その理由から、今後の業界動向を予測する。

miHoYoが手掛ける人気オープンワールド・アクションRPG『原神』

【原神】ゲームプレイ トレーラー

 『原神』は、「崩壊」シリーズや『ゼンレスゾーンゼロ』などの作品で知られる中国のゲームスタジオ・miHoYoが開発/発売を手掛けるオープンワールド・アクションRPGだ。舞台となるのは、7人の神が統治する7つの国で構成される幻想世界・テイワット。主人公である双子の兄妹は、「天理の調停者」に連れ去られた片割れを探すため、各国をめぐる冒険の旅へと出かけていく。

 特徴となっているのは、魅力的なキャラクターたちの存在と美しいグラフィック、アクション性豊かなバトルシステム、プレイの自由度などだ。こうした点が評価され、同タイトルは2020年9月のリリース以降、たちまち人気タイトルの仲間入りを果たした。初月の売上は2億4,500万ドル(同約390億円)にのぼり、モバイルゲームとしては過去最大級のローンチになったとも言われている。サービス開始から12日間の収益で、決して小さくないであろう開発費をすべて回収したとの識者の見立てもある。

 当初、モバイルとPC、PlayStation 4向けにリリースされた『原神』だが、約半年後の2021年4月にはPlayStation 5へと移植。去る2024年11月20日には、Xboxプラットフォームにも対応した。ローンチから4年以上が経過してもなお、広く支持され続けているモンスタータイトルが『原神』だ。

XのAI学習への対応をめぐる騒動はゲーム業界にも飛び火

【原神】ゲームプレイ トレーラー

 ゲーム業界に身を置くメーカーの多くは、自社が展開するシリーズ/タイトルごとに作成されたSNSアカウントなどを通じて、製品に関連するアナウンスをコミュニティへと届けている。ユーザーのあいだでも、そうしたアカウントをフォローすることが最新の情報を得るための有効な手段であると認知されてきた。その意味において、今回発表された『原神』運営の対応は、極めて異例であると言えるだろう。参考までに、同タイトルのX公式アカウントは、381.9万人ものフォロワーを抱えている。これだけ大きな接点をあえて排除する裏には、明確な意図が存在するはずだ。

 なぜ『原神』の運営は、有用であったはずの既存SNSアカウントによる告知を停止する判断へと至ったのだろうか。背景にあると考えられるのが、X社が10月18日に改定を予告し、11月15日より適用する利用規約の内容である。同社はこのなかで、「当社がお客様によって提供されたテキストやその他の情報を分析し、その他の方法で本サービスを提供、促進、改善する権利(生成型か他のタイプかを問わず、当社の機械学習や人工知能モデルへの使用やトレーニングなど)」について触れている。ユーザーの一部は、こうした内容が著作物をAIに学習させるためのものであると紛糾。関連するワードがトレンド入りするなど、物議を醸した経緯がある。

 一連の動向を受け、新興の類似プラットフォーム・Blueskyでは、1日あたり100万のペースでアカウントが新設されているという。これにより、同サービスのユーザー数は2か月ほどで倍増。全世界で2,000万に迫っている。件の利用規約の適用がスタートした11月15日には、サービスの公式アカウントを通じて、「(Blueskyでは)ユーザーの投稿をAI学習に使用しない」と明言。前述の背景もあり、こうしたアナウンスもまた、世間の注目を集めた。

A number of artists and creators have made their home on Bluesky, and we hear their concerns with other platforms training on their data. We do not use any of your content to train generative AI, and have no intention of doing so.

— Bluesky (@bsky.app) 2024年11月16日 2:17

 こうしたX社の対応が影響しているかは不明だが、ゲーム業界ではここのところ、Xと距離を取る判断へと至るタイトルがちらほらと出始めている。2023年12月には『雀魂』や『アークナイツ』の配信元として知られる中国のゲーム企業・Yostarが人気タイトルの『ブルーアーカイブ』において、2024年6月には大手プラットフォーマーの任天堂がNintendo Switchにおいて、Xとの連携を終了させている。両社ともにその理由を明かしていないため、界隈ではさまざまな憶測を呼んでいるが、諸々の事情を鑑みた結果の複合的な判断であったことは、外部からでも容易に推察できる。そのうちのひとつに、X社の動向が影響していた可能性は拭いきれない。

 騒動の発端となったXの規約改定がアナウンスされたのは2024年10月のことだったが、実はX社は2023年9月にも、AI学習を意識しているとみられる利用規約の改定を行っている。こうした同社の舵取りが自社の不利益になると、Yostarや任天堂は早々に察知したのかもしれない。

“成功作品”と“それ以外”への二極化へ。今後、X離れはさらに加速か

【原神】キャラクタートレーラー チャスカ(CV:甲斐田裕子)「調停の矢羽」

 Yostarや任天堂、miHoYoといった業界のキープレイヤーたちを中心に加速する“X離れ”。このような動きが広がることには、どのようなデメリットがあるだろうか。ユーザーにとっては、これまで一元化されていた情報を得る場が、メーカーごと、タイトルごとの外部サービスとなり、煩雑さが増すことになるだろう。複数を同時並行で遊ぶケースが珍しくないモバイルゲームの領域では、そうした精神的なハードルが「プレイするタイトルの選別」へとつながりかねない。結果、小規模タイトルはユーザーの獲得が困難となり、市場が縮小に向かう可能性もある。

 また、メーカーの目線では、これまで無料で利用できていたプラットフォームを手放すことがコスト増へとつながっていく。miHoYoのように成功タイトルを多く抱えていれば、外部に独自の接点を持つことも可能だろうが、中小メーカーにおなじ対応ができるかと言われれば、難しいと言わざるを得ない。その結果、彼らは「コスト増を受け入れて、外部発信の場を持つ」「XによるAI学習を割り切り、同プラットフォームを利用し続ける」の2択を迫られることになる。

 日本国内では2024年11月16日、モバイル向け育成ゲーム『魔法使いの約束』の運営が「Xの規約改定にあわせてコンテンツガイドライン等を見直す予定はない」とアナウンスした。この対応は、後者に分類される例と言える。どちらにしても、業界の発展には向かい風となるだろう。

 こうしたデメリットを避けるため、Blueskyに代表される後発の類似サービスが“一時的な避難場所”に選ばれる可能性もある。既存のXユーザーがそちらに流れれば流れるほど、その確率は高まっていくのではないか。しかしながら、そうしたサービスもまた、大量のユーザーを獲得することで方針を転換しかねない。先述したXの規約改定をめぐるBluesky公式アカウントの発言では、「ユーザーの投稿をAI学習に使用“できない”」ではなく、「使用“しない”」という選択的な表現だったことも一部で話題となっている。SNSがユーザーとメーカーの接点になる以上は根本的な解決が難しい、というのが現状である。

 XのAI学習への対応によって引き起こされた騒動は、ゲーム業界にも飛び火しつつある。今後、メーカーのX離れがさらに加速していく可能性もありそうだ。

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