「プレイヤーの数だけエンディングが存在するゲーム」が生まれるか ゲーム開発の最先端で起きていること

ゲーム開発の最先端で起きていること

人間と競うことから、人間に従うことを目指して

 DeepMindが開発した囲碁プレイAIのAlphaGoが代表するように、ゲームプレイAI研究は、特定のゲームについて「人間を凌駕する成績」を上げることを目標としてきた。しかし、LLMの台頭によってAIが自然言語を理解できるようになったことで、ゲームプレイAI研究は、人間と協力したり、人間の指示にしたがったりすることが新たな目標として設定されるようになった。

 DeepMindが2024年3月に発表した「SIMA」(Scalable Instructable Multiworld Agent:拡張可能かつ指導可能なマルチワールドエージェント)は、9つのゲームを自然言語による指示にしたがってプレイするように開発された(※4)。プレイできるゲームにはヤギが登場する『Goat Simulator 3』や惑星探索ゲーム『No Man’s Sky』などが含まれ、さらには4つの実験用ゲームのプレイを学習した。

 SIMAの開発にあたっては、学習データを収集するために人間のプレイヤーに2人一組となって各ゲームをプレイしてもらった。このプレイでは一方の人間が自然言語によるゲームプレイの指示を担当し、他方の人間が実際のゲームプレイを実行した。このような学習データによって訓練したことで、同AIは自然言語の指示にしたがってゲームをプレイできるようになった。

 DeepMindの研究チームは、SIMAが指示通りプレイできるかどうかを検証するテストを実施した。その結果、「戦闘」や「建設」のような正確な動きや空間認識を伴うプレイが難しいことがわかった。また、「調理する」より「食べる」ほうが難しいという直感に反する結果も判明した。

 SIMAの評価テストでは、各ゲームのみを学習した場合と、9つのゲームを学習した場合の比較も行った。この比較から、特定のゲームに特化して学習するよりも、さまざまなゲームを学習するほうが指示通りにプレイできるようになることがわかった。この結果を踏まえると、あらゆるゲームプレイの指示に対応できる汎用ゲームプレイAIを開発するには、幅広いジャンルのゲームを学習させる必要があると言える。この知見は、最近たびたび語られるようになった“AGI”(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)の開発にも役立つものと考えられる。

“動画駆動型ゲーム開発”という新たな可能性

 OpenAIが2024年2月に公開した動画生成AI「Sora」は、テキスト入力からMinecraftのプレイ動画を生成する能力をそなえている。そしてこの能力は、動画生成AIをゲームエンジンとして流用する可能性も示唆していた。

 Googleらの研究チームが2024年8月に発表したAI「GameNGen」(「ゲームエンジン」と発音する)は、「動画生成AIをゲームエンジンに流用すること」をテーマにして開発されたものだ(※5)。同AIは、特定のゲームの動画を大量に学習した結果、任意のゲームプレイ画面を入力すると、その画面に続くゲームプレイ画面を出力できるようになった。このような性能を実現したことで、同AIはまるでゲームエンジンのように機能するようになった。

 今回の研究では、シミュレーションするゲームとしてFPSの古典である『DOOM』が選ばれた。以下の動画は、人間プレイヤーがプレイするDOOMの画面を連続的にGameNGenに入力して、入力画面に続く画面を出力したものである。この動画はAIが生成したものであるが、通常のゲームプレイ動画のように見えるだろう(本稿のトップ画像は、このシミュレーション動画の一部)。

GameNGen

 今回の研究では学習するゲームとして『DOOM』が選ばれたが、学習するゲームを変えれば、そのゲームをシミュレーションできるようになる。さらには、ゲームに関する動画を制作すれば、その動画を学習することで新しいゲームを開発できる可能性をも示している。この可能性は、画像生成AIが“テキスト入力による画像制作”という新しい創作技法を提供したように、プログラミングをせずに動画を制作することでゲームを開発する“動画駆動型ゲーム開発”という新しいアプローチの誕生を予感させるものなのだ。

 以上のように、最先端のゲームAI研究ではゲームシステムやゲーム開発を根本的に変革する可能性を探求している。とくに最後に触れた動画駆動型ゲーム開発は、入力する動画自体も動画生成AIによって生成すれば、理論的にはテキスト入力だけでゲーム開発をおこなえるようになる可能性を含んでいる。この可能性が現実のものとなれば、プログラミングの知識なしで使える“ゲーム開発AI”が誕生して、ゲーム開発における技術的な敷居が大きく下がるのではないだろうか。引き続き注目したい分野だ。

(※1)マルタ大学ら「Large Language Models and Games: A Survey and Roadmap」:https://arxiv.org/html/2402.18659v1
(※2)NVIDIA「Project G-Assist の紹介: AI アシスタントがゲームとアプリをどのように強化できるかプレビュー」:https://www.nvidia.com/ja-jp/geforce/news/g-assist-ai-assistant/
(※3)Microsoft Research「Players, creators, and AI collaborate to build and expand rich game narratives」:https://www.microsoft.com/en-us/research/blog/players-creators-and-ai-collaborate-to-build-and-expand-rich-game-narratives/
(※4)DeepMind「A generalist AI agent for 3D virtual environments」:https://deepmind.google/discover/blog/sima-generalist-ai-agent-for-3d-virtual-environments/
(※5)Google Researchら「Diffusion Models Are Real-Time Game Engines」:https://gamengen.github.io/

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