あのころ若者をアツくさせた“80'sガジェット”が蘇る 「#コミカルデバイス」とは一体?

一つひとつに込められた人の想いと歴史に触れる

 『スタビリティターン』が扱っているのはオーディオプレイヤーだけではない。こちらは、98年ごろに発売されたAppleの初代『iMac』だ。『スタビリティターン』では、『iMac』をパソコンとしてではなく、ディスプレイとして蘇らせたようだ。「昔の『Macintosh』って、四角くてクリーム色のデザインのものしかなかったんですよ(笑)。そしてあの時代は、パソコンを触っている人=オタクというイメージが強かったんです。だから家庭にもあまり普及していなくて。その後スティーブ・ジョブズがAppleに戻ってきてから作った第1作目が、この初代『iMac』なんです」

 「紫外線を通しかねない半透明のデザインを採用するって、正直常識はずれではあるんです。色がついていない方が紫外線を通さないから、内蔵されている基盤も傷まないし。でもそんなリスクを背負っても、一般普及させるためにスティーブ・ジョブズはデザイン性を優先させた。結果そのデザイン性でたくさんの若い人たちが購入して、見事Appleのパソコンは家庭に普及したんです。初代『iMac』は歴史的なモデルでもあり、時代を変えたきっかけにもなっています。だから僕は一目置いているし、リスペクトも込めて扱わせていただいてますね」

 現代でも通用するかわいいデザインの初代『iMac』。なかに飾られているのは、角張ったデザインが特徴的な、ソニーのオーディオプレイヤーたちだ。「なぜ角張っているかというと、この時代はまだこういうデザインしかできなかったからなんです。設計図の書き方がまだアナログで、丸・三角・四角といったかたちでしかデバイスの設計ができなかった。でもパソコンが普及してCADが使えるようになったから、曲線のデザインも設計可能になりました。このソニーの角張ったプレーヤーには、そういう時代の転換期を感じることもできるんです」

 下嶋氏の解説を聞きながら商品を見ていると、まるでガジェットの博物館に訪れたような楽しさがある。そして、たしかにそこには作り手の情熱が詰まっているようにも感じた。そしてこの『iMac』のように、本来の姿とは違ったものに生まれ変わることがあるのも、『スタビリティターン』の特徴のひとつだ。

 かなり巨大なこのデバイスは、スピーカーとして販売しているという。「もともとこれはソニーの水中カメラだったんです。昔の水中カメラって中身が空洞になっていて、そのなかにカメラを入れて蓋をするという仕組みになっています」

 「だから仕組み的にスピーカーとして最低限の機能は果たしていて、スピーカーのボディとしては割と優秀なんです。それに、防水カメラよりスピーカーにした方が多く人の手にとってもらえそうですしね」

 「この水中カメラスピーカーは、グレーと黄色のパーツをそれぞれ入れ替えて商品にしました。いつも商品を直すときは、まず半日くらいずっと眺めるんです。そしたら何か違う姿に見えるときがあって、『あれ、これ意外といけるじゃん』と感じたら実際に手を動かして作っています」遊び心溢れる発想で、予想外の姿で生まれ変わるかつてのデバイス。そんな発想の転換が、時代と時代の架け橋になっているのかもしれない。

  ふと横を見ると、ファミリーコンピュータのゲーム画面が。聞いてみると、こちらは商品ではないらしい。「これは、見にきてくれた子どもに遊んでもらえたら嬉しいなと思って置いてあるんです。活動をする上で、あまり売上には固執したくなくて。ゲームで遊ぶ子どもの姿も含めて、自分の理想の空間作りなんです」

 売上ではなく、「これいいよね!」というトキメキを広げていくことが、『スタビリティターン』のスタンスだ。実際筆者も、まったく知らなかった世界の魅力を教えてもらった。また、多くのものづくりの手によって、現代のガジェットは成り立っているのだと改めて感じることもできた。

 機能性や利便性はテクノロジーの発達により日々進化しているが、純粋に心トキメクものに触れることができるのが、『スタビリティターン』というブランドの魅力だろう。ここでは難しいことは考えずに、素直に「カッコいい!」「かわいい」と感じたあのころの気持ちを思い出させてくれる。ぜひ興味があれば、「コミカルデバイス」というカルチャーを覗いてみてほしい。

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