あのころ若者をアツくさせた“80'sガジェット”が蘇る 「#コミカルデバイス」とは一体?

あのころに擬似トリップできる“カセットプレーヤーの世界”

 カラフルレトロなデザインも魅力的だが、当時背景にあったカルチャーを知ることでより深みが増してくる。80〜90年代の若者たちは、どのようにカセットプレーヤーを愛用していたのだろうか?

 「そうですね……。当時は、ソニーの『Sony Sports』というシリーズが人気で、王様的立ち位置でした。僕自身もすごく欲しかったのですが、値段が2万円後半ぐらいと高かったんですよ。あと基本的に日本では発売していなくて、なかなか手に入れるのが難しかったんです。だからしょうがなく『Sony Sports』と似たデザインの安物オーディオプレイヤーを使っていたんですけど、すぐ壊れちゃうんですよね(笑)。」

 「その後、パナソニックからストリートっぽいデザインの『Shock Wave』というカセットプレーヤーが販売されました。値段も専用のヘッドフォン付きで1万5800円。電気屋さんで買えるし、みんな飛びつきましたね。『Sony Sports』は憧れの存在、『Shock Wave』は身近で1番イイやつという感じでした」

 価格や手に入りやすさから見ても、『Shock Wave』は学生の味方だったようだ。実際に手に取ってみると思ったより大きく、ボタンがたくさんついている。背面にはベルトループがついていて、何より“ゴツい”。「ゴツいですよね(笑)。同じ時期に『G-SHOCK』が爆発的に売れて、男の子が身につけるアイテムは全体的にゴツいデザインが流行ったんです」

 なるほど、当時のオーディオプレイヤーはファッションにおいても重要なアイテムだったことがわかる。また、魅了したのは見た目だけではないようだ。「音の切り替えスイッチが3つあって、ノーマルは普通、XPSは低音を強調するモード、VMSS(ビジュアルモーションサウンドシステムサウンド)は本体の低音に合わせてヘッドフォンの耳元が震えるという機能になっています。その機能に当時の僕たちは『うおー! かっけぇ』と興奮していたんです。電車に乗っているときにそのイヤフォンから音漏れして、おじさんに怒られたりしていました。バカだよね……(笑)」

 そんな完璧ではない部分も、楽しそうに振り返る下嶋氏。カセットプレーヤーは、まさに青春を代表する存在でもあったようだ。だが『Shock Wave』が発売されたのは95年ごろ。すでにCDが普及している時代のはずだ。カセットプレーヤーが誕生する時期としては、少し遅れていたのではないのだろうか?

 「たしかにCDは普及していたんですけど、1枚3000円くらいと高かったんですよ。いまよりも全然高級品で、本当に好きなアーティストのものしか買えなかったんです。だからCDはTSUTAYAでレンタルして、カセットにどんどん好きな曲を入れて使っていました。自分だけのオリジナルミックステープを作る感じですね。ほかにもカセットでリリースされた曲を買ったり、DJがミックスしたミックステープを聞くという遊び方もありました。カセットテープの遊び方が充実していたんですよ。それにくわえて、CDという存在がありながらも時代に逆行している感じがまたカッコよかったんです」

 カウンターカルチャーとして魅了した一面もあるというカセットプレーヤー。この現象は、現在リバイバルブームが起きている背景と近いものがあるのではないだろうか。「平成はオーディオプレイヤーもそうですが、おもちゃやカメラなど、時代を象徴するものが全部“手元に残る”ものだったんです。でもいまは手元にモノがあるわけじゃないんですよね。だから、いまの若い人たちが昔のものに惹かれるのは自然なことなんじゃないかなと思っています」

 さらに不思議なことに、『スタビリティターン』の商品を購入するのは実際に使っていた世代ではなく、初めて目にした若者世代なのだという。「実際に使っていた世代にとって、カセットプレーヤーを目にするのは“2回目”なんですよ。見て、安心感を得て終わるんです。それに比べて、20代の子たちの感動具合は非になりません。人生で初めて見るモノですからね(笑)。あと、実際にデバイスを手にすることでよりリアルに80〜90年代を擬似体験できるのが楽しいのではないでしょうか。これは僕たちにはわからない感覚ですけど、昔にタイムスリップしてる感じなんじゃないかな」

 体験したことがないからこそ、よりリアルに過去へトリップすることができる。令和の時代らしい新たな楽しみ方が生まれているようだ。

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