歌広場淳のフルコンボでGO!!!
歌広場淳×白水“格ゲー界の存続を切に願う者”対談 海外シーンを観測する「ウォッチャー」の目に映る世界
「ネットの発達により強さの因果関係が探りづらくなった」(白水)
歌広場淳:国によってさまざまな事情がある……。そう思うと、日本はすごく恵まれていますよね。オンライン対戦をするにも、北海道から沖縄まで、現在ではほぼ問題なく対戦できるくらいの広さですし。海外プレイヤーたちも、日本のプレイヤーたちを意識しているなと感じることはありますか?
白水:大いにありますね。海外プレイヤーのインタビュー記事を読んでいても、「日本のプレイヤーの◯◯をリスペクトしている」という言葉がよく出てきますし。昨今はゲーム内でお目当てのプレイヤーの対戦動画を手軽に見れるようにもなりましたし、日本勢のプレイスタイルを参考にしてる海外プレイヤーは多いと思います。
最近になって、若いプレイヤーなのにやたら老獪な戦いかたをする強豪プレイヤーが突如として現れることが多くなったのも、そうやって手軽にプレイ動画を見て参考にできるようになったからだという気がしますね。
歌広場淳:たしかに。いまはネット上に対戦動画や攻略情報があふれているから、たとえ近場に切磋琢磨できる環境がなくても強くなれる人が出てきても一昔前より不自然ではないですよね。
白水:そうですね。格闘ゲーム業界にとっては100%喜ばしいことでしかないのですが、個人的にはちょっと戸惑っている部分もあります。インターネットが発達して誰もが攻略情報を集めやすくなったことで、“そのプレイヤーがなぜ強くなれたのか”という因果関係を探るのが難しくなりましたから。
国どうしの距離が近いヨーロッパ地域ともなればなおさらで。たとえばヨーロッパで注目度の高い大会において良い成績を残したプレイヤーがいたとして、その人は国内外で開かれているオンライン大会に積極的に参加している一方、彼の地元には小規模ながらもコミュニティが存在する――となったときに、このプレイヤーはオンライン大会で腕を磨いたプレイヤーだと見るべきか、地元で腕を磨いたプレイヤーだと見るべきか、単純にはカテゴライズできないなと。
歌広場淳:まさにウォッチャーとしての白水さんのテーマである、「その人の強さの源泉は何か?」が見抜きづらくなっていると。だからといって格ゲーマーとしては「昔のほうが良かった」などと言うつもりもないという、白水さんのジレンマが僕にも伝わってきました(笑)。
一番忙しかったのは「EVO 2016」 総勢5000人の中からのリストアップ作業は「ギリギリ間に合いました」
歌広場淳:『スト6』が発売されて以降、白水さんもこれまで以上に忙しい日々を過ごされていることかと思いますが、いかがですか?
白水:はい。めちゃくちゃ忙しいですね(笑)。
歌広場淳:『スト6』発売以前で、これまでに一番忙しかった時期を挙げるとすれば……?
白水:一番ヤバかったのは、2016年の「EVO」(※2)の時期ですね。『ストV』が発売されてから初めて行われた「EVO」だったので、『ストV』だけで5100人くらいのエントリーがあって、いったいどこから手を付けたものかと(苦笑)。
※2……「Evolution Championship Series」(EVO)。アメリカ・ラスベガスで年1回開催されている世界最大規模の格闘ゲーム大会(オープントーナメント)。
ただ、そのときはたまたまトーナメント表がいつもより早い時期に公開されたので、本当にギリギリ間に合ったという感じでした。
歌広場淳:ギリギリ間に合ったというのは、すべてのプール(予選ブロック)から有力選手をピックアップして、それぞれの使用キャラやランクマッチの到達ランクなどをざっと調べ上げるまでを指すわけですよね……。5000人規模の大会となると、だいたいプールがいくつくらいあるものなんでしょう。
白水:だいたい128くらいはあると思いますね。
歌広場淳:しかも、もちろん有名な選手ばかりではなくて、誰だかわからないけど一応取りこぼしがあったらいけないから試合のリプレイとかを見てみよう、みたいなことも起きるわけじゃないですか。
白水:そういうことです。とにもかくにも、まずは地道にググるしかないですね。Googleがなかったら僕は終わりです。
歌広場淳:白水さんは海外プレイヤーの調査に関する方法論などをご自身のブログで発信されたりもしていますが、あらためて白水さんがふだん調査の際に考えていることや気をつけていることなどを教えていただいてもいいですか?
白水:そうですね、まずはその人がどこの地域のプレイヤーなのかということを考えます。住んでいる国はどこか、くらいのざっくりした情報であっても大きいです。僕の場合、少し調べてわからなかったとしたらプレイヤーネームの印象からなんとなくで「この国なんじゃないか」と当たりをつけていきます。
それから、その人が何かひとつでも大会に出てくれていればだいぶ気が楽になりますね。
歌広場淳:つまり、大会歴からその人の足跡をたどることができると。
白水:そういうことです。この大会に出ているということは、その大会が開かれた地域の人と交流があるだろうし、コミュニティとも密接に関わっている可能性が高いだろうと。格闘ゲームってひとりでは遊べないので、ひとり強い人がいれば必ずその周囲に強い人が複数いるわけです。そうやって芋づる式に調べが進むこともありますね。
今日からアナタもeスポーツ探偵!? 白水流海外プレイヤー調査術を伝授
歌広場淳:わがままな質問なのですが、“これでアナタも今日から白水さんのようなeスポーツ探偵になれるよ!”というような白水流調査術や、調べかたのコツがあったらぜひ伝授していただきたいです……!
白水:わかりました。そうなると、まずは状況を2パターンに切り分けて考える必要がありまして。“今日中に調べる必要がある”のか、“別に今日中じゃなくてもいい”のかですね。
歌広場淳:もうおもしろい! おもしろすぎます!!
白水:“別に今日中じゃなくてもいい”のだとしたら、いったん調べてみてわからなければ諦めます。なぜかというと、本当に今日中にはわからない可能性があるからです。その時点でまったく情報が出回っていなくて、後日その人の試合動画がたまたまネット上に投稿されて初めて実力がわかるというケースもありますから。
歌広場淳:なるほど。あのときは謎のプレイヤーだったけれど、後からひょんなことで情報がつかめるということもあるわけですね。逆に、「何がなんでも今日中に調べないとマズイ!」という場合はいかがでしょう。
白水:急ぎでなければ、「プレイヤーネーム+国」「プレイヤーネーム+ゲームタイトル」「プレイヤーネーム+キャラ」くらいを検索してみて諦めるわけですが、そうでないとしたらまずは「Start.gg」や「Challonge」などのトーナメント表作成サイト上で、その人の名前がないか検索してみます。
あとは、「プレイヤーネーム+“vs”」や「プレイヤーネーム+“fgc”」で検索するのもオススメです。あるいは、「プレイヤーネーム+大会名」で「EVO」などの有名な大会を入れてみるとか。どこの国の人かがわかるのであれば、その国でポピュラーな大会名を入れてもいいです。アメリカのプレイヤーなら、「Combo Breaker」や「CEO」というように。
歌広場淳:“vs”であればその人の対戦動画がヒットする可能性がありそうですし、“格闘ゲームコミュニティ”(Fighting Game Community)を指す略語の“fgc”とセットで検索してみるというのも盲点でした!
最長調査期間は5年 ナチュラル“白水対策”にも惑わされ……。
歌広場淳:ちなみに、これらを試せば体感で何割くらいは調べがつくという感じでしょうか?
白水:これだけではぜんぜんわからないケースも多いですよ。いま挙げたものを試したうえで、さらに各種SNSや配信サイト上なども検索してみても、素性が明らかになるプレイヤーは5割程度だと思います。
歌広場淳:これでもまだ5割なのか……! これまでで「この人は調べがつくまでに苦労した」というプレイヤーはいますか?
白水:無数にいますね。「オンライン対戦が好きじゃないから、ふだんはオフラインで仲間と対戦しながら頑張っているよ」なんて言う猛者の方もいらっしゃったりしますし。これまで苦労したなかで言うと、調べがつくまでに最長で5年かかったケースなんかもあります。
歌広場淳:なかには、白水さんのような“探偵”を恐れて意図的に形跡を隠そうとしている人なんかもいたりして……?
白水:結果的には僕の勘違いだったのですが、一時期「この人はマジで僕を対策してきているのでは?」と疑いかけたような人もいましたね。その人は実在のホッケー選手の名前で大会に出ていて、いつも好成績を残していたんですよ。
どう検索してみてもホッケー選手の情報しか出てこないから、本当にホッケー選手と格ゲープレイヤーの二足のわらじで活動されている方なのかなとも思ったり。だって100%ないとは言い切れませんからね。
歌広場淳:そうですよね。日本にもスピードスケート選手として活動されていたcosa選手がいますし。
白水:真相を知ったときはかなり脱力しました。そのプレイヤーさんは、単にそのホッケー選手のファンボーイだったんです……。
歌広場淳:なるほど! 確かに、ホッケーが盛んな地域の方からしたら珍しいことでもなんでもないわけですよね。日本だったら好きな野球選手やお相撲さんの名前を借りて大会に出るみたいなものだし。
白水:国ごとの文化の違いを知れたという意味でも、ものすごく勉強になった一件でした。
SOS件数は「年々減っている」
歌広場淳:僕も以前、ある大会にエントリーした際に「僕の対戦相手のこの人ってどんなプレイヤーだかわかりますか!?」と、SNS上で白水さんにSOSを送ったことがありました。海外大会の前には、白水さんのもとに格ゲーマーからのSOSがたくさん届くわけですよね。
白水:じつを言うと、そうしたダイレクトメッセージをいただく件数は年々減ってきています。おそらくみなさんのなかでも、対戦相手となる海外プレイヤーを調べておく習慣ができたのではないでしょうか。
歌広場淳:それはきっと白水さん的にも喜ばしいことですよね。
白水:そうですね。僕もだいぶ体力的な苦しさを感じるときも増えてきましたから。
歌広場淳:やっぱり一番体力的にキツくなる瞬間は「EVO」の直前とかですかね?
白水:はい。あとは「CAPCOM CUP」のLCQ(最終予選)の時期もそうですね。LCQは本気で本戦出場を狙っている方々がエントリーしてくるだけに参加者の平均レベルも高いので、極力取りこぼしをしたくないんですよね。
歌広場淳:海外のプレイヤーさんから、「この人はどんなプレイヤーなんだ?」といった質問が届くことはあるんですか?
白水:じつはありますね。海外の方の質問における特有の文化なのかもしれませんが、海外の方は「◯◯について教えて」というよりは、「◯◯について自分はこう思うんだけれど、これは合っている?」と確認に近いような聞きかたが多いです。
たとえば「日本の◯◯は、過去にこの作品をプレイしていた△△と同一人物のような気がするんだけど」とか。それに対して、僕は「そうだよ」とか「別人だよ」などと返事をしていますね。
歌広場淳:やはり日本のプレイヤーは海外からきびしくマークされているわけですね。
「どんな形であれ“続いてほしい”」(白水)
歌広場淳:最後に、白水さんに今後の格闘ゲームシーンや、それを取り巻くeスポーツシーンに対して期待することをお聞きできればと思います。
白水:僕としては、どんな形であれ“続いてほしい”と思っています。ふだん街中を散歩していたりすると、自分が子どものころから見慣れていた建物とかが、時代の流れでさら地になっていたりするんですよね。それこそ子どものころは、「この建物は未来永劫ずっとここにあるんだろうな」と疑いもなく信じていたものでも。
そういった世の中の移り変わりを目の当たりにするたびに、“続く”ということはすごく難しくて大変なことなんだなと感じるんです。僕が見てきたプレイヤーの方々のなかにも、個人の事情で格闘ゲームから距離を置くようになった人、あるいは距離を取らざるを得なくなった人、自ら進んで離れていく人など、さまざまいらっしゃいました。
そんな方々が、ふとしたきっかけで数年ぶりに復帰するというできごとも、長年シーンを見守っているとよくあることだなと思うんですよ。その人たちがなぜ帰って来られたかといったら、さまざまな要因はありますけど、一番は格闘ゲームシーンが“続いていたから”じゃないですか。
終わってしまったら何も起こらないですから、僕はこれからもシーンが続いていってほしい。そう思っています。
歌広場淳:……もはや祈りにも似た、素晴らしいお言葉でした。これまで白水さんのことを「格ゲースパイ」だの、「eスポーツ探偵」だのと言ってしまいましたが、自分はあくまで“ウォッチャー”なのだと。それ以上でもそれ以下でもないのだという、白水さんの信念のようなものを感じました。本日は本当に、貴重なお話をありがとうございました!!
歌広場淳×くんぺー。「SFL 2024」開幕直前対談 出場全12チームの注目ポイント&見どころを語り尽くす
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!…