『王様戦隊キングオージャー』にゲームエンジンが使われていた!? UEとバーチャルプロダクションを活用した特撮表現の最前線とは
LEDウォールにおいて重要な「レイヤー」とボリュメトリックキャプチャの威力
LEDウォールを用いた撮影では、映像のレイヤー、つまり「奥行き感」をどれだけ出せるかが重要になる。
ゴッカン国の1シーンでは、実写で撮ってきた360度の雪が降っている映像をLEDウォールに出して、手前は撮影用の雪を降らせて撮影している。こうすることで、よりリアルな絵作りが可能になるというわけだ。
また、珍しいところではボリュメトリックキャプチャを活用した事例も紹介された。ソニーPCLのバーチャルプロダクションのスタジオの隣には、ボリュメトリックのスタジオがあり、監督に紹介したところ、「まずは昨夏の映画(『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』『王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン』)のPVで使ってみたい」という話になり、3人のアクターの動きから服の細かなシワまで撮影し、3Dデータにしたという。
この取り組みの結果、ボリュメトリックキャプチャと特撮の相性が想像以上に良いことも判明した。一般的に、特撮の映像では22コマのフレームレートを採用することが多く、それにハマる演者の動きの調整が難しいキャラクタースーツを着てアクションする場合、生身の人間より動きのスピードが落ちてしまうため、何度か撮り直すことが多い。しかし、ソニーPCLのボリュメトリック技術を使えば、フレームレートの調整でスピードを調整することが可能だ。
そのため、「もう少し早く動いてほしい」「ここはゆっくりで」という調整をする必要がなく、アングルごとに何回も撮り直す必要もない。演者の負担を大幅に減らすことができるのだ。
もちろん、ボリュメトリックキャプチャには特有の制限もある。たとえば、撮影範囲外に出てしまうとその部分は3Dモデル化することができないこと。撮影できる空間が直径6mだとしても、アクションの多い特撮ではギリギリになりがちだ。そのため演者は、できるだけ中心でアクションをこなすこととなる。
また走っているシーンなどでは、一般的にはルームランナーを使って撮影するが、体が上下しているように見えてしまうため全力疾走は難しい。
しかし、そうした課題は些細なもの。特に特撮では、実写で再現不可能なアニメーションのような表現が必要になるので、その点でボリュメトリックがもたらす恩恵が大きなものとなった。
また3Dデータゆえに、モデルのブラッシュアップやカメラワーク、東映のCGチームによる編集が並行しておこなえることも、大きな利点だ。こうした並行作業がおこなえることで、撮影から1ヶ月ほどでフィックスデータを完成したという。
このように、特撮作品とバーチャルプロダクションやボリュメトリックキャプチャは非常に相性が良く、今後さらにその活用事例が広がっていくものと思われる。今では東映も独自にバーチャルプロダクションのスタジオが新設されている。今後はこちらの動向もチェックしてみたいところだ。
〈参考〉
『王様戦隊キングオージャー』特撮×バーチャルプロダクション~ゲームエンジンを活用した映像表現の最前線~
tofubeats「自由」MVで使用された映像制作手法“バーチャルプロダクション”とは? 使用の経緯と可能性について語られた説明会レポート
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