水溜りボンド・カンタが映像制作会社を立ち上げた理由 10年間「映像とプラットフォーム」に向き合い続けたクリエイターの“創作論”

竹中貞人、白組・野島達司……世に出つつある才能たちとの意外な繋がり

ーーその段階に30代前半で至るのは、とても素晴らしいことだと思います……。最近のお仕事に話を戻すと、縦型ショートドラマアプリ『SWIPEDRAMA』でのオリジナル作品制作も発表していますね。こちらは竹中貞人監督(AOI biotope)とタッグを組んだ作品ということですが。

カンタ:竹中さんは「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM 2022」で最優秀賞を取って、全国でロードショーする規模の監督なのですが、実はもう5〜6年くらい、ずっと動画のテロップ打ちの手伝いをしてもらっているんです。

ーー「盟友」と告知していたのはそういうことだったんですね!
(参考:https://x.com/kantamizutamari/status/1780551107246530918

カンタ:そうなんです。映像業界って名前が売れれば仕事が入ってきますが、その前段階って結構苦しいじゃないですか。僕から最初に話したときは少し躊躇いがあったみたいなんですけど、僕と話して誤解が解けたあとは「一緒にやっていきたいです」と言ってくれて。やっぱり多く再生されるチャンネルの編集をすることで、色んな人に見られているという空気感は絶対に味わえると思いますし。毎日投稿みたいなことも一緒に経験してたメンバーが30代になって1人のクリエイターとして結果が出てきたのは、すごく自分としても嬉しいです。

ーー横並びだったり、一緒にやってた人たちと違った形で仕事ができるのは嬉しいですよね。

カンタ:それでいうと、白組の野島達司くんもそうですね。かなり昔から一緒に映像を作っていて、かつては水溜りボンドのドッキリ動画の編集もやってくれたりしていたんですよ。無人島で鯨が出てくる動画を作ってもらっていたんですが、家に招いて「水で家がバーンとなるのを作って欲しい」とリクエストしたんですが、当時の野島くんの技術だと難しくて、「またいつかやろう」という話になったんですよ。野島くんとしてはそれがすごく悔しかったみたいで、そこからメキメキ力をつけて、気づいたら『ゴジラ-1.0』ですごい水のエフェクトを作って、オスカーで視覚効果賞を獲ってるという(笑)。

ーー世界的な“液体のスペシャリスト”になる人の飛躍のきっかけになっていたと。

カンタ:それは言い過ぎです! YouTuberは20代で成功する人も多いですけど、映像業界は30代から出てくる人がほとんどなので、先に僕らが世に出たのですが、これからどんどん関係性のある同世代が評価されてくると思うと、本当に楽しみですね。

ーー20代で先に成功して、そのタイミングで同世代をフックアップし、30代になってから対等な立場でお仕事をする、というのは本当に理想的な形ですね。ちなみに『SWIPEDRAMA』で挑戦するのは縦型ショートドラマになるわけですが、カンタさんがこの領域をどう捉えているのか知りたいです。

カンタ:普通のドラマを作るという話であれば、テレビドラマを作っている方と違ってノウハウもないので、OKしなかったと思うんですよ。ただ、ショート動画はこれまで自分たちもたくさん作ってきたし、一緒にやってきた竹中さんと僕がそれぞれの道の真ん中で出会うとしたら、縦型のドラマだなと思ったんです。結果的に、その延長線上に横スクリーンのドラマのお仕事があると嬉しいんですが、一旦は自分の領域から遠すぎないところにある業界だった、という感覚ですね。

ーーそうして既存の映像業界とSNSを中心とした動画クリエイターが混ざっているのが、縦型ショートドラマの領域で起こってる面白い現象ですよね。

カンタ:そうなんです。僕自身、来年〜再来年にかけて、これまでよりも縦型のドラマ作品はすごく伸びると思っています。

10年間結果を出し続けられたのは「リサーチを徹底」してきたから

ーー『SWIPEDRAMA』もそうですが、新たなプラットフォームが出るたびにルールが変わり、それに対して自分のクリエイティブが変わる、という経験をこれまで数々されてきたと思います。その度に考えをアップデートして、すぐに適応するために意識していることはありますか?

カンタ:僕の場合、かなりしっかりリサーチはしますね。それが100%正しいかどうかはわかりませんが、自分がこれまで上手くいってきたのは、数字にすごく向き合うことでストライクゾーンがハッキリと見えてきて、そこに対してストレートを投げるか、カーブを挟んでみるか、スレスレを狙うか、フォームを変えるかを研究して実践してきたから。高速球だけ投げてると打たれ始めますし、150kmの球をずっと投げ続けるのってロボットの仕事というか、AIでもできることだと思うんですよね。人間味を感じないというか。僕自身そういう時期があって、スランプに入ったこともあるので言えることですが、人間って本当に複雑な生き物なので、そこを踏まえたうえで変化をつけていかないといけないし、それを楽しんでやることがすごく大事だと思います。

ーーそのルールや仕組みを理解したうえで「楽しんでやる」ことが大事だというのが、カンタさんらしいですね。先ほどストライクゾーンの話をしましたが、リサーチをしてゾーンがわかっていても、そこに投げ分けれるコントロールがあることが、カンタさんのすごいところだと思うんです。

カンタ:ありがとうございます。コントロールもそうですし、2ストライク取れてるから1球くらい遊び球を投げてみようとか、そういう余裕が出てきたのも大きいと思います。別に野球をやってたわけでもないので、野球の例えで話してて不安になってきたんですけど……合ってます?(笑)

ーー大丈夫です(笑)。遊び球を投げれるようになったというのは、ある意味キャリアのなせる技ですし、色んなやり方・関わり方で結果を出してきたからこその領域な気がします。

カンタ:ただ、次も同じようにできるかと言われると不安になるので、次こそは同じことが通用しないと思って、毎回リサーチを徹底しています。

ーーそこに驕りがないのが、10年間結果を出し続けられた理由なのかもしれませんね。今後の活動についても言える範囲で教えてください。

カンタ:それに関してはすごくシンプルで。水溜りボンドでずっと編集してくれてたチームと一緒にやっているんですが、30歳〜50歳と彼らの給料をちゃんと払い続けたり、給料を上げることって、これまでは自分の出来高にかかりすぎていたんです。みんなはそれでいいって言ってくれるんですが、それは僕には辛いんですよね。背負うものが重すぎるというか。案件がきたときに、自分がそこまで興味がなくて断ろうと思っていたんですけど、結婚したスタッフのことが頭にチラついて「あいつらのためにもやってみよう」と思うようになったり。自分としては整合性が取れているものの、ファンの方からは問題なく見えているのか心配になることもあるんです。

 そういうこともあって、YouTube活動以外でしっかりとした収入があって、そのうえでYouTubeの活動を誠実に楽しくできることが、みんなにとっても自分にとってもプラスになると考えたんです。自分が社長じゃないぶん、作ることに関しては全力でサポートもするし、彼らの給料を映像会社で稼ぐことがスタッフにとっての安定でもあるし、そこが盛り上がれば給料もどんどん上がっていく。水溜りボンドに依存する形が間違いじゃなくても、いろんなYouTuberがさらに出てきて再生数を割っていく時代には間違いなく入ってきているので、その中でもちゃんと生活を担保した上で活動していけるように、自分たちが楽しめる道を選んだという感じです。実際に1年弱その方向で活動していて、心の健康は非常にいい状態なんですよ。

ーーこれまでよりも消耗しなくなった?

カンタ:そうですね。これまでは自分が先頭を走って、後ろをサポートしてもらっている感覚だったんですけど、最近はみんなで並走して、僕が時たまサポートに回るという形にしているんです。表には出していないのですが、最近はほかのYouTubeチャンネルの運営やSNSのお手伝いみたいなこともやっています。自分たちのノウハウを実践できるうえ、これまで見えなかったものも見えるので面白いんですが、お仕事をご一緒する前に必ず「絶対に成功するわけではない」とはお伝えしています。

ーーそれが一番信頼したくなるんですよね。「絶対できます」という人は信頼できないですから(笑)。

カンタ:ありがとうございます(笑)。絶対にバズらせられるなら、日本中の企業がすごいことになっちゃいますからね。それでも僕らとやりたいと言ってくださるなら、培ってきた経験を総動員しますよ。

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