『黄金のレガシー』が伝えたかったものとは? 『FF14』が紡ぎ続ける“対話と継承”の物語

『FF14』が紡ぎ続ける“対話と継承”の物語

 7月2日に正式サービス開始となった『ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)』の新拡張パッケージ『黄金のレガシー』。『新生エオルゼア』から『暁月のフィナーレ』まで約10年にかけて歩んだ壮大な旅路「ハイデリン・ゾディアーク編」が完結し、「光の戦士の夏休み」と銘打たれた、エオルゼアの遥か西方に位置する「トラル大陸」での新たな冒険が幕を上げた。

※本記事には『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』のストーリー前半のネタバレを含みます。

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 「トラル大陸」は古来より、多種多様な部族が住まうことから古くより領土争いが絶えなかったが、80年前に双頭のマムージャ族である「グルージャジャ」が、多部族国家「トライヨラ連王国」を建国し、絶対的な存在として統治してきた。しかし名君であっても寄る年波には勝てず、新たな王を選出するために「継承の儀」を執りおこなうことに。後継者候補としては父の築いた伝統を継承し、平和で笑顔があふれる国を目指す穏健派「ウクラマト」、エオルゼア由来の技術・知識を用いて国を発展させたい革新派「コーナ」。グルージャジャ唯一の実子で、武力による領土拡大を計画する外征派「ゾラージャ」。武闘大会の勝者として参加を許された双頭のマムージャ族以外を見下す「バクージャジャ」。この4名が王位継承レースを繰り広げていくのが『黄金のレガシー』のストーリーだ。

 筆者が『黄金のレガシー』のストーリーを体験して感じたのは、「『暁月のフィナーレ』までの価値観を活かした再始動」だということだ。過去シナリオの反省点に対するリベンジだと言い換えても良いだろう。

 特に注目したのは『新生エオルゼア』で顕著だった新たな世界観紹介や、ゲームに慣れさせるために行うメインクエストの作業感の強さへの対処だ。そして『紅蓮のリベレーター』までの拡張パッケージ序盤の展開に多く見られた、行き当たりばったり感・盛り上がりの薄さが、王の後継者として各地の部族についての知見を得て手助けをするというプロットを、継承戦の目的として組み込むことで解消が図られている。そのため、シナリオにあってもなくてもいい枝葉をプレイしているという感覚がストーリー全体を通して少なく、たとえサブクエストをプレイしていたり、フィールドにおけるフライングのために「風脈の泉」を探していたりするときでさえ、「継承の儀のために各部族の背景を知るという物語の一環である」と思えた。

『FF14』が描いてきたものとは

 『FF14』のテーマは新生後から一環して、「対話」と「継承」であると考えている。対話についてはエメトセルクやファダニエルといったアシエンたち、ゼノス・イェー・ガルヴァスやメーティオンという「悪役」に対して、主人公側が一方的に断罪するのではなく、それぞれを突き動かしている正義感や、なぜそうするまでに至ったかという流れを描くことを徹底している。ゲームを通して人間の善悪の多面性を丹念に描くからこそ、相手の背景が明かされたとしても物語が陳腐にはならない。世界に多様な価値観が存在していることを、膨大なストーリープレイ時間で描写することにより、一見きれいごとのように思えてしまう「相手と話し合うことの大切さ」が、「ただそれらしいことを言っているだけ」ではなく、信念を持った祈りや意地であることが理解できる。

 それは『暁月のフィナーレ』のストーリーを体験したユーザーから、「人間以外の各種族に対する蛮族という呼称を変えてほしい」と意見があがり、その後パッチ6.2より実際に「蛮族クエスト」の名称が、「友好部族クエスト」へ置き換えられたという現象が表しているだろう。それだけ『FF14』が作中で描いてきた自らと相容れぬ者たちとの対話の姿勢が、プレイヤーに伝わっているのだ。

 『黄金のレガシー』でもトライヨラ以外を知らなかったウクラマトが各地に生きる人々と交流を重ねるなかで、「みんなの笑顔を守るために王になりたい」という自らの願いに気づくなど、「無知ゆえに争い、知りて絆を結ぶ」という言葉で強調されているが、異なる人間同士が理解し合うために、相手を知り対話を試みていくことの重要性が端的に示されている。そうしたストーリーが世界中でプレイされているMMORPG『FF14』で描かれることに意味があり、多様性が叫ばれる現実における文化も信条も異なる人々に対するメタファーとして機能し、自らの姿勢を顧みる機会となるのではないか、そうした希望を抱くことができた。

 「継承」については、プレイヤーが光の戦士として歩んできた道のりが英雄譚として未来へ語り継がれた結果、巡り巡って起きるはずだった「第八霊災」を防ぐ結果になったり、サンクレッドにもらった愛情を誰かにわけに行くと第一世界へ旅だったミンフィリアがリーンへと想いを託したりと、『漆黒のヴィランズ』で特にフォーカスされたテーマである。そして、「継承の儀」が行われる『黄金のレガシー』のシナリオの主軸で、後継者候補がいかに先代の王が思い描いた理想や能力を継承するかも大切なトピックである。ストーリー後半ではウクラマトやゾラージャそれぞれが、受け継いだり取りこぼしてしまったりしたモノに焦点があたる。

 ただ、『FF14』における継承は、そうした美しく輝かしい願いだけはない。『蒼天のイシュガルド』で描かれた1000年にもおよぶ人間とドラゴンの対立、『紅蓮のリベレーター』の舞台であるアラミゴ・ドマの長きにわたる帝国による支配、滅びゆくアーモロートの怨嗟の声を心に残すアシエン、そして『黄金のレガシー』においてマムークの人々やバクージャジャを苦しめてきた「双血の教え」など、負の側面も背負っていることも忘れてはならないだろう。そうした多くの人々が想いが編まれた世界で展開される物語にプレイヤーは惹かれ、もっと彼らについて知りたいと『FF14』に対する対話を試みることができるのだ。

これからの『FF14』

 ハイデリン・ゾディアーク編が完結し、新生10周年を超えた『FF14』仕切り直しの一作『黄金のレガシー』では、拡張パッケージシナリオ『漆黒のヴィランズ』や『暁月のフィナーレ』でメインシナリオを執筆した石川夏子氏が、シニアストーリーデザイナーとして監修・指導の立場に就いていることを考えると、いちプレイヤーとしての邪推になるが「次なる10年」に向けスクウェア・エニックス内でスタッフの新陳代謝が図られているのではないだろうか。

 そうした制作背景を加味すると『黄金のレガシー』で、絶対的で偉大な王「グルージャジャ」から後継者に世代交代するという、「継承」に焦点があたったストーリーが描かれたのは偶然ではないのだろう。ウクラマトが掲げた「伝統を大切してトラル大陸に住む人々の願いを取りこぼさず、みんなの笑顔を守りたい」という言葉は、そのまま『暁月のフィナーレ』までの10年の道のりをグルージャジャに見立てた、「これまで『FF14』が積み上げてきたテーマやプレイヤーを大切にしつつ、もっと面白いものを作り上げていきたい」という制作陣の決意表明に思える。だからこそ『黄金のレガシー』以降に描かれていくだろうテーマと物語に注目したい、そんな拡張パッケージになっていた。

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