サイラックスとは何者なのか――『メトロイドプライム4』発売前に振り返る、シリーズの過去と布石

 2017年6月の初報から7年、2019年1月の開発体制見直しの発表から5年。ついに長らく、Nintendo Switch向けに開発中となっていた『メトロイドプライム4』こと、『メトロイドプライム4 ビヨンド』が2025年に発売予定であることが報じられた。

メトロイドプライム4 ビヨンド [Nintendo Direct 2024.6.18]

 長期に渡って続報が途切れていた『メトロイドプライム4』。Nintendo Switch後継機の存在が明るみにされた昨今、そちら向けになる可能性も浮上しつつあったが、どうにか間に合うことができたようだ。……本当に長かった。

 2008年発売の『メトロイドプライム3 コラプション』から数えると、今回の『メトロイドプライム4』は、実に17年ぶりのナンバリング新作となる。

 そんな本作の発売前時点における大きな注目ポイントは、トレーラーにおいて2匹のメトロイドを従えて現れた謎のハンター「サイラックス」が登場することだ。

 とは言え、「メトロイドプライム」シリーズの経験がなければ「サイラックスって誰?」となるところだ。しかし、実は奇妙なことにシリーズ経験者でも、彼については名前とプロフィール以外、まったく分からないという驚きの事実があったりする。

 なぜ、そのようなキャラクターが注目ポイントなのか? これまでの「メトロイドプライム」シリーズを簡単におさらいしつつ、彼に注目が集まる理由に迫っていきたい。

三部作のストーリーが展開された『メトロイドプライム』の過去

 『メトロイドプライム』は海外では2002年、日本では2003年にニンテンドーゲームキューブ向けに発売された。探索型アクションゲームの金字塔『メトロイド』初のフル3D作品。主人公「サムス・アラン」本人の視点で、マップの探索から敵との戦闘をこなしていく、ファースト・パーソン・アドベンチャー(略してFPA)ゲームである。

『メトロイドプライム リマスタード』(Nintendo Switch)より

 本シリーズ共通の最大の特徴は、サムスのキャラクターとしての個性を最大限活かしきったゲームデザインだ。サムスはその見た目通り、マリオやリンクなどの任天堂の看板キャラクターたちとは異なる大きな個性として、素顔を露出せず、ヘルメットを着用しているというのがある。そのため、彼女の目に移る世界というのは肉眼ではなく、必然的にヘルメット内蔵のバイザーを通したものになる。

 『メトロイドプライム』シリーズが1人称視点を採用している狙いはそこにある。バイザーを通して見る構造に着目した遊びをキモにしているのだ。

『メトロイドプライム リマスタード』(Nintendo Switch)より

 具体的には異なるバイザーを切り替え、見えない足場や隠し通路、時には敵の存在を探知するという、ヘルメットをかぶったサムスだからこそ可能な探索、戦闘を全編にわたって実現しているのだ。そのこともあり、「メトロイドプライム」シリーズは1人称視点であることに極めて強い意味を持たせていると同時に、3Dならではの『メトロイド』として完成されている。

 ちなみに見た目がFPS風ゆえ、シューティング的な操作技術が必要そうと思われやすい。だが、実際はそれほど必要とされない。敵にガッチリと狙いを付けて固定してくれる、3Dの「ゼルダの伝説」シリーズを思わせる「ロックオン」機能があるからだ。そのため、見た目以上に攻撃(ショット)を直感的に撃ち込めるので、FPS初心者にも取っつきやすい作りになっている。

『メトロイド ゼロミッション』(『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』より)

 また、シリーズで一貫して描かれるストーリーは本家「メトロイド」シリーズと時間軸を共有している。具体的には1986年発売の『メトロイド』(および『メトロイド ゼロミッション』)、1992年発売の『メトロイドII RETURN OF SAMUS』(および『メトロイド サムスリターンズ』)の狭間が舞台で、動植物を突然変異させる謎の放射性物質「フェイゾン」をめぐる戦いにサムスが身を投じていくストーリーが描かれている。

 このストーリーは初代『メトロイドプライム』から『メトロイドプライム3』の3作続けて描かれ、それを踏まえて「フェイゾン三部作」とも呼ばれている。

 三部作の幕開けとなった第1作『メトロイドプライム』では、初代『メトロイド』のエンディング後を舞台にしたストーリーが展開。

『メトロイドプライム リマスタード』(Nintendo Switch)より

 壊滅させたはずの宇宙海賊こと「スペースパイレーツ」の残党、そして機械化して復活した宿敵「リドリー」こと「メタリドリー」を追い、「惑星ターロンIV」へと降り立ったサムスが、初めてフェイゾンの脅威に直面するまでの過程が描かれた。

『Wiiであそぶ メトロイドプライム2 ダークエコーズ』(Wii)より

 続く『メトロイドプライム2 ダークエコーズ』では、光と闇の世界に分裂した「惑星エーテル」に降り立ったサムスが、それぞれの世界に住まう種族間の争いに巻き込まれていくというストーリーが描かれた。エーテルが光と闇の2つの世界に分離した原因としてフェイゾンも登場し、その力を駆使するサムスそっくりの強敵「ダークサムス」も登場した。

 そして『メトロイドプライム3』では、ある事件を端に発する形でフェイゾンが銀河全土に浸食し始める深刻な事態に。これにサムスと、異なる種族のバウンティハンターたちが共闘して立ち向かうストーリーが描かれている。そして、その終盤では前作に引き続き登場するダークサムスとの決戦も展開された。

『メトロイドプライム3 コラプション』(Wii)より

 この『メトロイドプライム3』をもって、フェイゾンを巡る戦いに終止符が打たれ、初代『メトロイドプライム』から始まったストーリーは一区切りを迎えている。

 しかし、『メトロイドプライム3』内に収録された隠し音声メッセージにおいて、「メトロイドプライム」シリーズでプロデューサーを務める任天堂の田邊賢輔氏は「プライムシリーズは続く」と発言。

 そして約8年が経ってから、ニンテンドー3DS向けに外伝作品となる『メトロイドプライム フェデレーションフォース』が発売された。

 また、「フェイゾン三部作」のシリーズが展開されていた頃にも『メトロイドプライム ハンターズ』、『メトロイドプライム ピンボール』といった外伝・番外作品が発売されている。このうち、前者は初代『メトロイドプライム』と『メトロイドプライム2』の合間を舞台にしたストーリーを描いた作品となっている。

実は外伝で初登場した「サイラックス」。しかしその後、本編シリーズの見えない所で暗躍していた

 以上、細かいシステム紹介などは省いて3作をおさらいしたが、おそらく「サイラックスはどこ?」となったと思われる。実際にサイラックスは「フェイゾン三部作」とされたシリーズに主要キャラクターとしては“一応”登場していない。

『メトロイドプライム ハンターズ』(Wii Uバーチャルコンソール版より)

 サイラックスが初登場したのは『メトロイドプライム ハンターズ』、外伝作品。同作において、彼はサムスの探索を妨害する中ボスとして登場したのである。ちなみに『メトロイドプライム ハンターズ』にはマルチプレイモードもあり、そのプレイアブルキャラクターのひとりとしてもサイラックスが登場している。

 だが、『メトロイドプライム ハンターズ』のストーリーにおけるサイラックスは実質、サムスを邪魔してくるだけの存在に過ぎなかった。ほとんどモブだったのである。

 唯一、分かっていたのは「銀河連邦とそれに協力するサムスを激しく憎んでいる」という設定、銀河連邦製と思しき改造スーツを着ていることのみ。その憎しみを持つことになった経緯、スーツの出自については一切、語られなかったのだ。

 だが、サイラックスの出番はこれで終わらなかった。その後、『メトロイドプライム3』を完全な形でクリアしたときに解禁される隠しエンディングの終盤、『メトロイドプライム ハンターズ』でサイラックスが搭乗していた「デラノ7」と思しき宇宙船が登場。サムスのスターシップを追いかけるという謎の場面が描かれた。なお、サイラックス本人は登場していない。あくまでも当人の宇宙船らしきものが現れるだけである。

『メトロイドプライム フェデレーションフォース』(3DS)より。本編にメトロイドが絡むミッションが用意されているのだが……?

 さらにそれから8年後、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』の隠しエンディングにもサイラックスは現れた。正確にはサイラックスと思しき“半身”だけなのだが、プレイヤーがとあるミッションで回収したメトロイドの卵をふ化させるという、意味深かつ不穏な場面が描かれたのだ。

 そして、『メトロイドプライム4 ビヨンド』である。初登場の『メトロイドプライム ハンターズ』以外では、一切姿を見せなかった彼がついにサムスの前に姿を現したのだ。しかも、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』の隠しエンディングでふ化させたと思しきメトロイドを従えて、である。

 前述の過去作での登場を踏まえれば、注目が集まるのも察せるだろう。そう、『メトロイドプライム4 』は史上初めて、サイラックスの素性が語られる作品になりそうなのだ。

 そして、「シリーズ経験者でも彼についてはまったく分からない」と冒頭で言及した理由も分かったと思われる。本当になにひとつ語られず、『メトロイドプライム ハンターズ』以外では姿すら見せなければ、掘り下げも一切行われなかったキャラクターなのである。それが今回、ようやく堂々とその姿を晒すと同時に、サムスの前に現れた。

 注目の対象になるのも大体察せたことだろう。しかも、『メトロイドプライム ハンターズ』から数えて(※発売される2025年に足す形で)19年越しの掘り下げである。「満を持して」という表現すら生ぬるい。

 しかし、なぜこれほどサイラックスはシリーズで暗躍が描かれ続けたのか? その背景にはプロデューサーの田邊氏の思いがあると推測される。というのも、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』の発表当時、米IGNのインタビューに応じた田邊氏がサイラックスのストーリーを描くと面白いかもしれないとコメントしていたのだ。(※)

※参考リンク:E3 2015: What Metroid Prime's Producer Wants In the Next Sequel

 そして、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』では、『メトロイドプライム3』に続く形で、サイラックスの新たな暗躍が描かれたのである。

Nintendo 3DS - Metroid Prime: Federation Force E3 2015 Trailer

 『メトロイドプライム フェデレーションフォース』はその独特すぎるビジュアルとトレーラー第1弾での見せ方の悪さもあって、2015年の初報当時にはファンから痛烈なバッシングを受け、製品版発売後も国内外で苦戦を強いられるなど、不遇な作品だった。しかし、実はこの時点で『メトロイドプライム4』への布石は打たれており、プレイすれば嫌が応にもその現実化を期待させられたのである。

 ただ、ここまで書いた通り、サイラックスのことを知るため、過去作をプレイする意義はそれほどない。そもそも、どの作品でも詳しく描かれていないからだ。しかし、メトロイドを従えて現れた経緯を知りたい場合は、『メトロイドプライム フェデレーションフォース』は可能ならプレイしておくといいかもしれない。

 すでに現役を退いたニンテンドー3DSのゲームであると同時に、ダウンロード版の配信も終わってしまっていることから、本稿執筆時点では購入難易度が上がってしまっているのがタマにキズだ。しかし、ただでさえ『メトロイドプライム4』の布石となった作品なだけに、発売前に何らかの形で復刻されることを願うばかりである。

 『メトロイドプライム フェデレーションフォース』自体はサイラックスの件に限らず、第三者視点から主人公サムスの強さを体験できる面でも唯一無二の魅力を持つ作品だ。むしろ、メトロイドファンほど、これは最低限体験しておく意義があると筆者は伝えておきたい。

時代設定からも新章開幕は確実。そして、ゲームデザインの方向性は……?

 かくして『メトロイドプライム4』は、それまでの「フェイゾン三部作」とは異なる、新しいストーリーを描いた作品になるのは間違いない。

 ゲームシステムについては、本稿執筆時点では分からない部分が多いが、1人称視点を基本としていること、敵や周辺の装置などをスキャンして情報を引き出す「スキャンバイザー」、ロックオンといったシリーズおなじみの要素は網羅していそうだ。

 また、トレーラー冒頭にあるように、本作は「コスモ歴20X9年」が舞台になる。過去の「メトロイドプライム」シリーズの舞台となった初代『メトロイド』と『メトロイドII』の狭間は「コスモ歴20X5年」で、前述の『メトロイドプライム フェデレーションフォース』で「コスモ歴20X6年」へと年越ししている。

 よって、時間軸も『メトロイドプライム4』では大きく変わりそうである。サムスのスーツデザインが過去の「メトロイドプライム」シリーズと同じであることから、おそらくは『メトロイド フュージョン』と『メトロイド ドレッド』より前になると確実と推測されるが、こればかりは今後の続報を待つしかない。

 筆者個人が今回の『メトロイドプライム4』で特に気になるのは、ゲームデザインの方向性である。実は「メトロイドプライム」シリーズは、ナンバリングを重ねるたびに「ゼルダの伝説」に近い作りになっていった。

『メトロイドプライム3 コラプション』(Wii)より

 ストーリー性の強化、それに伴う行動範囲の限定、そしてサムスと共闘する仲間たちの登場に惑星ごとのゴール地点に当たるエリアなど、どんどんゲームデザインの方向性が「ゼルダ」に近しいものになっていったのだ。特に「フェイゾン三部作」のラストを飾った『メトロイドプライム3』はその極致で、探索時における孤独感も特徴のひとつである『メトロイド』としては、かけ離れた雰囲気となっていた(好意的に見れば、本家を含むほかのシリーズにない独自の魅力もあった)。

 結局のところ、「フェイゾン三部作」のなかで昔ながらの「メトロイド」をやっていたのは初代『メトロイドプライム』だけだったのである。それゆえ、今回のゲームデザインがどうなるかはサイラックスの登場以上に注目されるところと言える。

 例によって、それもまた今後の続報を待つしかないのだが、久しぶりの新作である以上、筆者としては原点回帰を掲げたゲームデザインになっていることを祈りたい。

 もちろん、昨今のトレンドを踏まえた遊びやすさ重視の改良も望みたい。しかし、「メトロイド」と言えば迷路のように広大な世界を隅々まで探索しながら、エンディングという名のゴールを目指す「アクション&迷路ゲーム」としての遊び心地が醍醐味だ。

 その魅力を損なわないうえで、遊びやすい形に仕上がっていることを期待したい。そして欲を言うならば、本稿執筆時点では『メトロイドプライム リマスタード』しかない「フェイゾン三部作」を補う残り2作、『メトロイドプライム2』と『メトロイドプライム3』のリマスター版が『メトロイドプライム4』の前に発売される展開にも期待したい。

 いろいろ言いたいことはあるのだが、結局のところ、『メトロイドプライム4』も、次の一言に相応しいゲームであってほしいということだ。そんなわけで、締めに綴りたい。

 メトロイド オモロイド。

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