「にじさんじ」でしかなし得なかった、最高の“箱企画” 『にじさんじGTA』大成功の要因を探る
無事に10日間を完走! 喜怒哀楽を生み出した“にじサントス”とはなんだったのか?
実際にサーバーがオープンしてからの動きは、まさに十人十色だった。
ローレン・イロアス、エクス・アルビオ、葛葉、イブラヒムといった、叶や星川とおなじく他サーバーで同じようなロールプレイ企画に参加していた面々は、会社・組織のトップとして周囲の見本となり、ゲーム知識の共有や的確な指示で不慣れなライバーたちを引っ張り、ときにはフザけたりボケたりする一面をみせ、周囲を和ませていた。
逆に、初めてこうした企画に参加する面々の多くは、初日~3日目までは「自身が選んだ職業をどれくらいうまくプレイできるようになるか?」といった点に苦心していた。
特に警察についた面々は、ギャングを逮捕するための銃・ヘリ・車の扱いなどのテクニックを習得するだけでなく、細々とした事務作業・サーバー内の法律も覚えなくてはいけないため、かなり苦労していたように見える。
最終日間際にはとある出来事をきっかけにして“試験”のような事件対応をすることになったのだが、ローレンやエクスといった先輩らの教えを受けた面々……それもデビューから1年にも満たない新人たちが力を発揮していた流れは、ファンにとっても胸を熱くなったシーンだろう。
警察、ギャング、救急隊、飲食店、タクシー会社、記者、無職など、各々がそれぞれの役職(ロール)を徐々にこなせるようになったことで、プレイヤー一人ひとりが知らず知らずのうちに力を合わせる形となり、街が街として機能していくようになった。結果、立ち振る舞いの自由度が日ごとに増していきつつ、流れの中で生まれる物語、そのうねりに身を任せるようにして、おもしろシーンが増えていくことになった。
振り返ってみれば、星川・叶のサポートが潤滑油となっていた側面はもちろんありつつ多くのタレントはある程度の不都合・難しい場面に遭遇しても、エンタメに昇華してしまうことが多かった。むしろ何でも無いような場面ですら笑い、ドラマを生み出してしまうほどで、同企画は名シーンあげ始めればキリがない。
たった1日みていないだけで、街の状況は一変。日々ルールが微調整されるだけではなく、参加するメンバーたちが新たなコンテンツ・関係性を次々と生み出したことで、語りきれないほどに多くの事件・ドラマが誕生したのだ。
真面目に働いていたはずが不運な事故から借金生活に陥ったり、犯罪をつづけていたメンバーが一気にまともな市民生活を送ったり、または組織のリーダー役がいきなり失墜したりと、企画序盤からまるでジェットコースターのように変容していく街の在り方に、視聴者どころか参加タレントらもドキドキしながらゲームプレイしたことだろう。
企画終盤に入ると、街の中にある高級住宅や高級車を購入して物欲を満たしたり、ゲーム内にあるさまざまなミッションに挑戦したり(ギャング側・市民側問わず)、キャバクラに通い続けた結果お付き合いするカップルが誕生したりと、大いに泣き、笑い、サーバーが閉じる最後まで悲喜こもごもなドラマを見せてくれた。
結果として、大きな注目があつまり、近年でも稀に見る「大成功企画」として多くのリスナーの記憶に残った「にじさんじGTA」。絶妙なバランスを保ちながら綺麗に着地できたのには、星川・叶の両名や「ストグラ」運営チームのサポートがあったこと以外にも、いくつかの要因がある。
まず、「にじさんじ」というプロジェクトに関わる面々のみで開催された、という点だ。
そもそも、所属タレントが100人以上を超えるVTuberプロジェクトやストリーマー/配信者を集めた事務所はほとんど無く、たとえ個人で運営しているゲームサーバーだとしても、100人近いメンバーが一同に集まるというのは現実問題として無理がある。もしも集まったとしても、そのなかでルールを徹底したり、サーバー内の雰囲気を保つための意思統一といったことは難しいはずだ。
その点、「にじさんじ」という屋号の元で集まった彼らは、ある程度の共有できる視点・共通認識があり、「いかにこのゲームを楽しんでプレイできるか?」「どうやって配信を盛り上げようか?」といった部分のみならず、「『にじさんじGTA』というドラマをどう描くべきか?」という、いわば「無意識の連携」が取れていた。
快適かつ刺激的なエンタメを求めようという、言うなれば「これが『にじさんじ』だ」という一種のライン・プライドで結ばれた110名の参加者たち。にじさんじ独特の結束感・騒がしさ、それらが『GTAオンライン』ととてもマッチし、さまざまな場所で爆発的な面白さを同時多発的に生み出したのだ。
2つ目の理由としては、「にじさんじ専用サーバー」を使った企画がかなり久々だったことで、100人以上の参加者が一気に集まったことがあげられる。
にじさんじのタレントはその人数の多さ、多様性から配信していてもゲーム・雑談・歌などジャンル/企画ともにバラバラで、大型の大会企画でもなければ揃って配信することは少ない。大会といっても1日2日で終わることが多く、全員が同じ場に一堂に会することはほとんどない。そして、終了後はまた普段通りの配信へもどっていくのが常だ。
思い返してみれば、これまで対戦ゲームを通じた大会は数多く開催されてきたが、ある程度の期間を置いての多人数参加型企画が催されたことは少なかった。数少ない前例といえば、『Minecraft』や『ARK』の2つが思い出される。
『Minecraft』をつかった「にじさんじサーバー」は、にじさんじプロジェクトの発足当初から現在まで使用されている常設サーバーで、いまでも新人ライバーがサーバーに入ってプレイすることがある。2020年2月には本間ひまわりを発起人とした『ARK』大型企画が始動、「ラクナロク」「アベレーション」「ジェネシス」など拡張マップへのバージョン更新を重ねながら多くのライバーが参加した。
そして今回の『にじさんじGTA』は、『ARK』での企画が始動して以来、実に4年ぶりとなる新しいゲームタイトルでの参加型サーバー企画となった。
開催期間の10日間で参加人数が110人以上、最大同時接続数91人という大きな賑わいを記録したこともあり、どのにじさんじライバーを見てもほとんどが『にじさんじGTA』一色という状況、サーバーが開いている時間帯(19時~27時ごろ)に『にじさんじGTA』以外の配信をしているほうが貴重なほどだった。
結果、「100人近いタレントの顔が見れる」という、ある種の実体性も伴い、タレントの一部は「みんなと会えるし話せるから」という理由でログイン、プレイするようになった。ここまでくると、リスナーよりも参加したタレント達のほうがこの企画に没入していたのが伝わってくる。
先にも書いたように、「VCR GTA」「ストグラ」という先行事例存在したこともあり、「知っている人」「知らない人」がタレント・リスナーともに混在した状態でスタートすることになった『にじさんじGTA』。初日からサーバーインした面々が楽しくプレイした結果、いったん様子見・当初はスルーしていた面々もサーバーに参加するようになった。これが、企画の成功を決定づけた3つ目の理由だろう。
「当初は参加するつもりがなかったけれど、楽しそうにしてるから参加しようと思った」「折角の機会だから、○○さんに声をかけた(かけられた)」と話す途中参加のタレントも多く、主催の星川が「うれしい! 参加してくれるなんて!」と喜びをあふれさせながら話していたのは印象的だ。
月ノ美兎や剣持刀也を筆頭に、こうしたサーバー企画へ参加することがほとんどなかったメンバーも参加、さらにはサーバー内のイベントを主催するまでにのめり込んでいたことからも、今回の企画がいかに希有なものであったかがわかるだろう。
また「想像以上にコメント欄が荒れなかった」と語るタレントもいるように、当初心配されていたよりもリスナーからの反応がおだやか・楽しげだったことで「想像よりも配信しやすいのでは?」と感じたタレントもいたかもしれない。
「街を街として機能させていく」ことが基盤となった同企画には、支え合い・助力が根幹にあったこと、ギャングや警察といった敵対する組織同士であってもエンタメを忘れなかったこと。「星川・叶が主催してくれるなら」「あの人が参加しているなら」といった、この企画に参加しようと思える動機づけにいたるまで、タレント同士が信頼しあっていなければ成立しえなかったともいえる。
この企画中で「初めて顔を揃えてゲームをする」「初めてメッセージ以外のやり取りをする」「そもそも初めて会話する」という組み合わせが続出し、この企画のなかでようやく出会って挨拶を果たす、仲を深めるという機会をたくさん見られたこともファンにとってはうれしかっただろう。
それに伴い、先輩タレントを中心に見ているファンや、逆に新人タレントを中心に見ているようなファンからすれば、「先輩タレント・後輩タレントなことは知っているが、その中身や配信までは詳しくチェックできていない」という部分があったはず。そういったなかで、深く知る機会がなかったタレントたちの魅力を知るチャンスとなった。
いいかえれば「にじさんじがにじさんじを信じる」「にじさんじがにじさんじを知る」という一体感を高めてくれる参加型サーバー企画となり、それまで以上にタレント同士・ファンがより高密な関係性を築くキッカケになったはずだ。
すでに7年目を迎えたにじさんじ。在籍するライバーの多さゆえになかなか見られなかった「箱内の濃い交流」、すこしずつ広がっていたある種の溝・分け隔てられたような感覚を、この企画で一気に埋めることが出来たのではないだろうか。
最後に、星川と叶それぞれが「今回の企画、費用はすべて2人で支払っている」と話しており、我々が想像する以上に本腰を入れ、熱量を込めていたのは明白だ。
大成功といっても差し支えない『にじさんじGTA』。もしも2回目があるのならば……と期待してしまうのは、筆者だけではないはず。だがそれよりもまず、今後各々の配信で『にじさんじGTA』で深まった絆・関係性が還元されていくことになれば、この企画が開催された意味・意義もあるだろう。