「にじさんじ」でしかなし得なかった、最高の“箱企画” 『にじさんじGTA』大成功の要因を探る
ANYCOLORのVTuberプロジェクト・にじさんじで2024年6月15日からスタートしたサーバー企画『にじさんじGTA』が、大きな注目をあつめた。
日本国内外さまざまなタレントが活動しているにじさんじだが、この企画ではなんと総勢110人が参加。ファンからすれば見慣れたいつもの関係性がみえたり、これまで一切かかわりのなかったタレント同士が初めて話す瞬間が見えたりと、さまざまなモーメントが見られた企画となった。
今回は、大きな注目を集めた同企画にフォーカスし、開催までの前後関係や内容について触れながら、成功の要因を分析していこうと思う。
星川・叶による主催企画『にじさんじGTA』 開催に至るまで
総勢100人以上、最終的に110人が参加することになった、にじさんじのサーバー企画『にじさんじGTA』。その発起人は星川サラと叶の2人だ。
キッカケは、2人が『GTAオンライン』のカスタムサーバー「VCR GTA」「ストグラ(ストリートグラフィティ ロールプレイ)」に参加したことにある。ロスサントス市内の住人として、ギャングや警察、救急隊などさまざまな職につき、いち市民となって生活していくという内容に大きくハマった2人は、その後も配信の多くを同企画に費やし、大いに楽しんでいたのだ。
前述した2つのサーバー企画にはにじさんじ所属のタレントが他にも参加しており、ともにインターネットカルチャー/SNSで大きな注目を集めていたこと、なにより2人が『GTAオンライン』を使ったロールプレイに大きな魅力を感じていたこと。さまざまな要因が絡まり、『にじさんじGTA』の開催へとつながっていった。
6月13日には星川・叶が大枠のルールについて語る説明会が開催された。
ストリーマー・しょぼすけを始めとした「ストグラ」運営スタッフがサポート役として入ることや、参加タレントはオリジナルのキャラクターではなく“ライバー自身”として職業や役職をロールプレイ(=役割演技)すること。くわえて各職業がどのようなものなのか、リスナー・視聴者への注意喚起などをざっと説明していった。
6月12日に投稿された同企画の予告、説明会にまつわる投稿は大きな反響を呼び、所属するタレントが続々とSNS上で反応したり、配信内で言及したりするほどの盛り上がりを見せた。にじさんじ所属のメンバーのみが参加する企画でありながら、「VCR GTA」「ストグラ」を好きで視聴していたリスナーからも注目されるほどとなったのだ。
「Grand Theft Auto」シリーズといえば、主人公がギャングの構成員となり、さまざまな犯罪に手を染めながら、警察や一般市民を蹴散らし、ミッションをクリアしていく……というのがゲームの軸となっている。
そのゲーム性や内容から、血生臭くバイオレンスな印象が非常に強く、「ギャング」というイメージからアウトローなムードを想起させ、「なにをしても許される」という無法なゲームと評されることが多い。また登場キャラクターやストーリー展開にはセクシャルな側面も随所にあり、見る人によっては「倫理性に欠ける野蛮なゲーム」だと思う人も多いはずだ。
だが今回の『にじさんじGTA』においては、そういった一面がかなり弱毒化・後景化されていたのが印象的だ。言ってしまえば、“街を街として機能させる”という劇場型のシミュレーションゲームのような一面が色濃く、プレイヤーに求められるのはアウトローな言動・振る舞い・プレイングよりも、“街の中で生きていくための術”としての立ち回りが重要な企画となった。
この「街を機能させる」という点においては、「VCR GTA」などで『GTAオンライン』に慣れている経験者がバランサー役として立ち回ったことが大きく企画の成功に寄与したといえる。
特殊なカスタマイズを施して行われるサーバー企画では『Grand Theft Auto V』を初めてプレイするライバーに向けての指南役が必要であり、食料や水分のとりかた、買い物をする際の手順、車の運転とバランス感覚、そもそもオプション画面からのキー設定や初期リスポーンからどうやって出るか……さまざまな部分を知り、解決し、慣れていくことが求められる。
また参加人数が多いとはいえ、時間帯によってはどうしても参加人数が少なくなってしまい、そうした際のサポート、バグ対応で運営陣がてんやわんやになることも予想された。
とくに警察・救急・ギャングが人手不足に陥ったりすると手持ち無沙汰になってしまう陣営もあるため、ゲームとして、企画として“楽しくない”状況が頻発してしまい、少なからずの不満が生まれたり、離脱者が出たりしてしまう可能性は十分ありえただろう。
そのため、主催者である叶と星川の2人はプレイヤーとして参加するのではなく、運営に与えられた権限を使用して自由にアイテムや武器を使用できたり、自分や相手を移動できたりといった、いわゆるゲームマスター的立場となって奔走することになった(そのため、ライバーたちからは“神”と呼ばれた)。
説明会配信のなかで叶は自身のポジションについて「なんでもやります」と一言で伝えていたが、バグ対応や質問への回答から人手不足な役職の助っ人まで、まさに「なんでも屋」「便利屋」として街を駆け回った。
サーバーが開いている時間は2人共に配信をしており、叶が警察・ギャングに、星川が救急や一般市民にとそれぞれ比重を置き、街を遠巻きながら透明状態で監視。各タレントの一部始終をみて楽しむという「神視点」配信となった。
70人~80人が常時参加していたこともあり、当然神視点で活動する2人がすべてサポートするのは難しかったわけだが、透明状態で各ライバーを監視することでいくつもの名シーンを俯瞰視点で見ることができ、これも企画の盛り上がりに大きく寄与することになった。
特に叶の視点は配信が終わってから半日ほどでその日のダイジェスト・まとめ動画が投稿され、「にじサントスでなにが起こったのか?」「どのような面白場面が生まれたのか?」を知るにはうってつけの動画となった。
こうして、にじさんじとしても、星川・叶の両名としても「初めての試み」ということで、期待と不安が入り交じるなかでスタートしたのだが、結果的に初日から大きな注目を集めることになったのだ。