TikTokで次々ヒットを生み出す『カメ止め』監督・上田慎一郎に聞く“縦型ショートフィルムの世界” 「違った文法のエンタメ」

編集段階で大きく変えた「忙しすぎる人」

――縦型ショートフィルム「忙しすぎる人」に関しては、どういうことを意識したのでしょうか?

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上田:最初に「ショートドラマを通してスマホのタッチ決済の利用推進を図りたい」とご依頼いただきました。それで考えたときに、タイムパフォーマンスの本質ってなんなのって、タイパ志向へのカウンターになるようなメッセージを発信したほうが、他社と差別化できるのではないかと考えました。

上田:それから僕の作品には、テクノロジーを使うことに対して肯定と否定のどっちも描いている傾向があります。テクノロジーを使うことで良いこともあれば、行きすぎれば悪いこともあるかもねって。タイパ志向も、別に僕は悪いとは思ってなくて、肯定と否定の両方がある作品にすべきだなと思ってたので、そこの塩梅を取るところに苦労しました。

――視聴者に、ここは気づいてほしいと思っているポイントやこだわりはありますか?

上田:作品に出てくる主人公の女性がしゃべるときだけ倍速で、お父さんの時間は等速で進んでいて、最後に女性の時間が等速に戻る瞬間があるんですけど、初めてそこでその子の本当の声が聞けるじゃないですか。あれはすごくこだわって、編集したところですね。本当の自分を見失っている感覚から、本当の自分に戻る感覚を作った感じです。

 倍速の声って、本来の声じゃないじゃないですか。そこから本来の声が聞こえるっていうところで、タイパばっかりを求めてると本来の自分を見失うというか、本来自分がやりたかったことから本末転倒になってしまうみたいな感覚が、あそこで伝わればなっていうのはありました。でもけっこう実は、脚本から大きく変えたんですよ。

――どう変えたのでしょうか?

上田:最初はお父さんも、倍速の設定だったんです。それで最後にバースデーケーキが出てきたときに、2人の時間が等速に戻るっていう構成にしていたんですけど、2人の噛み合ってなさを表現したくなって。最終的に娘がお父さんの世界に戻ってくるという方向に変えました。序盤で、お父さんだけが等速で、娘だけ倍速というのも「なんで?」という引っかかりを作れそうだなと。

――編集段階で大きく変えることもあるのですね。

上田:これは縦型ショートに限らずですが、自分自身、めちゃくちゃ粘るっていう資質があって。投稿する直前まで「これがベストなのか」考え抜くようにしているんです。社内のメンバーとかにも見せて意見をもらって。それで「ここで、ゆったり進むとスワイプされちゃうかもね」とか言われたりしたら、編集する。1人で誰の意見も聞かずに、そのままあげる人も多いと思うんですが、意外と客観的に1回見てもらって、磨きをかけたら結果が変わることって多いと思います。

縦型ショートフィルムはハッピーエンドを作るのが難しい

――上田監督の作品は、未来を描いたものが多い印象です。それは上田監督自身の関心の高さゆえなのでしょうか?

上田:そうですね。「キミは誰?」っていう作品から、興味が一気に開花しました。今までは、社会を風刺するような作品とか、現代テクノロジーの先にあるようなSF作品って、そんなに作ってこなかったんですよ。

 ただ、歳をとったこともあって(笑)。作品と社会をもう少し結びつけようと思うようになったんですよね。AIとかVRみたいなものは、もともと好きだったのですが、それと自分の創作が繋がったって感じです。

――SFすぎず、少し先の未来を描いているのはなぜなのでしょうか?

上田:SFって行きすぎると視聴者との距離感ができちゃうんですよね。でも、あり得るかもしれない未来、半歩先を描くことは多くの人に興味を持ってもらいやすい。半歩先の未来を描く、かつ社会風刺が入ったようなものってバッドエンドが多いのですが、警鐘を鳴らして終わるだけじゃないものを自分は作りたいなって意識もあります。

――バッドエンドが多くなってしまうのは、ショート動画において、ハッピーエンドとバッドエンドだったらハッピーエンドの方が作る上では難しいからなのですかね?

上田:そうですね。作ることはできるものの、ハッピーエンドの場合は人間を描く必要があるので。バッドエンドだと短く終われるんですが、ハッピーエンドの場合は乗り超えることや、成長が必要になってくるので、それなりの描写が必要だし、時間がかかるんです。

 やはり、ハッピーエンドの作品で再生数が取れないものになっているものは、たぶん批判的な視点がないままにハッピーエンドをやってしまっているんです。「こういう問題がある…でも」っていうハッピーエンドがあれば、浅くはならないのかなと考えています。

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