野球×乙女ゲームの“異色コラボ”誕生の経緯、そして独自の魅力とは 『My9Swallows TOPSTARS LEAGUE』開発者インタビュー

 オトメイトの乙女ゲーム『My9Swallows TOPSTARS LEAGUE(以下、マイナイン)』は、プロ野球・東京ヤクルトスワローズとオトメイトがコラボレーションして制作中の、野球とエンタメの新感覚恋愛ADV(アドベンチャー)だ。2022年9月の制作発表時から、珍しいコラボが注目されていた。

 2024年に入ってSNSでの情報発信も活発化しており、攻略対象となるナインの素顔も少しずつ見えてきた。そんななか、同作の開発に携わる瑞澤季和氏にインタビュー。異色のコラボの出発点、『マイナイン』ならではの開発秘話や、リリースに向けて期待してほしいことなどについて語ってもらった。(片村光博)

「野球の乙女ゲーム」としてこだわった、9人の攻略対象キャラクター

――『My9Swallows TOPSTARS LEAGUE』は、東京ヤクルトスワローズとコラボレーションしての恋愛アドベンチャーゲームという、一風変わった組み合わせです。まず、このアイデアはどのようにスタートしたのでしょうか。

瑞澤:ヤクルト球団様からお問い合わせを頂戴したことがきっかけです。まずはプロジェクトが立ち上がり、どのようにゲームとして作っていくかというところで、いくつか案を出させていただき、最終的にいまの『マイナイン』の形に落ち着きました。

 通常の乙女ゲームは攻略対象のキャラクターが5〜6人なので、「5人だけ攻略対象で、残りはサブキャラクターに」という案も出たものの、やはり9人ということにはこだわり、それにちなんでタイトルも付けたという経緯になっています。

――制作の過程では東京ヤクルトスワローズ様とのやり取りも密にされているのでしょうか。

瑞澤:最初は「女性向けゲームタイトルをどう出せるのか」というご相談から始まり、オトメイトファンの方や女性向けゲームのユーザーすべてが、野球に詳しくないということも踏まえ、「どう(野球と乙女ゲームを)混ぜるのか」ということで何度か協議させていただきました。そんな経緯もあって、現在の形に落ち着くまでは時間もかかりましたね。

 野球ファン向けにも興味を持っていただけるタイトルにしないといけないし、一方で「オトメイト」ブランドとして出す以上、女性向けゲームをよく遊ぶユーザーにも手に取っていただかないといけない。そのなかで、詳しく野球を解説すると、ご存知の方にとっては冗長になってしまいますが、知らない方にとっては意味不明なままゲームが進んでしまうんです。その折り合いをつけていくのが難しいタイトルですね。

 女性ユーザーが多い関係上、どうしても野球に詳しくない方の比率も多くなるので、自然にわかってもらえるような内容は意識しました。ルールを知らなくても楽しめるアニメや漫画の表現は参考にしつつ、苦労はありながらも制作してきました。

――野球が題材でありながら、野球を知らない人の目線で考えることも大切ということですね。

瑞澤:はい。開発スタッフも野球に詳しくない人の方が多いため、知っている人が見たら「これルール的におかしいよ」となってしまうこともありました。そこはヤクルト球団様に協力していただいて、キャラクターの言動などを含め、野球に詳しい方が見てもおかしくないように制作しています。

 このお仕事がなければ絶対に知らなかったであろうことも知ることができましたし、実際に施設の取材もさせていただいたんです。明治神宮球場や二軍施設にもご協力いただき、詳しいお話も聞くことが出来ました。一般の方が入れない場所に関しては、架空のもので作っている箇所もあります。女性は入れない場所があるのですが、今作主人公は女性ですので、建物や施設の設定を架空のものにして、立ち入れるようにする必要がありました。ヤクルト球団様にもいろいろとお聞きしながら設定を作り上げています。

――登場キャラクターは架空の選手たちですが、東京ヤクルトスワローズ様とどのようにキャラ付けをしていったのでしょうか。

瑞澤:最初にこちらから案をお出しした後、「こういうキャラにしたい」とご指示を頂いたり、投打の設定も出すように、など要望を頂いたりしています。現在、公式サイトで出しているキャラクターのプロフィールにも、球団マスコットのつば九郎も含めて投打の左右を表示しています。

 かなり細かいところまでご指示いただいていて、私たちとしてもありがたいです。スパイクやグローブのデザインだけでなく、バッティングフォームもそうですね。それ以外にもさまざまなやり取りを経て、設定やデザインを調整していきました。

――つば九郎のお話が出たので、先に伺いたいのですが、どんな役回りで登場するのでしょうか。野球ファン目線ではフリップ芸の有無が気になります。

瑞澤:つば九郎はつば九郎として登場します。フリップボードを持って、内容はつば九郎ご本人に書いていただき、それをゲーム会話画面内で登場させます。

――施設、つば九郎と、プロ野球の周辺も含めてかなり現実的なセットのなかでのADVになるという印象です。

瑞澤:現実的に再現している一方で、選手やリーグは新しい、という形ですね。野球の試合だけでは優勝できなくて、アイドル部門でも勝ち進まないと、次の野球の試合に挑めない“エンタメリーグ”のようなイメージです。野球もするし、アイドルもする。ゲーム中盤過ぎまで進めると、歌のオーディション的なイベントが始まり、そこで歌ってから最後は野球で……という流れになります。

――すごく現実に忠実な野球の部分と、王道な乙女ゲームの組み合わせになっているんですね。アイドル活動ではキャラクターたちが歌唱もされますが、松岡禎丞さんら声優陣の配役はここも意識してのものなのでしょうか。

瑞澤:まず、実際に演じられているキャストさんが歌唱部分も担当されているので、乙女ゲームのユーザーの方に喜んでいただける演出にはなっているんじゃないかと思います。オープニングとエンディングも9人が歌う形を採っています。配役に関しては歌唱も得意な方々にお声がけをさせていただきました。

――「役に合う」という意味では、ポジションごとの特性やイメージも意識されたのでしょうか。

瑞澤:そこまでは求めていなかったのですが、捕手(司良堂達治/CV:羽多野渉)だけは特殊なところがありました。ポジション柄、リーダーっぽいところがある、兄貴分的なキャラクターになることは決まっていたので、そうした側面を意識しての起用になっています。

“熱い展開”を演出するライバルの存在 恋愛要素とのバランスも

――キャラクターに関するところだと、ライバルチームの選手も登場します。

瑞澤:ライバルチーム全体を描くことはちょっと難しかったのですが、監督とエースは、ライバルという形で、9人のうち何人かのストーリーでは深く関わってきます。ストーリーとして恋愛が軸ではあるものの、スポーツ的な“熱い展開”もヤクルト球団様からご要望として頂いていたので、そのためにはやっぱりライバルがいた方がいい。でも、全員のストーリーで出てきたら飽きてしまうということもあり、さじ加減の難しい部分ではありました。

 “熱い展開”に関しても、熱血にしすぎると今度は恋愛ができなくなってしまいます。主人公は球団職員で、攻略対象のマイナインスワローズは選手。いわゆる“禁じられた恋”がメインになることもあり、熱血的な表現はやりすぎないように注意しました。

 あとはもちろん、主人公が野球をするわけではないので、実際に“熱い展開”が繰り広げられているところに加われなくて……。そこで『マイナイン』ではテレビ中継視点で野球シーンを描くことにしたんです。女性ユーザーにとって、球場に行って野球を見るという体験は身近ではないことも多いですし、それならアナウンサーなどの演出を入れて、テレビの中継を見ているような感覚になれるように描写しています。基本的には主人公が「試合を見る」という視点になり、要所でナインの彼らの熱い戦いを見せる、という形ですね。

――そうした細かな演出面も、東京ヤクルトスワローズ様とすり合わせつつ着地させていったイメージでしょうか。

瑞澤:細かく読んでいただいて、チェックもしていただきつつヤクルト球団様にもご意見を頂戴し、完成させていきました。野球ファンの方がプレイしても違和感なくできるというのは、ヤクルト球団様も私たちも意識して制作しています。

――実際にプレイする層の想定としては、本来の乙女ゲームファンの女性層はもちろん、東京ヤクルトスワローズ様とのコラボによって少し広くリーチできるというイメージでしょうか。

瑞澤:アイドル要素を入れたのは広くプレイしてもらうためで、どちらかと言うと「これを機会に野球を知っていただきたい」という感覚です。これまで野球に興味のなかった方にも届いてほしいですし、これを機会に野球を好きになってくれたらうれしいです。明治神宮球場へ“聖地巡礼”もしてもらえたら、もっとうれしいですね。

――「おもしろそうなADVがあるな」とプレイしてみたら、たまたま舞台が野球だった……という人が野球にも興味を持ち始めるきっかけになる、というイメージでしょうか。

瑞澤:そうですね。野球に対して「ちょっと見てみようかな」と思ってもらえたらいいな、と思います。

――“聖地巡礼”のお話も出ましたが、球場でのイベントなどもユーザー目線では楽しみになってくると思います。

瑞澤:なにかしらの施策はしたいと思っています。まずは発売に向けて全力を注いで、発売できたらそういう展開も考えていきたいですね。ただ、『マイナイン』に登場するのは架空の選手なので、リアル展開をする場合はつば九郎に頑張ってもらいたいなと期待しています(笑)。

――つば九郎はゲーム内のセリフも期待してしまいます。

瑞澤:結構、会話のなかに自然に溶け込んでいますよ。そのなかで、普段から見せているような、ちょっと厳しめのセリフがあるかもしれません(笑)。見せ方は工夫していますので、プレイした際はぜひ注目してください。

――最後に、リリースに向けてユーザーの方々に期待してほしいポイントを教えてください。

瑞澤:もともと私も野球にはそこまで詳しくはなかったので、多くのユーザーの方々と同じくらいの知識量でした。でも、制作を通していろいろなことを知って、実際に球場にも足を運んで観戦してみると、「こんな世界があったんだ」と感じましたし、そういう感覚をゲームでも味わっていただいて、野球を知るきっかけにしてもらえたらと思っています。

 あとは、もちろんアイドル活動の部分もあります。歌もダンスも、最初は合わなくてもちょっとずつ合わせていく、上達していく姿を描いています。彼らが歌やダンスを上達していく過程を、一緒に体験していただけたらうれしいです。

 キャラクターのなかには、野球経験のない選手もいます。アイドルだけど、野球はやっていないというキャラクターで、納得できる設定も用意していますが、そうしたほぼ初心者のようなところからスタートするキャラクターもいれば、その逆のキャラクターもいるので、いろいろな形の成長をお見せできると思います。彼らの成長を見守りながら、野球にも詳しくなれるような作品をお届けできればと思っています。

※画像は開発中のものです。

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