『真・女神転生V』DL版販売終了と、高まる“完全版商法”への反発 信頼維持のカギはDLC配信に?

 アトラスは5月13日、『真・女神転生V Vengeance』のリリースにともない、オリジナル版である『真・女神転生V』のダウンロード販売を6月13日に終了すると発表した。

 発売に至る経緯などから額面どおりには評価されず、諸手を挙げての歓迎を受けられないでいる『真・女神転生V Vengeance』。いわゆる“完全版商法”のこれまでとこれからを考える。

待望の主要プラットフォーム全対応を果たした『真・女神転生V Vengeance』

『真・女神転生V Vengeance』PV01(ロング Ver.)

 『真・女神転生V Vengeance』は、2021年11月にアトラスより発売された「真・女神転生」シリーズの第5作『真・女神転生V』を原作とするRPGだ。フィールド探索やバトル、悪魔の成長要素など、オリジナル版にあったさまざまな体験をブラッシュアップ。新たな要素を追加し、生まれ変わる進化版となっている。プレイヤーは、都内の高校に通う少年の視点から、人間と悪魔、天使といった派閥による世界の混沌をめぐる物語を見つめていく。公式によると、同タイトルのシナリオは、原作で語られた物語である「創世の女神篇」と、それとは別のまったく新しい物語「復讐の女神篇」にルート分岐するという。名前に冠されている「Vengeance」は、「復讐」を意味する英単語だ。

 『真・女神転生V Vengeance』は、6月14日発売予定。対応プラットフォームは、Nintendo Switch、PlayStation 5/PlayStation 4、Xbox Series X|S/Xbox One、PC(Steam)で、価格は、通常版が9,878円、デジタルデラックス版が11,660円(ともに税込)となっている。Nintendo Switchのみに限定されていた『真・女神転生V』の門戸がまもなく、他プラットフォームにも開放される。

“完全版商法”に集まる批判。次作でのスタンスが信頼回復の試金石に

『真・女神転生V Vengeance』PV02

 『真・女神転生V Vengeance』は、任天堂の新作情報番組「Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.2.21」のなかで存在が明かされた。『真・女神転生V』の発売をめぐっては他プラットフォームでの展開を待望する声が大きかったこともあり、特にNintendo Switchを所有していないシリーズファン、気になりつつも未プレイだった層に発表は好意的に受け止められていた。

 その一方で、上位互換とも言える拡張版がリリースされることには批判の声も集まっている。開発・発売元であるアトラスは、別の看板シリーズ「ペルソナ」でも同様の手法でタイトルを発表してきた過去がある。直近の例では、ナンバリング第5作『ペルソナ5』のリリースから約3年後に完全版と位置づけた『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』を、ナンバリング第3作の移植版をリマスター化した『ペルソナ3 ポータブル』(以下、『P3P』)のリリースから約1年後にリメイク版にあたる『ペルソナ3 リロード』(以下、『P3R』)を発売したケースが挙げられる。前者に至ってはさらに3年後の2022年10月、現行機に向けてグラフィックなどをリファインした『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』リマスター版も発売を迎えた。

 昨今のゲーム界隈において、このようなアプローチは「完全版商法」と呼ばれ、忌み嫌われている。今回の『真・女神転生V』ダウンロード版の販売停止は、目線を変えれば「拡張版の発売前後にユーザーが不本意な形でオリジナル版を手に取ってしまわないよう未然に対応した」とも捉えられるかもしれない。しかし、一連の経緯やフリーク(特にオリジナル版をNintendo Switchでプレイした層)の心情を考えると、そのように好意的には受け止めづらい事情もある。

『ペルソナ3 リロード』PV01

 他方、このように繰り返されてきたアトラスによる拡張版のリリースについて、潮目が変わったと考えられる動きもある。それがリマスター版における追加エピソードのダウンロードコンテンツ化だ。

 『P3R』の原作にあたる『ペルソナ3』においては、上述の移植版『P3P』のほかに、オリジナルに追加要素をくわえた拡張版『ペルソナ3 フェス』(以下、『P3F』)がPlayStation 2で展開されている。こちらにはメインストーリーの後日談にあたる新シナリオ『Episode Aegis(エピソードアイギス)』が収録された。『P3R』の発売時には、同タイトルが(追加シナリオ未収録の)オリジナル版をベースとしてリメイクされていることに疑問の声が集まっていた。『Episode Aegis』を体験するためには、実機で『P3F』をプレイするほかなく、特に往時を知るプレイヤーにとっては、(直前に『P3P』のリマスター版がリリースされていた経緯もあり)『P3R』がやや意義の薄い復刻となっていた実態がある。

 しかし、『P3R』の発売から約1か月後の2024年3月、アトラスは複数のダウンロードコンテンツを盛り込んだエクスパンションパスの展開を発表。同年9月に配信される第3弾において『Episode Aegis』を実装するとアナウンスした。“完全版商法”に否定的なフリークたちのあいだでは、「同追加シナリオを盛り込んだ新たな拡張版が発売されるのでは?」という噂も囁かれていただけに、ダウンロードコンテンツによる対応には安堵の声も聞かれた。価格は3,850円(税込)と決して安くはないが、新たなパッケージの購入が必要となるよりは、ずいぶんと良心的だろう。直近では、このようにユーザーにとってポジティブな動向も生まれつつある。

『ペルソナ3 リロード: エクスパンションパス』 アナウンストレーラー

 だからこそ、アトラスにとっては次の一手が信頼回復にあたっての試金石となるはずだ。『真・女神転生V Vengeance』同様、拡張版という形で新たなパッケージを展開するのか、はたまた、『P3R』のようにダウンロードコンテンツという形で追加要素を配信するのか。どちらがユーザーの理解を得やすいかは一目瞭然だ。

 私の実感では、こうした手法に対するユーザーの嫌悪感はすでに臨界点に達しつつある。「ペルソナ」シリーズの躍進により、日本を代表するRPGメーカーのひとつとなったアトラスであるだけに、ぜひとも前向きな決断を下してほしいところだ。

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