極上の謎解きと高精細なドット絵に彩られた大迷宮へ 傑作パズル・メトロイドヴァニア『ANIMAL WELL』レビュー
インディーゲームといえば、メトロイドヴァニア……そう言っても過言ではないほど、大量の作品が生み出されてきた。多くのファンを有しているのは間違いないが、傑作から単なるフォロワー作品まで、玉石混交なジャンルでもある。
※ちなみにメトロイドヴァニアとは「メトロイド」シリーズと『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』を合わせたような作品を表し、具体的には2Dの画面構成で、無数に用意されたエリアを行き来しつつ、アイテムを集めて謎解きや戦闘をこなすアクションプラットフォーマーゲームのことだ。
そんなメトロイドヴァニア業界に彗星のごとく現れた『ANIMAL WELL』は、間違いなくその歴史に輝かしい1ページを刻むであろう傑作だ。ジャンルファンのみならず、パズルゲームを愛する人であればまずチェックしてほしい一本だったので、ぜひとも紹介させていただきたい。
本作はBilly Bassoという個人開発者がひとりで作り上げ、大物YouTuberであるvideogamedunkey氏が販売に携わったパズルゲームだ。主人公は小さくひ弱なスライムだが「ヨーヨー」や「ヒバナ」といったオモチャっぽいアイテムを駆使し、動物たちがひしめく巨大な井戸を探検することとなる。どのアイテムにもいくつかの使い道があり、道中でガチャガチャと試しているうちに、ふとひらめきが訪れるようになっている。
また、本作は全編を通して動物たちしか出てこないので、システムメッセージ以外にテキストは存在せず、いかなる謎もアイテムも仕掛けもすべてノーヒントで解かなければならない。閉まっている扉を開けるためには? 邪魔してくる動物はどう退かす? 上の方に行くにはどうすればいい……? 終始こんな具合だ。
逆に言えば、ミスリードになるような表記揺れや、誤訳による意味の取り違えもないので、純粋に謎そのものと向き合うことが出来るとも言える。
謎の出来ははっきり言って極上だ。メトロイドヴァニアは往々にしてアイテムを手に入れることで道が開けるという楽しみを感じるものだが、本作が優秀なのは、アイテムの入手順によってルートが厳しく管理されているということはなく、いま持っているもので大体解けてしまうというところだ。
多くの謎解きにはいくつかの解法があり、プレイヤーによって体験が大きく異なる。アイテムはどれもがユニークでありながら、その使い方の一部は共通しており、Aを使って無理矢理解くプレイヤーもいれば、Bを試してすんなりクリアできるプレイヤーもいるだろう。
ちなみに、このように明らかにゲーム側が用意している段階を飛ばす行為を「シーケンスブレイク」と呼ぶ。たとえば、爆弾で壊すはずの壁を、爆弾を手に入れる前にバグ技ですり抜ける……といったことだ。シーケンスブレイクのほとんどはバグ技を使用せざるを得ないのだが、このゲームは開発が用意したシーケンスブレイクを思う存分楽しめる作品だと考えてほしい。
一部『スーパーマリオブラザーズ3』へのパロディとも取れるような表現もあり、その他にもオーソドックスで丁寧な謎解きももちろん存在する。アーリー任天堂の秀逸な謎解きの遺伝子がよく受け継がれているなと感じた。
そしてなにより伝えておきたいのは、このゲームを神秘的に見せているシークレット要素だ。本作はノンバーバルだからこそ、常に周りが秘密で覆われている感じがする。そうしてプレイヤーが睨んだ通り、高台まで無理に登ったり、壁を調べあげたりしてみたら、隠された道が見つかる……この瞬間の興奮たるや、Billy Bassoはゲーマーの心の襞を撫でるのが上手すぎる!
プレイヤーの気づきや試みを許容するデザインは、近年のゲーム開発において非常に重要視される点だ。本作はただ解かされているだけの感覚に飽きてしまったコアゲーマーの渇望を満たす、非常にソリッドで挑戦的なゲームである。なるべく難しいシークレットを集めて回りたいというやる気に満ちたプレイヤーや、順番に進んでいくだけのメトロイドヴァニアの作りを疑問視しているプレイヤーは、いますぐこの底なしの迷宮に足を踏み入れたほうがいいだろう。
さて、グラフィックについても語ろう。これはスクリーンショットを見てもらえばすぐわかることだが、本作のドット絵は多くの人を惹き付けることだろう。
白い水飛沫が上がる表現や、ツタが主人公に絡む感じまで、どれもこれもビビッドかつスタイリッシュに描かれている。ただのドット絵世代に対するノスタルジーや、凝りすぎてわかりにくくなっている部分は一切なく、この奇妙な空間を演出するために考え抜かれたビジュアルであることがよくよく伝わってくる。これでゲーム全体がたったの33メガバイトとは!
何十種類も描かれている動物たちの造形も素晴らしい。よちよち歩いている可愛い小動物から、畏怖すら感じるほど巨大な体躯をしたアニマルまで幅広い。全体的に不気味さが漂うゲームであり、追いかけられるシーンはいくつかあるが、ジャンプスケアは存在しないので安心してほしい。
またいくつかのアートワークは、アートでありながら謎解きとしても機能しており、眼の端で追っていただけのプレイヤーに大きなアハ体験を提供してくれることもある。この薄暗い井戸の底で目を皿のようにして探し回らなければ、本当の結末には辿り着けないのだ。そこもまたクリエイティビティを感じる点である。
しかしながら、いくつかの欠点も存在する。
本作は自由に攻略順を決められる反面、ステージの概念が薄く(大きく四つ+αに分かれてはいるが)セーブポイントとなる「電話」の位置が離れてしまっていることがある。まめにチェックしないと、どこかで不意に落下死してしまった場合、思ったより遠くに戻されるということが起きがちなのだ。
くわえて、なにも語らないという表現を徹底したために、他のゲームで当たり前にあるような機能をアンロックするのも一苦労……という点にも注意が必要だ。詳しくはネタバレになるから言えないが、普通のゲームなら序盤にもらえるような機能も、本作では気付きと工夫でどうにかしなければならないため、人によっては面倒臭いと感じてしまうこともあるだろう。
多少の問題点はあるものの、ジャンルファンが興奮する仕掛けがこれでもかと盛り込まれたこの大迷宮に、ぜひとも挑戦してもらいたい。『ANIMAL WELL』はSteam/PlayStation 5/Nintendo Switchで発売中。
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