首都圏で急増中のeスポーツカフェ 都市開発の余波は「継続」につながるのか

 eスポーツカフェが急増している。

 2024年1月~3月にかけて、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)でeスポーツカフェの新規オープンが相次いだ。今回は、その背景や要因について「令和のeスポーツカフェの傾向」「100年に1度の大規模都市開発」「東京圏の人口一極集中」などの観点から紐解いていく。

まずは3つの前提知識をおさえる

 eスポーツカフェが増加している背景を論ずる前に、少し視野を広げて「いま日本や東京圏で起きていること」を押さえておきたい。

前提1:100年に1度の大規模都市開発

 東京は100年に1度の大規模再開発の真っ只中である。大規模再開発の背景には「街の国際的な競争力を高める目的」「諸外国の企業や人材へのアピール」があるとされている。

 2023年3月に「東京ミッドタウン八重洲」、2023年11月に「麻布台ヒルズ」「羽田イノベーションシティ」「麻布台ヒルズ森JPタワー」がオープン。2024年夏には「渋谷サクラステージ」が開業予定、2028年には麻布台ヒルズ森JPタワーの高さを上回る「トーチタワー」が建設予定だ。

 上記のような新規の建設だけでなく、既存施設を再活用・再生させる開発も進んでいる。東京2020夏季オリンピックを経て、その役目を終えた東京五輪選手村は、広大な施設跡地を再利用すべく開発が進んでおり、新宿の小田急百貨店、京王百貨店は再生を目的とした建て替えが予定されている。

 昨今オープンしたeスポーツカフェの中にも、駅前の施設の再活用、自社ビルのフロアの改装など、既存の施設の再開発としてカウントできるものがある。

 大規模都市開発による建設&再開発ラッシュが、eスポーツの実店舗ビジネスにも影響を与えているといえるだろう。

前提2:東京圏の人口一極集中

 東京圏の人口一極集中は1950年代から続いており、現在、日本の総人口の約30%が東京圏に集まっている。総務省統計局の推計によると、令和6年1月1日時点での東京都の人口は1410万5098人であるため、総人口の10%以上が東京都に集中していることになる。

 コロナ禍がもたらしたリモートワーク文化により、労働人口の一部が地方に流れる予想もされていたが、結果的にコロナ収束後も東京圏の一極集中は続いている状況だ。

 どの程度、東京圏に人が流れているのかを示す指標として転入超過数(※1)というものがある。「住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)結果」によると、東京圏は12万6515人の転入超過であり、前年に比べ2万6996人の拡大となっている。

※1: 転入超過数とは、市区町村または都道府県の転入者数から転出者数を差し引いた数。転入超過数がマイナス(-)の場合は、転出超過を示す。

 また、ここでは転入数だけでなく、その年齢にも注目したい。

 東京圏の年齢階層別の転入超過数を見てみると、20代の占める割合が最も大きくなっていることがわかる。2010年は66%であったが、2018年には73%と増加しており、20代の移動が東京圏の転入超過に大きな影響を与えている。

 これらの情報を考慮すると、eスポーツカフェに限らず、東京圏で積極的に「20代向けのコンテンツ」の開発が続けられているのは必然といえる。

参考:総務省統計局|住民基本台帳人口移動報告 2023年(令和5年)結果
https://www.stat.go.jp/data/idou/2023np/jissu/youyaku/index.html

参考:総務省統計局|住民基本台帳人口移動報告 / 参考表 2018年~ (年齢(10歳階級),男女,転入・転出市区町村別結果(移動者(外国人含む))
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=dataset&toukei=00200523&tstat=000000070001&tclass1=000001128355&stat_infid=000040049132

前提3:飲食サービス業の開業率と廃業率

 詳しくは後述するが、昨今のeスポーツカフェは従来のような、ゲーミングPCを並べたネットカフェの形態だけではない。配信設備を充実させたイベントホールに加えて、飲食サービスを提供することで、パブリックビューイングを楽しめるような形態も増えてきている。

 よって、昨今のeスポーツカフェは飲食サービス業としても捉えるべきであり、主題について論ずるのであれば、飲食サービス業の実態を把握しておく必要がある。

 ここで手掛かりになるのが、飲食サービス業の開業率と廃業率のデータである。中小企業庁が厚生労働省の「雇用保険事業年報」を基に算出したデータによると、「宿泊業、飲食サービス業」は開業率と廃業率が共に高く、「生活関連サービス業,娯楽業」、「情報通信業」を抑えて、全業種で最も高い率となっている。

 一般的な飲食店は3年で7割が廃業になり、バーは1年で8割が廃業になるともいわれており、頻繁に事業者の入れ替わりが行われている業種である。居抜き物件による開業のしやすさも開業率の高さに一役買っていると考えられており、この「始めやすいが続けるのは困難」という側面が廃業率の高さにつながっているのだろう。

 eスポーツカフェの業態が多様化したことにより「eスポーツには詳しくないが、○○には詳しい」という事業者が、自社のノウハウとeスポーツ要素を組み合わせることで、eスポーツ業界に参入する流れができつつある。個人的には今後、独自解釈でのeスポーツカフェが増えてくると予想している。

参考:中小企業庁|開廃業の状況
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/shokibo/b1_2_3.html

最近オープンしたeスポーツカフェの実態

 ここまでの前提を抑えたうえで、近年オープンしたeスポーツカフェの実態について、2つのポイントを記述する。

ネカフェ型からイベントホール型、パブリックビューイング型へ

 東京圏でeスポーツカフェが増え始めたのは2010年代であり、アイ・カフェ株式会社が運営していた「eスポーツカフェ-アイ・カフェ AKIBAPLACE店」(※現在は閉業)、ウェルプレイド・ライゼスト株式会社(現:GLOE株式会社)が運営する「e-sports SQUARE」、e-SPORTSCAFE株式会社が運営する「e-sports cafe」が思い起こされる。

 ただeスポーツカフェ黎明期にオープンしたeスポーツカフェと、昨今オープンしているeスポーツカフェとでは傾向が異なっている。業態がネットカフェ型からイベントホール型、パブリックビューイング型へと変化し、多様化している。

 ネットカフェ型のeスポーツカフェとして思い起こされるのは、ネットカフェ界の大手であるアイ・カフェ株式会社が運営していた「eスポーツカフェ-アイ・カフェ AKIBAPLACE店」や、新大久保で2016年から営業を続けている「e-sports cafe」だろう。

 どちらも従来のネットカフェにおける、漫画&雑誌の要素を排除して、ゲーミングPCや各種デバイス、回線環境にリソースを再配分した施設である。このような施設に「eスポーツカフェ」という名称を与え、ネットカフェのリブランディングに成功したのが、2010年代のeスポーツカフェの実態といえる。

 時代は移り変わり、上野にオープンした「esports Style UENO」はデフォルトではネットカフェのようなゲーミングスペースであるものの、催事ではイベントスペース、パブリックビューイング会場への換装ができ、海浜幕張の「e-sports place ACE MAKUHARI」はプレイスペース、イベントスペース、パブリックビューイングエリアの3つの区画を常設している。

 ネットカフェ型からイベントホール型への業態変更の背景には、大企業の参入による大資本の投下と、ペルソナの移り変わりがあるのだろう。事業として持続可能にするためにも、従来のようなコアゲーマーだけでなく、カジュアルな家族連れ&女性客を視野に入れることを余儀なくされている。

 これらの傾向は新規オープンしたeスポーツ施設だけに見られるものではない。既存のeスポーツカフェにも、ネットカフェ型からイベントホール型へのリニューアルを果たした施設もある。

 サードウェーブの子会社E5esports Worksが運営するeスポーツ施設「LFS池袋 esports Arena」(※2)は、2021年4月に配信やイベントに特化したeスポーツスタジオとしてリニューアルオープンしている。

※2:2018年の開業時、施設名「LFS池袋」として、ハイスペックなゲーミングPCを手軽に楽しめるeスポーツ施設として運営されていた。

 「e-sports SQUARE」は、千葉県市川から秋葉原への移転のタイミングで、ネットカフェ型からネットカフェ×イベントホール型のハイブリットな形態に変更している。

コロナ禍の反動、新規オープンに擬態したリノベーション

 「新たなeスポーツカフェがオープンした」と聞くと、事業者が物件を契約して、新たにeスポーツカフェとして開業させたような印象を抱くが、近年オープンしたeスポーツカフェのいくつかはそうではない。

 au Style UENO3階にオープンした「esports Style UENO」、およびコナミクリエイティブセンター銀座1階にオープンした「STROPSe」は、どちらもKDDIやKONAMIが所有していた店舗やビルの一部が、eスポーツカフェ化したという形である。

 前者の「esports Style UENO」は2019年のオープン以降、1Fと2Fは(現在と同じく)カフェとauショップであったが、3Fについてはオープンから4年近く、一般解放されておらず、店内のフロアガイドには「Coming Soon」と表記される状態が続いていた。オープン直後に襲い掛かったコロナの影響もあったのかもしれないが、「esports Style UENO」としての運用が始まるまでは、用途が未定の状態で放置されていたフロアだったといえる。

 後者の「STROPSe」についても、コナミクリエイティブセンター銀座自体は2019年から運用が開始されていたが、オープン当時の1Fは体験型のショールームを備えた「esports 銀座 store」であった。

 いずれにしても、両施設とも、用途を失っていたフロアに大規模な改修工事を行い、eスポーツカフェという用途と機能を与えて付加価値を向上させた形となる。

 どちらのビルも2019年から運用されていたため、当初から予定されていたeスポーツカフェの開発がコロナ禍によって中断された形となったのか、後付けでeスポーツカフェとしての運用が検討されたのかは定かではないが、いずれにしてもこのタイミングでの同時多発的なオープンには、コロナ禍という空白期間が起因しているといえる。

結論:「挑戦」から「継続」へ

 結論としては、東京圏を中心にeスポーツカフェが増えているのは「100年に1度の都市開発ブームであるということと、東京圏の転入者の多くが20代であることが起因している」というのが筆者の主張である。

 乱暴な言い方をすると、用途を失った空間の再利用を検討する際、大人たちが知恵を絞った結果「20代をターゲットとした施設」が選択肢として挙がり、その1つがeスポーツカフェだったということなのかもしれない。

 加えて、従来のような個人や中小企業だけなく、大手企業がeスポーツカフェの運営に参入したことで、資金力を活かした大規模な開発が可能となり、多様なeスポーツカフェが作りやすくなったのも増加の要因といえるだろう。

 こうしてさまざまな形態のeスポーツカフェが増えてくれることは喜ばしいことであるが、1つ懸念点がある。

 それは何事も「始まり」があれば「終わり」があるということだ。

 これまでeスポーツ業界を取材してきて、多くのeスポーツプロジェクトが終わるのを目の当たりにしてきた。直近では、2021年から株式会社NTTドコモが運営していたeスポーツリーグブランド「X-MOMENT」の終了が記憶に新しい。同プロジェクトは『PUBG MOBILE』と『レインボーシックス シージ』の日本リーグである「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE」と「Rainbow Six Japan League」を運営していたが、2024年4月10日をもって終了した。

 また『Shadowverse(シャドウバース)』のプロリーグである「RAGE Shadowverse PRO TOUR」は、2024年シーズンからは8チームから4チームに規模縮小となり、不参加となった4チームの『シャドウバース』部門は活動休止または解散となった。

 若者たちが「プロゲーマー」という、大人の作った夢に期待を寄せるものの、志半ばで散り、野に放たれていくのを何度も目にしてきた。

 「挑戦」といえば聞こえは良いが、その「挑戦」に巻き込まれた多くの人生がある。もちろん、それら挑戦の数々がここまでのeスポーツ業界の発展の礎になってきたのは間違いないが、これからは「挑戦」だけではなく「継続」させることの重要性を再認識すべきタイミングなのかもしれない。

 もう「大手企業が運営するから安心してください」をeスポーツファンは信じていない。

 都市開発の余波を受け、急増しているeスポーツカフェではあるが、どの店舗も魅力的であるため、これが「挑戦」に終わらず「継続」されることを心の底から願っている。

付録:2024年にオープンしたeスポーツカフェ

・Cafe&Bar RAGE ST
オープン日:2024年1月28日
最寄り駅:池袋駅
運営:JRグループ3社(JR東日本クロスステーション、ジェイアール東日本企画、JR東日本スポーツ)

・esports Style UENO
オープン日:2024年2月1日
最寄り駅:上野駅
運営:KDDI

・eスポーツCAFe&BAR「STROPSe」
オープン日:2024年2月26日
場所:京橋駅
運営:コナミグループ

・e-sports place ACE MAKUHARI
オープン日:2024年3月23日
場所:海浜幕張駅
運営:株式会社カインズ・ロジ

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