『ドラクエ』『クロノ・トリガー』から『トバル』まで 鳥山明氏がゲーム文化に与えた影響と偉大な功績
3月8日、『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』の作者として知られる漫画家・鳥山明氏が3月1日に亡くなっていたことが関係各社より明らかとなった。
言わずと知れたマンガ界のレジェンドとして、世代を超えて愛され続けてきた同氏には、ゲームカルチャーにも多くの功績がある。本稿では鳥山明氏の訃報を機に、あらためて彼がゲーム史に残した作品たちを振り返っていく。
もはや紹介するまでもない大名作「ドラゴンクエスト」シリーズ
最初に紹介するのは、ゲームカルチャーにおける鳥山明氏の代表作として、もはや取り上げるまでもないほど広く知られているであろう「ドラゴンクエスト」だ。同氏はシリーズ第1作『ドラゴンクエスト』が誕生した当初から、最新作の『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』に至るまで、すべての作品でキャラクターデザインやモンスターデザインを手掛けている。直近のナンバリングこそ、世代交代への意識からか一部のデザインのみにとどまっているが、初期にあたる『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』までの作品では、すべてを担当。シリーズが現在の人気を獲得できたのは、鳥山氏を含む初期のクリエイターのおかげと言っても過言ではない。
第1作目の『ドラゴンクエスト』が発売された当時、同氏は週刊少年ジャンプにて『ドラゴンボール』を連載中だった。漫画家はただでさえ締切に追われるイメージのある職業だが、すでに売れっ子であったこと、同作と同時進行で『ドラゴンクエスト』(だけでなく、その後のナンバリングも)のキャラクターデザイン/モンスターデザインを務めあげたことを考えると、おそらく想像を絶するような多忙さだったに違いない。しかしながら、その日々がなければ、今日私たちはこのRPGの金字塔に触れることが叶わなかったはずだ。「ドラゴンクエスト」シリーズはまさに、「鳥山明の功績」と呼ぶにふさわしいゲーム作品なのではないだろうか。
誰もがご存知のとおり、シリーズに登場するキャラクターは以降、本編を離れ、さまざまにスピンオフ化されている。鳥山氏のデザインなしには、このような展開もありえなかったに違いない。
「ドラクエ」に勝るとも劣らないRPGの金字塔『クロノ・トリガー』
2つ目として挙げるのは、「ドラゴンクエスト」と並び、RPGの金字塔に挙げられる機会の多い『クロノ・トリガー』だ。1995年、スーパーファミコン向けのタイトルとして発売された同作は、スーパーバイザー/エグゼクティブプロデューサーに「FINAL FANTASY」シリーズの坂口博信氏、おなじくスーパーバイザー/ストーリー原案に「ドラゴンクエスト」シリーズの堀井雄二氏、キャラクターデザインに鳥山明氏と、当時それぞれの分野で活躍していた3人のトップランナーの名が並ぶことで大きな注目を集めた。
発売前から話題が先行していた『クロノ・トリガー』だったが、ご存知のとおり、大きすぎる期待を上回る評価を獲得。ゲーム史に名を残すRPG作品として、現在もなお、Android/iOS、Steamで配信中の復刻版が広く遊ばれている。
いま振り返ると、注目作が寄せられた期待を超えて名作となっていたこのころは、ゲームカルチャーにとって最高の時代のひとつだった。最近では、大きな期待のなかで発売されたタイトルが実をともなっておらず、ほどほどの評価に落ち着いたり、場合によっては批判にさらされたりするケースも珍しくない。
当然ながら、鳥山明氏は同作が制作されていた時期も、週刊少年ジャンプで『ドラゴンボール』の連載を継続している。『クロノ・トリガー』は、メンバー、クオリティ、スケジュールという3つの面において、神がかり的なバランスのうえに成り立っているゲーム作品と言えるのではないだろうか。
第1作には『FF7』体験版が付属。スクウェア発の対戦格闘ゲーム「トバル」シリーズ
3つ目は、「トバル」シリーズだ。1996年に第1作『トバル ナンバーワン』が、翌年1997年に第2作『トバル2』が、ともにスクウェア(現スクウェア・エニックス)より発売となった同シリーズは、先に紹介した「ドラゴンクエスト」『クロノ・トリガー』とは異なり、3D対戦格闘というゲーム性を持っていた。全世界で展開された第1作は、92万本の販売本数を記録。鳥山明氏がデザインを手掛けた主人公キャラクター「チュージ・ウー」が描かれたジャケットの様子を思い浮かべられるフリークも多いのではないだろうか。「多額の賞金を賭け、200日に一度開催される闘技大会『トバルナンバーワン』」という設定には、鳥山明ファン、さらには『ドラゴンボール』ファンの多くが、同作に登場する「天下一武道会」を連想したに違いない。シリーズの誕生から30年近くが経過した現在では、知る人ぞ知るシリーズとなりつつある「トバル」シリーズだが、昨今のリメイク・リマスターのトレンドのなかでは、復刻を待ち望む声も小さくない。
なお、余談だが『トバル ナンバーワン』には、2024年2月末に発売され話題を呼んだ『FINAL FANTASY VII REBIRTH』の原作『FINAL FANTASY VII』の体験版が付属されていた。「こちらを目当てに『トバル ナンバーワン』を購入したものの、気づけば同作の世界にハマってしまった」というプレイヤーも少なくないのではないか。こうした背景もまた『クロノ・トリガー』と同様に、当時のスクウェアの勢いをうかがえるものとなっている。
このほかにも、『空想科学世界ガリバーボーイ』や『ブルードラゴン』といったゲーム作品に登場するキャラクターが、鳥山氏の手によって命を吹き込まれてきた。主戦場であるマンガの世界に勝るとも劣らないほど、現在も彼の影響が色濃く残っている分野がゲームカルチャーだ。
未発売の新作タイトルへの影響は?
マンガやゲーム、アニメといったカルチャーに触れてきたすべての人にとって、青天の霹靂となった鳥山明氏の訃報。その知らせを耳にしたゲームフリークの一部は、すでに発表されている同氏が携わった新作タイトルたちの動向が頭をよぎったはずだ。2024年4月には、バンダイナムコエンターテインメントが『SAND LAND』のゲーム作品を、発売日未定ながら近い将来には、スクウェア・エニックスが『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』(以下、『ドラクエ12』)の発売を予定している。
今回の訃報を受け、両タイトルの公式はコメントを発表。「鳥山明先生のご逝去の報に接し 謹んでお悔やみ申し上げます。『SAND LAND』ではさまざまなお力添えをいただいておりました。生前のご功績を偲び 心からご冥福をお祈りいたします。(『SAND LAND』公式)」「鳥山明先生が生み出すキャラクターはゲームの作り手と遊び手の想像力をかき立て、心のなかに広大な冒険の世界を描き出してくださいました。鳥山明先生が生み出したキャラクターや世界観は、今後の『ドラゴンクエスト』でも息づいてまいります。鳥山明先生の生前のご功績に心より感謝申し上げます。謹んで哀悼の意を表しますとともに、安らかにご永眠されますようお祈りいたします。(『ドラゴンクエスト』チーム)」とした。
また、スクウェア・エニックスは制作中の『ドラクエ12』に関して、「発売を目指して開発を進める方針」であることを明らかにしている。「ドラゴンクエスト」シリーズをめぐっては、本稿で「シリーズが人気を獲得する理由になった」とした初期のクリエイターを相次いで喪った。2021年9月には、鳥山明氏と同様にシリーズ全作品の音楽を手掛けてきた作曲家・すぎやまこういち氏が亡くなっている。
かねてから「ドラゴンクエスト」シリーズでは、「彼ら2人に代表される初期のクリエイターが生み出す世界からどのように脱却するのか」が今後の課題として挙げられてきた。次作『ドラクエ12』は図らずも、その試金石となるタイトルとなってしまったことになる。
一方、もうひとつの新作タイトルである『SAND LAND』に関しては、発売がまもなくということもあり、致命的な影響はないものと考えられる。2024年2月20日には、ゲームプレイトレーラーも新たに配信された。
アクションRPGというゲーム性、ミリタリー感にあふれたバトルシステム、美しいグラフィック、豊富なやりこみ要素と、さまざまな魅力を持ち合わせているなかで、やはり目を引くのは、鳥山明氏が生み出した個性豊かなキャラクターたちの存在だ。こうした存在がもう二度と新しく生みだされないことを思うと、感傷的な気持ちにもなってしまう。大きな喪失感を抱えているファンにとって、『SAND LAND』は特別な意味を持つゲームタイトルとなっていくのかもしれない。
公表されると同時に、世界中を駆け巡った偉大すぎる漫画家の訃報。『ドラゴンボール』や「ドラゴンクエスト」シリーズに育てられた1人として、謹んで哀悼の意を表すとともに、鳥山明氏のご冥福を心よりお祈りしたい。
©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND製作委員会
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