Z世代のリアルレビュー

TikTokでZ世代の“プレゼン”動画が流行する理由 1人語りが当たり前になった世代の新たな価値観とは

 日々エンタメ×テクノロジーについて発信するリアルサウンドテック編集部。腕利きの執筆陣による読み物も好評ですが、一方で若年層の読者も多い媒体として、参考にしているのは現役大学生たちの声。連載「Z世代のリアルレビュー」では、編集部にインターンスタッフとして勤務する現役大学生ライターの視点から、毎週さまざまなトピックをお届け。第13週はQoo10のメガ割でコスメを爆買いし、ルンルン気分の星野がお送りします。

 “プレゼンテーション”という言葉から何をイメージするでしょうか。おそらく多くの人が、会社や学校といった堅苦しいものをイメージするでしょう。しかし、驚くことにTikTokにはユニークなテーマのプレゼンテーション(以下プレゼン)が数多く存在しています。例えば、“推し”の魅力や自分のデート事情について、しかもわざわざスライドまで作成するという力の入れようです。なかでも、自分が誰とどのようなデートをしたかをプレゼンする「#datingwrapped2023」(2023年デートまとめ)は大流行し、同ハッシュタグが付いた動画の総再生回数は147.7M (1億4700万)回にのぼります。

 このハッシュタグの流行から、SNSを通して全く知らない人の恋愛事情や好きなアイドルの話を聞くことは、Z世代にとっては当たり前であることが分かります。本記事では、なぜZ世代を中心に利用されているプラットフォームであるTikTokで、”プレゼン”が流行するのかについて掘り下げてみようと思います。

【TikTokに投稿された“プレゼン”動画の具体例】

■相手の国籍や出会った場所など、2023年のデート事情を赤裸々に語る「#datingwrapped2023」

@lilysunderland Katy’s Dating Wrapped 2023 #datingwrapped2023 #dating #datingwrapped #2023datingwrapped @Katy 😜😜😜😜😜😜 ♬ original sound - Lily

■推しプレゼン大会

■親に二重整形を認めてほしいJKによるプレゼン

 1つ目の動画では、投稿者の女性が2023年に51人とデートをしたことを発表しています。プレゼンでは出会ったツールやデートをした場所にくわえ、デートした相手に購入してもらったものや金額まで明らかにしています。そして最終的に、この女性は$1250節約したと述べています。

 2つ目の動画は、推しのアイドルを友達に布教するためのプレゼンです。「尊い」ボタンを連打し、緑のペンライトを振り回しながら、熱量高く推しについて語る姿が印象的です。自作のグループメンバー相関図を用いるなど、プレゼン資料にも強いこだわりが感じられます。

 3つ目の動画は、二重になりたい女子高生による「父が娘に整形を許可した方がいい理由」のプレゼンです。現在、二重になるために使用している二重のりやテープにはお金・時間がかかり、非効率的であることを定量的に説明していて、かなり説得力があります。

 このように、”プレゼン”のテーマは非常に多様です。また、コメント欄では「ほんとに面白いwww」「プレゼンが凄い笑。」といった肯定的なコメントが多くみられました。筆者はTikTokで”プレゼン”コンテンツが人気を集める理由として、以下の3つがあると考えています。

①娯楽的な要素の強いテーマと真面目なプレゼンのギャップが面白いから

 冒頭でも述べたように、従来”プレゼン”そのものについては堅苦しいイメージを持たれることが多いでしょう。だからこそ、例で挙げたようなアイドルや恋愛などのプライベートで娯楽的な要素の強いテーマとのギャップが面白く感じられるのではないでしょうか。「真面目な顔で面白いことをやる」というシュールさがZ世代に刺さっているのかもしれません。

②個人の経験談や考えがコンテンツとして成立するようになったから

 ここ数年、1人語りするYouTuberが多く見られるようになりました。ご飯を食べたり、お酒を飲んだりしながら、最近あったことを喋るだけの動画が50万回再生を超えているということもザラです。個人的に、1人語りのコンテンツがこれほど人気を集めるようになったのはここ最近になってからだと感じます。YouTuberという職業が世間に認知され始めた頃、少なくとも筆者にとってのYouTuberは「メントスコーラをする陽気な人」でした。しかし、YouTubeというプラットフォームそのものが幅広い年齢層・タイプの人が視聴する超メジャーなものへと移行したことで、YouTuberも様々な動画のスタイルを確立し始めました。1人語りはそのスタイルの中の一つであり、スタイルが確立されたことで、それまで動画になるほどの価値を持っていなかった「個人の経験や考え」がコンテンツとして成立するようになったといえます。

 TikTokでの”プレゼン”の流行は、YouTubeにおけるこの流れを汲んでいるように感じます。すなわち、TikTokで恋愛観やアイドルの好きなところなど「個人の経験や考え」を表現した”プレゼン”が人気になったのは、YouTubeにおける「1人語りスタイル」の確立と強く結びついているといえます。

③視聴者の存在を意識しなくていいというプラットフォーム由来の気軽さ

 ②でYouTubeにおける1人語りスタイルの確立が、TikTokにおけるプレゼンコンテンツの人気につながっていると述べました。では、YouTubeとTikTokの違いは何でしょうか?筆者は、その違いを「視聴者の存在をどれほど意識しているか」だと考えています。YouTubeでは、個人的な経験や好きなものを語る動画においても、常に視聴者に対して語りかけるというスタンスで喋ることが多いです。その証拠に、1人語りスタイルの動画のコメント欄では「友達と喋っているみたい」というコメントが多く見られます。一方、TikTokでは視聴者に語りかけているのではなく、あくまで喋っている私を見せているという側面が強いように感じられます。視聴者はあくまで第三者的な視点です。

YouTubeでは配信者が視聴者に対して語りかけているのに対し、TikTokではそれほど視聴者を意識していないように感じられる。

 この違いは、YouTubeとTikTokという2つのプラットフォームの特色に起因しているのかもしれません。前者のYouTubeは参入しやすくなったとはいえ、依然としてチャンネルを開設し、編集・投稿するというハードルがあります。しかし、後者のTikTokはアプリを開けばすぐに動画を撮影・編集・投稿することができるため、気軽に動画をアップできるのです。

 2つのプラットフォームの違いを踏まえれば、YouTubeの方が視聴者を意識する必要があるコンテンツであることは明白です。だからこそ、YouTuberたちは日々企画に頭を悩ませ、編集に励んでいるのです。一方で、TikTokはただ「流行っているから撮ってみた」という人も多く、再生回数や視聴者の反応をそれほど気にする必要がありません。そのため、「喋っている私を見せる」だけの動画が成立しうるのでしょう。

最後に

 本記事ではTikTokにおける”プレゼン”が人気を集める理由について考察しました。まずYouTubeでの「1人語りスタイル」の確立によって、個人の経験談や考えをただ語るコンテンツの需要が明らかになりました。そして、動画アップロードのハードルが限りなく低いTikTokというプラットフォームが登場し、「喋っている私を見せる」だけの動画が成立するようになったことから、プレゼンが人気を集めたのではないかと推測します。

 個人的なことが全てコンテンツとなりうる今の時代は「特別な能力や目に見える才能が無くてもSNSでスターになれる時代」といえるかもしれません。しかし、同時に「自分の経験や考えを面白く語れる”トーク力”がある人しか生き残れない時代」でもあり、SNS上で人気になることがますます難しくなっているような気がするのです。

参考記事:「TikTokにユーザーが集まるのは「投稿する動画内容を考えなくてもいいから」」(週間アスキー)
https://weekly.ascii.jp/elem/000/001/721/1721981/

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