ゲーム復刻にVR・AI活用の新技術も 誕生25周年の遊戯王カードゲームが愛され続ける理由
遊戯王カードゲームの誕生25周年を記念したイベント『遊戯王デュエルモンスターズ 決闘者伝説 QUARTER CENTURY(ザ レジェンド オブ デュエリスト クォーターセンチュリー)』(以下、『遊戯王DM 決闘者伝説』)が、2024年2月3日、2月4日の日程で開催された。
同ゲームはなぜ、誕生から25年という長い時間が経過してもなお愛され続けるモンスターコンテンツとなり得たのか。その秘密に迫る。
さまざまな新展開が発表されたアニバーサリーイベント『遊戯王DM 決闘者伝説』
遊戯王カードゲームは、週刊少年ジャンプにて連載された少年漫画『遊戯王』から派生したトレーディングカードゲームだ。プレイヤーはモンスター、魔法、罠の3種類のカードでデッキを構築。局面に応じて攻防を繰り返しながら、対戦相手のLP(ライフポイント)をゼロにすることを目指していく。
同ゲームからは、第1弾として「Vol.1」が発売された1999年2月以降、これまでの間に、オリジナルだけでも100を超えるブースターパックが展開されている。2011年6月時点での世界累計販売枚数は251億7,000万枚。この数字は「世界で最も販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネス認定(当時)もされた。2024年2月現在の最新パックは『LEGACY OF DESTRUCTION』。3か月に一度、環境を見直す目的で行われるリミットレギュレーションの改訂も、界隈では話題を集めることが多い。
今回開催となった『遊戯王DM 決闘者伝説』では、25周年のアニバーサリーにあわせ、さまざまな新展開が発表された。なかでも一際大きな注目を集めたのが、2000年代にゲームボーイカラー/ゲームボーイアドバンスで発売された作品『遊戯王デュエルモンスターズ4 最強決闘者戦記』『遊戯王デュエルモンスターズ6 エキスパート2』をひとつのパッケージに収めたコレクションタイトル『遊戯王 アーリーデイズコレクション』の発表と、2016年にAndroid/iOSでサービス開始となったモバイルゲーム『遊戯王 デュエルリンクス』(以下、『デュエルリンクス』)でのVRによるデモンストレーション、2022年に各種プラットフォームにて展開され、“デジタル完全版”との声も大きい『遊戯王 マスターデュエル』(以下、『マスターデュエル』)におけるAIプロジェクトの発足・お披露目だ。
特にVR・AIの活用は、今後一定の成果が見込めれば、『デュエルリンクス』『マスターデュエル』に代表される派生デジタル作品に実装されていく可能性もある。遊戯王カードゲームの次なる一手を感じられる、興味深い発信となった。視点を変えれば、こうした取り組みは、アナログ/デジタルの特性をより際立たせるものでもある。双方でコンテンツを展開する同ゲームだからこそ、それぞれの領域の違いを浮き彫りにすることで、ファンに新たな魅力を感じてもらおうとしているのではないか。満を持して発表された新展開の数々が、多くのファンの胸を熱くさせた。
遊戯王カードゲームが長く支持され続ける3つの理由
なぜ遊戯王カードゲームは、誕生から25年という長い時間が経過してもなお、変わらず愛され続けるのか。そこには3つの秘密があると考える。
1つめは「緻密な戦略性」だ。TCGは頭脳を使う類のゲームジャンルである。だからこそ、同分野に足を踏み入れるフリークたちは、その部分での勝負、自身の優位性の誇示を求めているはずだ。しかしながら、ジャンル全体を見渡すと、プレイヤーの思考力をあまり求めないようなゲームも数多く存在している。たとえば、デッキの構築に自由度がないもの、攻防に駆け引きが生まれないもの、1枚のカードパワーによって勝負が決しやすいものなどだ。コアなTCGファンほど、それらの性質に対する目は厳しく、「『戦略性』を持ち合わせていないタイトル/シリーズに同分野の面白さはない」と考えていることが少なくない。この点はTCGにとって、最も大切な要素のひとつだと言えるだろう。
遊戯王カードゲームには、1万枚を超えるカードプールがある。それらの大半に大なり小なり盤面に影響する効果が与えられており、さらに相互に結びつくことで、より大きな影響力が付与される。プレイヤーが頭脳を使うのは、こうしたゲーム性に裏付けられたデッキ構築の部分だ。勝利を目指すうえで、どのようなカード/効果をデッキの軸として選定するの か。この点を深く思考していくことこそが、同ゲームの面白さの根幹であるとも言える。
また、一部では「遊戯王カードゲームには、カードの数だけ戦略がある」とも言われている。つまり、1枚のカードだけが勝負を左右してしまうことが他に比べて少ないのだ。無論、競技シーンでは、一部の強力なカードの力に頼らざるを得ないケースも存在する。しかし、いちプレイヤーとして楽しむ分には、そのような縛りに自由を妨げられることがない。あまりにも可能性のないカード/効果に目をつけないかぎり、どのようなデッキでも勝利を目指すことができる。この点もまた、遊戯王カードゲームの持つ「緻密な戦略性」の賜物だろう。こうした自由度の高さから、同ゲームにおけるデッキの構築は、“ある種の自己表現”と捉えられる向きもある。自身のデッキにオリジナリティを盛り込みつつ、同時に勝利も目指せることが、遊戯王カードゲームの体現する最大の魅力と言えるかもしれない。
2つめは「覇権シリーズならではの規模の大きさ」だ。先にも述べたとおり、遊戯王OCG/TCGは「世界で最も販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネスに認定されている。当時から少し時間は経過しているが、同ゲームは現在も、そのような肩書が伊達ではないと感じさせるほどのプレイヤー人口を有している。オフライン/オンラインを問わず、場にはプレイに困らないだけの対戦相手がいる。
重要なのは、それぞれに遊び方が異なっている点。「とにかく勝ちにこだわりたい」「(強さだけにこだわったわけではない)愛用のデッキで、環境を支配しているガチデッキを倒したい」「自分が好きなカードを軸にしてデッキを構築し、ゲームを楽しみたい」など、多種多様な志向を持つプレイヤーが対戦相手として存在するため、自身の遊び方を環境に強いられるケースが少ない。だからこそ前項のような自由なデッキ構築でも、楽しさ・面白さを味わえる。もしそこに多様性がなく、いつも最強格のデッキにボコボコにされるような環境だったとしたら。遊戯王カードゲームはこれほど多くのプレイヤーが定着するコンテンツとはなり得なかったはずだ。
このことが巡りめぐって、前項のカードプールの多さにもつながっている面がある。多くのプレイヤーに長く支持されているからこそ、表現できる世界がそこにあるのではないだろうか。
3つめは「新鮮さの維持」だ。遊戯王カードゲームでは、先述のリミットレギュレーションの改訂や、新規パックの発売など、定期的に既存の環境にテコ入れが行われており、プレイヤーがマンネリを感じることがない。特に後者では、長い間、日の目を浴びていなかったデッキテーマと相性の良いカードが収録される場合も多く、そのことが往年のトレンドデッキの掘り起こしにもつながっている。
長く同ゲームに触れてきたプレイヤーに至っては、公式が意図していない新たな可能性を新録のカードに見出し、本来とは別の用途でデッキパーツに組み込むようなケースもある。そのようにして開発されたテーマが環境のトップに登り詰める例も少なからず存在している。
遊戯王カードゲームが長く愛され続ける理由は、「緻密な戦略性」「覇権シリーズならではの規模の大きさ」「新鮮さの維持」といった要素が、相互に影響しあっている結果と言えるのではないか。同ゲームが歩んできた25年の道のりのなかには、融合デッキゾーンからエクストラデッキゾーンへの名称変更と活用の広がり、シンクロ/エクシーズ召喚や、ペンデュラム召喚の登場、新たなモンスター分類であるリンクモンスターの実装など、大きな転換点が何度もあった。場合によっては確立した地位を追われる可能性もあったなかで、引き続き支持を獲得し続けている背景には、運営に対する公式の血のにじむような尽力があったに違いない。
国産TCGの草分け的存在として、誕生から25年が経った現在もなお、トップランナーに君臨する遊戯王カードゲーム。『遊戯王DM 決闘者伝説』からは、「次の25年もファンを熱狂させ続ける」という同ゲームの野望、意志のようなものが感じられた。
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