著作権違反の境界線とは? 『パルワールド』の“パクり”論争を過去の事例から考える
1月19日、『パルワールド』のアーリーアクセスがスタートした。
ポケモンに似た不思議な生物が登場することで話題を集める同タイトル。リリース直後から快進撃の一方で、著作権に関する線引きも世間を大きく賑わせている。
『パルワールド』は「パクりゲーム」なのか。過去の事例から、著作権違反の境界線を考えていく。
リリースからロケットスタートを記録している『パルワールド』
『パルワールド』は、『クラフトピア』などのタイトルで知られるゲーム企業・ポケットペアが開発・発売を手掛けるオープンワールド・サバイバルクラフトゲームだ。プレイヤーは、ゲーム内に100種類以上登場する不思議な生物「パル」とともに、過酷な環境で生き残るための手段を模索していく。
特徴的なのは、「オープンワールド」「サバイバル」「クラフト」「モンスターの収集・育成」といった要素を複合的に盛り込んでいる点。そのような性質から「ポケットモンスター」(以下、「ポケモン」)シリーズや、「ARK」シリーズ、『ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド』『Minecraft』といった人気作品と比較されることが多く、なかには「パクりゲーム」といった過激な論調も存在する。
しかしながら、そうした風評に反し、『パルワールド』はリリース直後からロケットスタートを記録。本稿を執筆している2024年1月25日時点で、売上本数は700万本を、ピークタイムにおけるSteam同時接続者数は200万人を突破した。
価格は3,400円(税込)。対応プラットフォームは、PC(Steam)、Xbox Series X|S、Xbox Oneとなっており、PC/XboxともにGAME PASSでも配信されている。
成功例の“フォロワー”が築いてきたゲームカルチャーの歴史
はたして『パルワールド』は“パクり”と断罪されなければならないタイトルなのだろうか。ルールに反しているとする声の多くは、登場するパルのデザインがポケモンに酷似していることをやり玉に挙げ、同タイトルへの批判を強めている現状がある。たしかに一部には、ポケモンを意識していることを露骨に感じさせるようなパルが存在している。しかしながら、そのような事実をもってしても、『パルワールド』が“パクり”(≒権利侵害)であるかについては、微妙なラインだと言わざるを得ない。なぜなら、ゲームカルチャーの歴史はそもそも、成功例のフォロワーによって築き上げられてきたと言っても過言ではないからだ。
今回『パルワールド』の比較対象となっている「ポケモン」シリーズもまた、当初は「女神転生」シリーズ、『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』に含まれるシステムの一部をモチーフとしたフォロワー作品と言われていた。もちろん両作もそれ以前に発売されたなんらかに影響され、そのようなシステムを思いついたのだろう。後者の属する「ドラゴンクエスト」シリーズからは、言わば逆輸入的に「ポケモン」を模倣した「ドラゴンクエストモンスターズ」シリーズも誕生している。ゲームカルチャーは、制作・開発がこのようにして互いに影響しあい、発展してきた文化なのだ。
だからこそ、いくら流用とみなせるものであったとしても、ある程度は許容していかなければならない、許容していくべきであるとするのが、いわゆる大人の事情というやつだろう。この「ある程度」のラインをどこに設定するかが、“白黒”をわけるポイントとなっていくはずだ。
一方で、「システムではなく、キャラクターデザインが酷似している」という点が問題を複雑化させている実態もある。先に紹介した例はどれも、システムこそ似ているが、キャラクターデザインに関してはオリジナルのものでまかなっていた。この点こそが、『パルワールド』に過剰な批判が集まっている理由とも言える。
とはいえ、この点に関しても、はっきりと“黒”であるとは言い切れない。その点についてもまた、ゲームカルチャーをめぐる歴史が証明している。
最も有名なのは、2001年にPlayStationで発売されたシミュレーションRPG『ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記』(以下、『ティアリングサーガ』)に関連する裁判だ。同分野の金字塔「ファイアーエムブレム」に酷似する世界観、ゲーム性、キャラクターデザインなどを持つ本作には、その初期作品においてディレクターを務め、その後、開発元のインテリジェントシステムズを退社した加賀昭三氏と、『ファイアーエムブレム トラキア776』でキャラクターデザインを務めた広田麻由美氏が携わっていた。そのような事情から、開発・発売を担ったティルナノーグ、エンターブレインは、「ファイアーエムブレム」シリーズの発売元である任天堂から訴訟を起こされた経緯を持つ。不当競争防止法違反(制作に関連するノウハウの持ち出し)と、著作権侵害(著作物の盗用)の是非が争点となった。
結果は、不当競争防止法違反に関して任天堂側の請求が一部認められた一方で、著作権侵害については全面的に棄却。つまり、どれだけ似通った世界観、ゲーム性、キャラクターデザインなどを持ち合わせていたとしても、著作権の侵害には問われなかったというわけだ。『パルワールド』と「ポケモン」シリーズをめぐる問題にも、この判例が活きてくる。いくらファンに受け入れがたい内容であったとしても、ルール上はなんら問題がないというのが、少なくとも現状においての、過去の判例に基づいた“結論”なのではないか。
無論、「ポケモン」というコンテンツをなかば流用した挙げ句、本来は平和的、牧歌的な世界のなかにある彼らの生態を生々しく描写することに「先人へのリスペクト」「品位」「モラル」があるかと問われれば、決して頷けるようなものではない。そこに抵抗を感じるファンの気持ちも大いに理解できる。
しかしながら、その“白黒”を決めるのがユーザーではないことも忘れてはならない。「権利元の株式会社ポケモンが問題として取り上げるかを考え、最終的には司法が明確な線引きを決める」。それが世の中の“ルール”であるからだ。
関係者に対して行き過ぎた誹謗中傷が届いていることも、一部に報じられている。こうした行動は“グレー”ではなく、紛れもない“黒”だ。「ポケモン」がその作品を通してフリークに伝えてきたことは、そのような過激な行動によって自分の信じるものを守ることだっただろうか。
ゲームとは本来、プレイヤーの幸せのために生み出される創作物である。“パクり問題”を取り巻く左派・右派には、冷静な態度での議論を期待したい。
© Pocketpair, Inc.
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