登録者300万人を達成した宝鐘マリン 偉大な船長の“船旅”から紐解く、多彩な魅力と個性

宝鐘マリンの“船旅”から魅力と個性を紐解く

音楽活動で多様なリスナー/ファン層を獲得

 配信や動画など、日々コンテンツを生み出すことでファンの心をつかんでいる宝鐘マリン。ここに加わるのが、彼女の音楽活動だ。

 そもそも彼女自身、「歌枠が配信活動のなかで一番好き」と話すことがあり、なんでもない雑談の最中にハミングしていることもあるほどの音楽好きだ。

 そのなかで特に彼女が好んでいるのがアニソン・昭和歌謡といったジャンルであり、年代・時代で言えば1980年代前後から平成中期にかけての楽曲を歌うことが多く、しかもアニソンに偏っているのが彼女らしい。「最近の曲はあまり(くわしくない)……」と話すことがあるが、人気を集めるアニメ・ボカロ曲であれば歌枠内で披露することもある。

【歌ってみた】選曲がお母さんっぽいマリン船長【ホロライブ/宝鐘マリン】

 自身のオリジナル楽曲としては、「Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆」を2020年8月にリリースして以来、これまでに5曲をリリースしている。これらの楽曲はホロライブのファンが世界的に増加・認知されていくにつれ、国境を超えたヒット曲になりやすくなっている。

 その要因は、楽曲の魅力はもちろんミュージックビデオや動画のクオリティにあると筆者は考えている。YouTubeに投稿される彼女のMVは、自費でアニメ制作会社に依頼し、宝鐘マリンをよく知るアニメーターらが絵コンテ・作画をすべて担当、リッチなアニメーションを作り上げている。

 InstagramやTikTokではそのアニメーションを使った動画のみならず、MV中のダンスを真似た動画や歌唱動画、音源を利用した全く別のネットミームに派生し、彼女の存在を一気に広めていくことに繋がっている。

宝鐘マリン、「美少女無罪♡パイレーツ」が約39日で1000万回再生達成 ピーナッツくんの記録を破りVTuber歴代最速を更新

ホロライブ所属VTuber・宝鐘マリンの「美少女無罪♡パイレーツ」MVが、VTuber歴代最速で1000万回再生を突破した。 …

 つい先日、筆者はしぐれういについて記したコラムのなかで「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」のヒットとその要因について分析したが、同楽曲の約2ヶ月ほど前に宝鐘マリンは「美少女無罪♡パイレーツ」をリリースしており、この曲が約39日で1000万再生を達成、記録的な広がりをみせていたことを忘れてはいけない。

 YouTube、Spotify、Apple Musicなど主要なストリーミングサービスの音楽チャートでも軒並み上位にランクインすることになったこの2曲。もっともインパクトを残したのは「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」だと感じているが、「美少女無罪♡パイレーツ」も相応に印象深く広まった一曲だ。もしも「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」の存在がなければ、一年を代表する楽曲として挙げられていたであろう。

マリン船長の圧がすごいLIVE【ホロライブ/宝鐘マリン】#shorts

 あらためて彼女の音楽ひとつひとつを見ていくと、自身の経験・バックグラウンドや配信で伝えてきたキャラクター性に根ざし、拡張するようなものばかりだということに気が付く。

 アニメや声優のファンであり「サクラ大戦」シリーズのオタクを自負しているところから、関連楽曲の作曲を担当していた御大・田中公平によって手掛けられた「マリン出航!!」や、自身のデビュー曲「Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆」などは、ロックサウンドをうまく引用していた90年代アニソン感が非常に強く打ち出されている。

 対してYunomiによる「Unison」ではかなり実験的かつ攻めたトラックメイキングと歌唱が封じ込められ、ナナホシ管弦楽団による「美少女無罪♡パイレーツ」は昭和歌謡・アニソン・ボカロと様々なジャンルのフレージングを散りばめたポップスへと仕上がっている。

 自身のバイオグラフィやバックボーンを音楽活動でうまく表現するという方向性は、2023年に発表した歌ってみた動画やコラボ楽曲からも伺い知れる。

 Gawr Guraとのコラボ曲「SHINKIRO」では海外から支持される80’sシティポップらしさにあふれた楽曲となっており、MV動画においてもキャラクターデザイン・塗りの手法に80年代のアニメ作品へのリスペクトを強く感じられる。さらには画面比率(アスペクト比)が4:3と当時の比率に調整されており、随所に彼女の嗜好が反映されている。

【original anime MV】SHINKIRO【hololive/宝鐘マリン・Gawr Gura】

 さらに、彼女が2023年に投稿した歌ってみた動画の選曲も「オトナブルー」「め組のひと」「真夜中のドア ~stay with me 」と、時代やシーンを飛び越え“昭和感”を漂わせる3曲をピックしている。ここまでくると、自身が好きな楽曲という判断基準ではなく、自身のキャラクター/イメージに符合していたり、海外でのヒットや認知までも見込んだ選曲なのではないかとすら考えられる。

 つまり、それまでに配信のなかでリスナーに植え付け自身が振る舞ってきたイメージを、近年ではショート動画や音楽MVを中心にした動画のなかで表現し、よりオープンかつ多くの人達へと届けようとトライしている最中にあるのではないだろうか。

 自身のイメージを音楽を通じて表現するといえば、やはり自身のデビューを記念したライブである。それも80年代を席巻した音楽番組に似せたステージセット、歌唱する楽曲のチョイス、画面演出として全体的にブラウン管テレビのような滲んだ彩色となっており、ところどころに現れるテロップや表示すらも80年代風なフォントに……。

 タイトルにある「歌謡祭」とあるように、さまざまなところで80年代(昭和感)を強く押し出した内容になっている。もちろんこれらの演出は、本人の意向が反映されているのはいうまでもない。先にも書いたが、こうしたユニークな企画は彼女ならではのもの。この配信が非常に多くの視聴者を集められたのも納得である。

 じつは彼女のYouTubeチャンネルをよく見てみると、ほとんどのホロライブメンバーがチェックマークの公式認証をもらっているなか、彼女は音符マークの公式認証をもらっていることに気が付くだろう。これは「YouTube公式アーティストチャンネル」としての認証であり、YouTube上での音楽プロモーションにより力を注ぐことができるようになっている。

 さらに、彼女はインターネットだけでなく、テレビの世界にも音楽を武器に進出している。2023年12月に放映された『2023 FNS歌謡祭』に、VTuberとして初めて出演・歌唱を披露したのだ。テレビ番組にVTuberが出演すること自体は増えているものの、音楽番組というとあまり例を見ない。

 総合的にみると、楽曲リリースや動画投稿というマルチなアプローチによって、ライブ配信が他のタレントらより少ない状況でも、チャンネル登録者数の増加傾向を保つことができたのだ。そして増加ペースは以前から変わりなくとも、他のホロライブメンバーやVTuber~バーチャルタレントとは趣が異なった、マルチな活動を証明するような色とりどりのファンやリスナーが、いまの彼女の元には集まっているといえよう。

 配信・動画のどちらにも手を付け、さまざまな形でコンテンツを生み出してきた宝鐘マリン。かつてバーチャルタレントシーンでは配信勢/動画勢などといった呼び回しがあったが、2024年の今になってそのような言葉を使うことはあまり意味をなさないのかもしれない。さまざまなメソッドを駆使しながら、“宝鐘マリン”を表現し、広めていく姿を見ることができる。

 なにより、ここまでの壮大な動きを、セルフ・プロデュースのみで完遂するのは非常に難しい。ホロライブ運営を中心としたスタッフやクリエイターたちがバックアップをしているであろう宝鐘マリンの活動は、もはや「宝鐘マリン」という名のコンテンツ・プロジェクトであり、今年もさまざまな動きをみせるはずだ。

白上フブキ・宝鐘マリン・星川サラのトーク力に感嘆 『すこだワ』公開収録レポ

11月26日、府中の森芸術劇場にて『ホロライブpresents Vのすこんなオタ活なんだワ! ~150回記念! 公開録音スペシャ…

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