“寿司屋が海に潜るゲーム”が300万本超の大ヒット 『デイヴ・ザ・ダイバー』快進撃の理由は?

 ネクソンは1月4日、『デイヴ・ザ・ダイバー』の世界販売本数が300万本を突破したと明らかにした。

 一見すると、そこまで華がある作品には見えない同タイトル。ヒットの背景にはどのような理由があったのか。概要からその魅力に迫る。

昼は海洋探索、夜は寿司レストランの運営。ぽっちゃりおじさん・デイヴによるハイブリッド型ADV

デイヴ・ザ・ダイバー [Nintendo Direct 2023.9.14]

 『デイヴ・ザ・ダイバー』は、海と海産物をめぐるハイブリッド型の海洋探索アドベンチャーゲームだ。プレイヤーは寿司レストランを運営するおじさん「デイヴ」となり、営業のために必要な鮮魚を自ら海に潜り捕獲する。熱帯魚から巨大生物まで多種多様な生命が存在し、危険も隣り合わせの海の世界で、美味しい魚、珍しい魚を捕まえ、順風満帆な店舗運営を行っていくことが同タイトル最大の目的だ。営業で得た収入によってダイビングギアを改良すれば、より長い時間の潜水が可能となり、未知の領域に行くこともできる。深く暗い海「ブルーホール」を舞台に展開される個性的なキャラクターたちによる物語も、『デイヴ・ザ・ダイバー』の特長のひとつとなっている。

 『デイヴ・ザ・ダイバー』は2022年10月、Steamで早期アクセス版がリリースされて以降、独創的なシステムが世界中のフリークに受け、高い評価を獲得した。Steamのカスタマーレビューでは2024年1月現在、97%超のユーザーが好評とし、「圧倒的に好評」という最高のレビューランクに分類されている。その後は2023年6月にSteamにて正式リリース。同年10月にはNintendo Switchにも移植された。去る1月3日には、2023年のゲーム業界における優秀作品をユーザー投票によって決める『Steamアワード 2023』において、11部門のうちのひとつ「ゆったり座ってリラックス賞」も受賞している。

 価格は2,400円(税込)。直近では、おなじく海を舞台にした話題作『DREDGE』とのコラボレーションも話題を呼んだ。

『デイヴ・ザ・ダイバー』ヒットの理由は?

 なぜ『デイヴ・ザ・ダイバー』は多くのフリークに受け入れられ、300万本という大ヒットを記録できたのか。主人公はおじさん、ひとことでは言い表しづらいゲーム性、決して高精細とは言えないグラフィック、当初はPCのみに対応と、同タイトルはどちらかと言えば、ヒットとは逆の要素で構成された作品である。にもかかわらず、口コミで支持を広げ、2023年下半期を代表する一作となれた裏には、『デイヴ・ザ・ダイバー』が持つカジュアルゲームとしてのクオリティの高さの存在がある。

 その最たる例が「ひとことでは言い表しづらい」と形容した、“全部盛り”とも言えるゲーム性だ。「海中を捜索し、目当てのアイテムを手に入れる」という性質は、前項の紹介で用いた「海洋探索アドベンチャー」というジャンルに適合するものだが、『デイヴ・ザ・ダイバー』から受け取るプレイインプレッションを細かく見ていくと、その言葉だけでは語れない箇所が次から次に出てくる。たとえば、寿司レストランを運営するパートは、経営シミュレーションのジャンルに分類できるだろう。さらに同部を深掘りすると、ひとつひとつのタスクをちょっとした操作によって乗り越えていくアクションゲームとしての性質も見えてくる。タスクの種類によっては、パズルゲームと呼べるものもあるかもしれない。

 一方、『デイヴ・ザ・ダイバー』におけるもうひとつの主要部分、海洋探索アドベンチャーのパートには「入るたびに地形と生態が変わる」「手に入れた装備は、海から戻るとすべて壊れてしまう(新たな武器を作るためには、海で取れる素材を持ち帰り特定の工程を踏まえる必要がある)」という仕様も存在している。これらはローグライクのジャンルから拝借した設計だと言えるだろう。

 つまり、“ひとことでは言い表せない”ゲーム性を持つ『デイヴ・ザ・ダイバー』には、さまざまなジャンルのエッセンスがこれでもかというほど詰め込まれているのだ。そして、これらすべてを見事に調和させている点がこのうえない魅力であるとも言える。“全部盛り”でありながら、年齢・性別を問わず楽しめるシンプルさが同タイトルの快進撃を支えてきたのではないだろうか。

 無論、「海洋探索アドベンチャー」というロマンあふれる内容がフリークに刺さったこと、おつかいのようにクエストが次々発生する仕様がプレイに没入感を生んでいること、シナリオや演出、音楽といった基本要素もきっちり作り込まれていることなども、プレイヤーの満足度へとつながった。それでいて2,400円という低価格であったことも「面白そうだから試しに遊んでみよう」というユーザー心理に強くはたらいたに違いない。

 実際に手にとった人、ストリーマーによる実況・配信を観た人のなかには、「どうぶつの森」や『オーバークック』『マインクラフト』といった人気作品/シリーズからのコンテクストを感じた方もいたのではないだろうか。システム各部や個々のキャラクターの設定、バックグラウンド、エピソードには、現実やゲームカルチャーに対する風刺、メタファーなどもふんだんに盛り込まれている。そうした点もまた、『デイヴ・ザ・ダイバー』というゲームのクオリティの高さを象徴する大切な要素となっている。

 2024年1月現在、PC(Steam)とNintendo Switchで展開されている『デイヴ・ザ・ダイバー』だが、今後はPlayStation 5やXbox、Android/iOSへと移植される可能性もある。そうなれば、販売数はさらに伸びていくに違いない。懐の深いゲーム性を持つ同タイトルであるだけに、他作品とのコラボレーションやダウンロードコンテンツの追加などにも期待が集まる。

 どこにでもいそうなぽっちゃりおじさん・デイヴの快進撃はどこまで続くか。500万本という大台への到達も夢ではないかもしれない。

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