『最愛』などの劇伴を手がけた横山克が恋愛番組で体験した“新しい曲作り” ABEMA・横山祐果Pと語る

「脚本がないものに音楽をつける」という初めての体験

ーー今回、劇伴を作る上で特にこだわったポイントを教えてください。

横山克:スタッフさんたちとのお話のなかで、「ドラマのように見せたい」ということを言われまして。これまでの恋愛番組とは、まったくちがう見せ方をしたいということだったので、演出要素を入れた方がいいのかな? と思ったんですね。つまり、リアリティショーなんだけど、ちょっと演出が入っているように見えるような。そんな作用を音楽で及ぼせられたらいいなと考えました。

ーー横山Pは、どのようなリクエストを出されたのでしょうか?

横山P:「全体的には大人の恋愛で上質に仕上げていただき、恋愛と推理のシーンを行き来して、推理エンタメショーとしての盛り上がりも感じるような感じで仕上げてほしい」とお願いしました。横山さんは、すべての曲に共通するモチーフを入れてくださって。

横山克:まあ、とはいえ、リアリティショーだから、なにが起こるか分からないんですよね(笑)。脚本がないから。脚本がないものに音楽をつけるのって、もしかしたら初めてだったかもしれません。それがすごく新しい経験で、面白かったですね。

ーー結末が分からないまま、曲をつけていくのは難度が高いですよね。

横山克:そうですね。ただ、結局ストーリーが盛り上がるのって、心が動く瞬間というところに戻ったんです。映画でも、状況に対して音楽を作る事はなくもないですが、基本的には誰かの心の中を浮かび上がらせるような音楽の付け方をします。そんな原理に立ち戻ると、恋愛が動くとか、マネーキャッチャーがなにかを仕掛けるとか。音楽をかけるのは、そういう部分だろうなと。

ーー『LOVE CATCHER Japan』は、常に視聴者をハラハラさせるような演出が印象的です。

横山P:本人たちの感情はリアルですけど、揺さぶられるようなルールがいっぱいあるんですよね。そういう後押しがあるからこそ生まれるドラマもあるし、思っていた筋を大幅にそれて違う方向にいくこともある。

横山克:そこに目掛けていく、という形で楽曲を作りました。

横山P:メインテーマも、バージョンが4つもありますもんね。いろいろなところで使えるように、と。番組のことを親身になって考えてくださって、ありがたかったです。

心がけたのは“サウンドバーで聴いても劣らない”音作り

ーーメインテーマは、弦とピアノを主体としていますが、オーケストラサウンドではなくドラムキットの音も入れているという構成が面白かったです。

横山克:これは、『最愛』のときに気づいたことなのですが、スリリングなものに、ドラムのオルタナティブな感じって実は合うんだな、と。今回は、マネーキャッチャーの“仕掛ける”という点に目をつけたんです。ドラムキットの追い込まれていく感じが、戦いっぽくていいなって。

ーー横山さんの劇伴は、ジャンルや楽器をそれぞれのバックグラウンドに合うものを使用されていることが多いですよね。『LOVE CATCHER Japan』の舞台はマレーシアということで、意識して使われた楽器などはありましたか?

横山克:たしかに、それはなにか使えばよかったな(笑)。今回はないんですけど、たしかにこれまではやってきましたね。そもそも、なんで舞台はマレーシアになったんですか?

横山P:非日常を大切にしたかったんです。南国の陽気な雰囲気のなかで、開放的な気分でゲームに没頭してもらえたらと思って。

ーーたしかに、マネーキャッチャーの人数が発表されるまでは、みなさん浮き足立ってましたもんね。

横山克:マネーキャッチャーの人数が発表されてからの雰囲気の変わりようがすごかったですよね。「やっぱ、いるんだわ……」という感じで。

ーー横山Pは、劇伴がつく前の素材もご覧になられたのですよね。やはり、違いはありましたか?

横山P:もう、全然違いました。わたしは、特に秘密の部屋のところが好きです。秘密の部屋って、いろんなことを一人きりになって考える場所でもあるので、普段とは違う表情が見られるんですね。そこに向かうときの怪しい雰囲気とかが、横山さんの楽曲で彩られていて、グッときました。

ーー秘密の部屋のシーンで流れる楽曲は、どのようなイメージで作られたのでしょうか。

横山克:あれは、後を引く感じにしたかったんです。引き込む感じで、より高貴なものに見えるように。これは音楽の特権だと思うんですけど、錯覚させられるんですよね。催眠術みたいな感じで。その作用が出たらいいなというのを思いながら作りました。

ーー音にこだわった部分もあったのでしょうか。

横山克:この番組はスマホで観る人が多いと思うんですね。ところで最近のテレビって十分高音質だと思っているんです。広いレンジ、しっかり出るじゃないですか。なので、もちろんスマホでも楽しめるけれど、サウンドバーで聴いても劣らない音作りは心がけています。あとは、スマホであればAirPodsとかも多いですよね。それこそ、しっかりいい音だと思いますし、そういった意味での遠慮はなく、広いレンジを使った音楽を作っています。

関連記事