AIタレントが芸能界に及ぼす影響とは? AI×広告の仕掛け人が語る“広告の未来”

AIタレントの活用で進むのは、生身のタレント間の“格差”かもしれない

ーーAIタレントの領域も進化が著しいですよね。本物の人のように話したり演技をしたりするようになると、“生身のタレントはそもそも必要なのだろうか”という議論も出てくるかと思います。二宮さんはどのように考えていますか?

二宮:たしかにAIタレントは何でもできますが、生身の人間が持っている人間性や特徴があるからこそ、デジタルツインに生きると思うんです。AIでゼロから生み出したら、かわいい、かっこいい人は作れますが、なんの文脈もないじゃないですか。技術的には簡単にアイドルが作れたとしても、リアルの芸能人やタレントの仕事を奪うかというと、そうはならないと考えています。人間性や経験値を持ったタレントさんは残っていくと思いますし、反対に言うと、それがないと代替されてしまう可能性があるので、生身のタレントさんの間でも格差が生まれるかもしれませんね。

ーーなるほど。ではAIタレントを活用するにあたって、広告会社としてのメリットはどんなところですか?

二宮:我々制作サイドや代理店側のメリットでいえば、いくらでも撮り直しができること。広告効果の最大化を目指すとなれば、できるだけ多くのポーズやセリフを試す必要があります。しかしリアルなタレントさんの撮影現場では、時間の拘束があるのでなかなか難しく、その縛りが一切なくなるのはすごく大きなメリットです。

ーーでは広告会社を利用するクライアントの視点ですといかがでしょう?

二宮:クライアントサイドとしては、コスト的なメリットはあるでしょうね。実際に人が稼働する必要がなく、デジタル上でクリエイティブが作れますから。そして生成AIのタレントにはスキャンダルのリスクがないのもポイントだと思います。

ーー続いて、AIタレントのデメリットはありますか?

二宮:デメリット、どうでしょう。気になることとしては、広告が届けられる側、つまりユーザーがどういう気持ちになるのか、というところですね。いまだとまだAIらしきクリエイティブを見たときに、“これはAIだな”と認識できますが、そのうち判別がつかないくらいまで質が向上し、AIで生成された存在しないタレントたちがどんどん表示されるようになる。しかもユーザー1人1人に最適化されるため、自分が好きなものだけ見られるわけです。そうやってリアルかAIかわからないものが当たり前に世にあふれている状態になったときに、受け手がどんな気持ちになるのか、つねに思考していないといけないと思っています。

 僕自身、AIアイドルの写真集などを見てると不思議な感覚になるんです。綺麗だな、かわいいなと思う一方で、この人は実際には存在しないんだよな、と思うわけです。この感情はこれからどこへ向かっていくんでしょうね。デジタルツイン化されて人格を持つとしたら、ほぼ人間と変わらないので受け入れられていくのか、それとも虚しい気持ちになるのか。この分野の面白いところですね。SF映画の世界がすぐそこまで来ていると感じます。

生成AIは相棒か敵か 2024年はクリエイターのスタンスに注目

ーー最近では大手企業による生成AIの活用事例が多く見られるようになりましたが、これは一過性のムーブメントなのか、それとも今後定着していくか、二宮さんはどう考えていますか?

二宮:後者だと考えています。いまはまだAIの活用そのものに驚きがありますが、1〜2年後には物珍しさもなくなって、当たり前に浸透していると思います。その中で重要なのが“企画性”ではないでしょうか。いまは技術への関心が高いですが、次のフェーズでは、AIをつかってどうおもしろいクリエイティブに昇華していくかがポイントですね。

ーー2024年以降で注目のトピックはありますか?

二宮:クリエイターたちの動向は気になりますね。AIを相棒として味方につけるのか、抗って敵と見なしてしまうのか。来年はそこがよりはっきりわかれる年になるのではないでしょうか。アメリカでは生成AIの開発に人的・金銭的リソースがどんどん投入されているので、取り入れるか抗うかにかかわらず、嫌でも進化してしまいます。それをいち早く相棒につけられるクリエイターが注目を浴びるようになると思います。

ーー相棒以上のものになる可能性はあると思いますか?

二宮:技術的には、5〜10年後には、人がいなくても広告が作れるようになっていると思います。AIがどこまで学習能力を高められるかがポイントですね。広告はトレンドや時代的な文脈、文化背景を取り入れて制作するのですが、そこまでAIが学んでクリエイティブが作れるようになったら、我々は失業です(笑)。そうなったら、人間は他の生産的な活動に移るんでしょうね。

 ただその時がいつ来るかを予測するのは、なかなか難しいです。マイクロソフトやGoogleといったビッグテックが、莫大な投資をして次々に新しいものをリリースするので、先読みしづらくて。いまできることは、最新の動向を追って、実際に触れて、小さくても実戦導入をして、進化に着いていくことだと思っています。 

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