トレンド逆行の“小規模制作”から生まれた名作たち ADVジャンルが躍進した2023年のゲーム界

ジャンルを代表するブランドに牽引され、2024年以降もADV/ノベルの台頭は続くと予測

 ゲーム業界ではここ数年、技術的進歩に支えられたジャンルの台頭が目立っている。アクションRPGやFPS/TPSシューター、オープンワールド、多人数マルチなどはその一例だ。2020年には、PlayStation 5やXbox Series X/Sといった次世代機が各社からローンチされた。近年では、高性能ゲームハードとしてのPCの需要も高まりつつある。直近には、ゲーミングPCと同等の機能を持った携帯端末も数多くリリースされている。

 こうしたトレンドとは正反対の位置にあるのが、ADV/ノベルのジャンルだ。同分野は、テキストやスチル、音楽といったゲームコンテンツにおける根源的な要素を主成分としている。ハードの性能をそれほど必要とせず、対応プラットフォームの条件さえ許せば、どのような環境でもプレイしやすい点が特徴である。こうしたADV/ノベルの性質は、同分野のタイトルが複雑な開発を必要としない点ともつながっている。次世代機・ゲーミングPCの存在感が増しつつある時代に、小規模制作にルーツを持つ名作が複数誕生した背景には、このような分野の特性が影響していると考えられる。「インディー」というワードに注目が集まるかぎりには、2024年以降もADV/ノベルのジャンルの躍進が続くはずだ。

 そのような風潮を感じさせる動きは、すでに現れ始めている。2023年11月には、ビジュアルノベルのジャンルで『CLANNAD』や『planetarian 〜ちいさなほしのゆめ〜』『リトルバスターズ!』など、数々の人気作品を発表してきたゲームブランド・keyが、新作の恋愛ADV『アネモイ』の開発を発表。一方、もうひとつの大手ブランド・TYPE-MOONからは、ビジュアルノベル『魔法使いの夜』の劇場アニメ化プロジェクトが着々と進行している。前者は、2022年2月にサービス開始となったモバイル向けアドベンチャーRPG『ヘブンバーンズレッド』の好評も記憶に新しい。後者もまた同年に、PCのみでリリースされていた『魔法使いの夜』をフルボイス・フルHD化し、PlayStation 4、Nintendo Switchへと移植。去る2023年12月14日には、Steamにも対応させている。

「魔法使いの夜」Steam®版 解禁PV

 『アネモイ』『魔法使いの夜』はともに「小規模制作」「ロープライス」という条件には該当しないが、両タイトルとその周辺で起こる動きに牽引され、ADV/ノベルの界隈が盛り上がることで、同分野への注目度は高まるはずだ。マーケットそのものが大きくなれば、ユーザーを満足させるタイトルが多く生まれる土壌も整っていくだろう。

 ひとりのファンとして、「2024年以降も『パラノマサイト』『ヒラヒラヒヒル』に匹敵するタイトルをプレイできる可能性がある」ということがこのうえなくうれしい。同じような感情を抱えているプレイヤーも少なからずいるのではないだろうか。

 そして、2023年に生まれた両作がファンの口コミや、SNS・販売プラットフォーム上のレビュー、こうしたメディアの記事を通じて、さらに多くのプレイヤーへと広がっていってほしいとも思う。「気になりつつも、まだプレイしていない」という人がいたら、ぜひ年末年始のゆったりとした時間に『パラノマサイト』『ヒラヒラヒヒル』を手に取ってみてほしい。

 各プラットフォームでは2024年1月5日までの期間、『パラノマサイト』は30%オフの1,386円(My Nintendo Store/Steam)、『ヒラヒラヒヒル』は10%オフの2,673円(Steam)で販売されている。

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