田中直基に聞く、Dentsu Lab Tokyoがアイデア×テクノロジーの力で社会課題に向き合う理由

Dentsu Lab Tokyo・田中直基インタビュー

「ずっと僕は『伝達』の探求をしている」

ーー2023年12月には「愛と出会えたテクノロジー展」が開催されました。開催地であるアドミュージアム東京の収蔵しているクリエイティブはもちろん、DLTのクリエイティブワークも多数展示されましたが、この企画展の開催背景について教えて下さい。

『Flower of Your Mind』

田中:アドミュージアム東京さんとの会話の中で、「いままではポスターや映像だけを取り扱ってきて、さわれる展示や、インタラクティブ性のある展示をした経験があまりなく、テクノロジーをテーマにした展示に関心がある」という話があって、であれば我々のワークを含めて、国内外の素晴らしい広告をキュレーションしながら展示してみようということで制作を始めました。せっかくこうした展示をするんですから、広告やテクノロジーに関心を持たないような人々にも開いた場所にしようと。面白がってもらえるように翻訳してあげたいと思ったんです。

 そういう目線で自分の仕事を振り返ったり、アド・ミュージアム東京さんの数十万点のアーカイブも見させていただいたりして、全ての仕事は人間によっておこなわれていることなんだとあらためて気づきました。人間が誰かを助けたり、議論したり、笑わせたり、くだらないことをやったり、誰かが誰かの心をちょっとポジティブにしたいということで全ての仕事が生まれている。そこに気づいたときに、「テクノロジー」と「愛」というのは極端に遠い言葉だと思うんですが、あえてそれをくっつけてみたんです。

 展示のステイトメントにも書いたんですが、僕は映画『WALL・E』のポスターが昔から好きで、ウォーリーが一人で空を見上げている絵なんですが、僕にはこれが「孤独なテクノロジー」の象徴に見えた。このウォーリーのイメージも今回の展示の意図に繋がりました。なるべく広く平たく、いろんな人にテクノロジーに関心を持ってもらいたい、開いていきたいという思いや、自分たちの物作りへの姿勢、人間が真ん中にあって、人間とテクノロジーがセットになって未来を切り拓いていくのだというメッセージ。そういうものを込めました。

Dentsu Lab Tokyo・田中直基氏

ーー企画展でも展示されていたDLTと慶應義塾大学SFC徳井研究室の共同プロジェクト『UNLABELED』は、まさに人間を主役としたテクノロジー活用の一例だと感じました。タクシーに設置されたAIカメラによるターゲッティング広告を企画の発端とした、「AIによる画像認識から逃れるための迷彩服」という建付けもユニークです。ターゲッティング広告を作ることも広告の仕事でありながら、こういった企画を実現してしまう田中さんの手腕に驚きました。

田中:僕は業界の端っこを歩いてきた人間なので(笑)。だからこそ、公平性に立脚できるようなところがあって、今もいろんなご依頼をいただくことがありますが、同じ価値観を持っていない人とお仕事してもうまくいかないというのは強く感じています。

ーー田中さんの企画を拝見していると、ユーモラスな部分が必ずあるように感じます。なにか、ご自身のユーモアの源泉、ルーツのようなものがあったら教えて下さい。

田中:なんだろうなぁ……僕、ストレートトークって一番嫌いで。ずっと僕は「伝達」の探求をしていると思っていて、商品を訴求するにしても「このビールは世界で一番うまい」とか「ビールの常識が変わる」とか、そういう言葉って一番無意味だと思うんです。ストレートにものを言っても何も届かないと思う。ストレートにものを伝えることがワークした時代ももちろんあるし、やることを否定する気はありませんが、自分は別のやり方で、できるだけ対立構図を作らず、気づかせたり議論を起こしたい。これは子供も同じですよね。僕には2歳と7歳の子どもが居るんですが、まともに言ってもなかなか届かないし、変わらないけど、ゲームや物語を取り入れたら変わってくれたりするんです。

 そして、人間は昔からそういう伝達の手段が有効だっていうことを知恵として知っているんですよね。たとえば僕は幼稚園の頃から「ゲゲゲの鬼太郎」が好きで、「妖怪」が好きなんですが、妖怪って素晴らしいエデュケーションで、いろんなデザインがあって怖かったり面白かったりしてユーモラスだし、妖怪にまつわる物語がたくさんある。普通に言って聞かない子どもでも「妖怪が来るよ」とか言うと夜中に騒がなくなったりしますよね。ルーツなのかはわかりませんが、そうした妖怪のアプローチにも影響を受けていると思います。『UNLABELED』にしても、渋谷のPARCOで売っている洋服が、タクシーのカメラのAI認識を防御する、なんて妖怪の話みたいですよね。

Dentsu Lab Tokyo・田中直基氏

ーーDLTと研究者の髙橋宣裕さんによるプロジェクト『Hugtics』にも同様の精神を感じました。「ハグ」という行動を圧力センサによってデータ化することで、自分自身や離れた場所にいる人間にハグの感覚を伝えるプロジェクトですが、「ユーモラスな伝達」そのものだと思いますし、提供するのはあくまでハグを伝達することだけ、そこで生まれる感情に対して言葉を打ち出したりはしないという点で、人の感情を信じているプロジェクトだと感じました。

田中:どうしても人は、言葉で言うと「言った気」になってしまうから、ストレートに説明したくなるんですけどね。でもまず体験して、感じてもらって、あとは多分、おのずと体験してくれた人の行動が変わったり、価値観が変わったりするだろうと思っていますし、そういうふうにものを作っています。

『Hugtics』

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