発売4日でスタジオ閉鎖&返金騒動 『The Day Before』から考える“アーリーアクセスの是非”
アーリーアクセスという“免罪符”はどこまで効力を持つか
昨今のゲーム業界では、開発の複雑化などにより、新作タイトルが致命的な不具合を抱えたままリリースされる事例が増えてきている。直近では、2023年10月に発売となった『Cities: Skylines II』や『ARK: Survival Ascended』が同様の状況でリリースを迎え、一部プレイヤーから不評を買った。
制作側にしてみれば、期待される発売時期と担保できるクオリティの板挟みのなかで、苦渋の選択を強いられている面もあるのだろう。ニュースメディアやSNS、レビューサイトの台頭により、悪評(リリースの延期、当初の出来の悪さを含む)が広まりやすく、周知されれば、それを払拭するのは難しいという事情も影響していると推測する。『サイバーパンク2077』のような例は、極めて珍しいケースだ。
そうした問題に対する折衷案として、解決策を提示しているのが「アーリーアクセス」と呼ばれる販売手法である。制作側はこれにより正式リリースまでの猶予期間を設けることで、ある程度の利益を得ながら修正・改善のアップデートを行えるようになった。ユーザー側もこの時点での不具合/不出来に対しては、比較的寛容な態度を見せる傾向にある。アーリーアクセスは、炎上を未然に防ぎつつ利確したい制作側と、いち早くプレイしたいユーザー側の両者にとって、Win-Winの制度となっている。
その一方で忘れてはならないのが、『The Day Before』もまたアーリーアクセスでリリースされたタイトルであるということだ。現状の同制度は、許容する/許容しないの区別が個々のユーザーの裁量に委ねられる“不文律”的な仕組みとなっている。そのため、おなじタイトルをめぐっても、さまざまな反応が混在する状況にあり、そのことが事態をより混沌とさせている実態がある。おなじくアーリーアクセスにてリリースされた『ARK: Survival Ascended』では、一方が不具合の多さを批判していたのに対し、一方は「アーリーアクセスの意味を知らないのか」と、両極端な反応を見せていたのが印象的だった。
もしアーリーアクセスであることを理由に、不具合/不出来を許容しなくてはならないのだとしたら、ユーザー側にはこれまで以上に“地雷”を踏まないための審美眼も求められることになる。『The Day Before』は返金対応となったため、実質的にユーザーは時間だけを消費した形だった(とはいえ、時間にもお金と同等、またはそれ以上の価値があることは、利便性を向上するDLCが購入されることから明らかだ)が、今後も再発するであろう類似のケースでは、同様の対応になるとはかぎらない。やや乱暴な論理ではあるが、アーリーアクセスであったとしても、その先にあるディベロッパーの開発力を見極める能力が「リテラシー」とされていく時代に突入したと言えるのではないか。
見方を変えれば、これは文化的後退であるとも言える。インディーディベロッパーから数々の良作が誕生している昨今であるだけに、その存在に疑いの目を向けながら消費活動を行わなければならない市場構造は、あまりにも不健全である。制作側、ユーザーの双方にとって、大きな機会損失にもつながっていくのではないか。
私見ではあるが、ゲームの進行に対して致命的な不具合を抱えたままでリリースされるタイトルは、たとえアーリーアクセスであったとしても許容することはできない。意図したとおりに遊べることが対価を受け取るための条件であると考えるからだ。修正が期待されていた不具合が放置されたまま、アップデートが行われなくなったタイトルもなかにはある。ユーザーからの評判がいいだけに大きく取り沙汰されることはないが、捉え方によっては“売り逃げ”とも考えられるだろう。そのようなやり方がまかり通っては「真面目に開発に向き合うほど馬鹿を見る」というゲーム業界になってしまう可能性もある。
『The Day Before』の騒動には、ゲーム業界に潜在するさまざまな問題が映し出されている。その経緯を知るフリークはあらためて、アーリーアクセスについて考えてみてほしい。無論、同制度は制作側とユーザー側の折り合いをつけるものであり、根本的にWin-Winであることを否定するつもりはない。「画期的な制度であるからこそ、そこには一定のモラルやポリシーがあるべき」というのが私の意見だ。みなさんの考えはいかがだろうか。議論が活発化することで、より良いゲーム業界となることを期待したい。
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