ゲームのチューニングは「満足度を作り上げていく仕事」 猿楽庁長官インタビュー

猿楽庁長官・小島尚也氏インタビュー

精度の高いチューニングに必要なのは、トレンドを敏感にとらえること

――ゲーム業界に長く携わるなかで、ユーザーの遊び方の変化を感じることはありましたか?

小島:日々感じています。遊びのトレンドもファッションなどと同じで、かつて流行したものがリバイバル的に盛り上がることがあります。むしろそういうものがほとんどと言ってもいいかもしれない。ユーザーのなかで少しずつ遊び方が形成されて、それが作り手のアイディアに伝播していく。そこから次の新しいトレンドが生まれたりすることもよくありますね。我々も変化に柔軟に対応できるよう、常に準備はしています。

――そういった変化も意識しながら、フィードバックやアドバイスを行っていくのでしょうか?

小島:そうですね。ただ実際には、トレンドを意識した着地をゴールに設定する場合もあれば、あえてトレンドからは外す場合もあります。制作側の意向や、タイトルのバックグラウンドなど、さまざまな要素を考慮しながら、ベストと考えられるところに着地させるイメージですね。現実的な話をすると、どのくらいの売上を獲得したいのかによっても、目指す方向は変わってきます。新規IPなのか、シリーズなのかといった要素も、方向性を考えるための大きな材料のひとつになります。

――売上を最大化するために、全方位にリーチできるような着地を考えることも?

小島:もちろんあります。ただ、広くユーザーを取りたいばかりに、“全部盛り”のようになってしまうケースも……。「全方位に向けた作品づくり」といっても、実際に現場で起こっている話し合いでは、ある程度対象が絞られていることも多いです。表面的には全年齢をターゲットにしていても、どこかにコアとなる層を設定していることがほとんどですね。

――リメイクやリマスターをめぐる議論とも似ているように感じました。

小島:そうかもしれません。当時を知るユーザーに向けて作るのか、それとも、現代の新しいユーザーを取り込むために作るのか、という議論が生まれやすいところは似ていると思います。

チューニングと制作の結びつきは、医者と患者の関係に似ている

――制作側とユーザーをつなぐ役割に期待や責任の重さを感じることはありますか?

小島:それは常に感じていますね。「ユーザー代表」と自称している手前もありますし、制作側から企画に対する思い入れなどを聞く機会も多いので、なおさら双方が満足できる作品に仕上げなくてはならないと感じます。

――一方で、ゲームカルチャー全体で考えると、ユーザーの体験を支える大切な仕事である割に、スポットの当たりづらい仕事でもあります。そこに不遇さのようなものを感じることは?

小島:ないとは言えないですね。ネット上では「猿楽庁ってまだいたんだ」と言われることもあります(笑)。反面、創業時からコンテンツ制作を下支えする役割として、ゲーム業界に携わってきたので、「知る人ぞ知る」というポジションでもいいのかなと感じることもあります。私たちとしても、こうした取材を受けたり、過去の実績を開示したりと、少しずつユーザーに向けて発信しているところです。

――どのようなときに、チューニングという仕事にやりがいを感じますか?

小島:やはりユーザーさんから良い反応をいただけたときですね。私たちのフィードバックが関与している部分であれば、なおさらです。作品が評価されれば、クライアントである制作側も喜んでくれます。ユーザーもクライアントも笑顔にできるって、最高ですよ。繋ぎ手ならではのやりがいだと思います。

――最後に、猿楽庁として、また猿楽庁の長官として、ゲームをチューニングすることの意味をどのように考えているのかを教えてください。

小島:お話したとおり、チューニングにはさまざまな工程があります。そのすべてがゲームを面白くすることへとつながっている。けれども、「面白い」という指標は人それぞれなので、画一化されたアプローチでは語ることができません。制作側が思い入れを持つ作品を、誰に、どのような体験として届けるのか。それを具体化するのが私たちの役割。つまるところ、チューニングは満足度を作り上げていく仕事だと考えています。

 そのうえで猿楽庁には大切にしている考え方があります。それは「チューニングと制作は、医者と患者の関係に似ている」ということです。ここには「問題の早期発見が大事である」という意味もあるんですが、同時に「困りごとを相談しやすい立場でいなくてはならない」という自戒も込められています。そのような存在であるために、これからもクライアントが声をかけやすいよう門を開きつつ、ユーザーの満足度に真摯に向き合う私たちでいたいですね。それがチューニングという役割、さらには猿楽庁という集団が存在する意味なんだと思います。

■調査レポート「サルガクチョウサvol.5」
https://hike.inc/news/4054/

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