NFTと音楽の現在、そして未来 『MUSIC NFT DAY 2023』にみた“新しい”音楽との出会い

渋谷開催『MUSIC NFT DAY 2023』レポート

 11月5日、渋谷Stream Hallにて音楽とNFTに関するイベント『MUSIC NFT DAY 2023』が開催された。ホールでは、さまざまなアプローチでNFTを展開する企業やレーベルのキーパーソンが参加するカンファレンスや、新進気鋭のアーティストたちによるライブパフォーマンスが行われた。さらにロビーには各企業のNFTブースが設けられ、それぞれの製品やビジョンに触れられた。

 本稿では、イベント当日の模様をレポートすると共に、さまざまなサービスの登場によって開花する音楽の可能性を展望したい。カンファレンスを経た後で体感するアーティストのパフォーマンスは、まだ本人も自覚していない可能性に溢れているようで輝いて見えた。

 なお、NFTはすべて「Web3」の世界観に基づいており、念のためこの考え方について簡単に共有する。「Web3」においては、Web上のデータの所有権がプラットフォームではなくユーザーにある。たとえばSpotify上でユーザーが楽曲を保存したとしても、会社がサービスを終了してしまえばそれらも霧散してしまう。けれども、「Web3」ではデータが分散して管理されるため、ユーザー側でそれらを保有できるのだ。

 まずは全3部構成で行われたカンファレンスの様子を伝えたい。最初のセッションには、「Web3時代の音楽エコシステムを共に作り上げていくコラボレーションツール”FRIENDSHIP. DAO”について」というテーマで、山崎和人氏(HIP LAND MUSIC / FRIEDNSHIP.)、武田信幸氏(LITE / Fake Creators)、赤澤直樹氏(Fracton Ventures)の3名が登壇。レーベル、アーティスト、プラットフォーマーの立場から、次世代の音楽ネットワークのあり方が語られた。

トークセッション・「Web3時代の音楽エコシステムを共に作り上げていくコラボレーションツール”FRIENDSHIP. DAO”について」
トークセッション・「Web3時代の音楽エコシステムを共に作り上げていくコラボレーションツール”FRIENDSHIP. DAO”について」

 山崎氏は近年の課題のひとつとして「情報の分散」を挙げる。以前はCD(あるいはレコード)に付随していたブックレットなどでその作品に関わるクリエイターの情報を得られたが、サブスク全盛の今は楽曲クレジットからプロデューサーとソングライターの名前を確認できる程度だ。ジャケットを手掛けたアートディレクター、MVを担当した映像作家などを知りたい場合は、SNSを辿ったり検索エンジンから情報を探すのが一般的だろう。そのフラストレーションや機会損失へのひとつの回答として、『FRIENDSHIP. DAO』がある。

FRIENDSHIP. DAO [INTRODUCTION]

 このプラットフォームでNFTを手に入れたユーザーは、その作品を介した「コミュニティ」を視認できる。詳しくは上の動画を参照いただきたいが、その繋がりの中にはもちろんアートディレクターや映像作家も含まれる。あるいは、NFTを購入したあなたも「サポーター」としてそこに登場するかもしれない。

 データの所有権がユーザーに移ることで、我々はより主体的にアーティストと関わることができるのだ。LITEの武田氏は、「Web3はインディペンデントなアーティストと相性が良い」と語る。事務所やマネージャーの関与が比較的少ない彼らにとって、自身のファンだけでなく、イベンターやインフルエンサー、他クリエイターに直接アプローチできる(あるいは知ってもらう)機会が増えるのは極めて大きなアドバンテージとなる。

 そして『FRIENDSHIP. DAO』の強みは、そういったコミュニティをグローバルに広げられるところにある。英語対応はもちろん、このプラットフォームでは国ごとの税制や契約などを気にすることなく活動の幅を広げられるからだ。ひとりの音楽ファンとして、今後の展開に期待したい。

 続いて、「音楽NFTプラットフォームanotherblockが描く未来」をテーマにしたトークセッション。『anotherblock』は、スウェーデン発のWeb3.0ベースの音楽を共同所有するプラットフォームだ。このセッションには、同社から自身も音楽プロデューサーとして活躍するジョナス・サイード氏、株式会社ParadeAllの鈴木貴歩氏が登壇した。

トークセッション・「音楽NFTプラットフォームanotherblockが描く未来」
トークセッション・「音楽NFTプラットフォームanotherblockが描く未来」

 サブスク最大手のSpotifyも、スウェーデンのストックホルムに本社を置く企業だ。Web2時代に台頭したEDMの代表選手たち、たとえばスウェディッシュ・ハウス・マフィアやアレッソ、アヴィーチーらもスウェーデン出身である。人口でいえば日本の10分の1以下の国だが、続々と新たな才能や企業が出てくる。サイード氏いわく、この秘訣は「スウェーデンの人々がナレッジを共有することを善行と考えている点にある」という。だとすれば、Web3の世界観においてもスウェーデンの企業は活躍しそうだ。というのも、この世界観ではまさしく「シェア」する文化が極めて重要だからである。

 『anotherblock』は、“音楽著作権の民主化”を目指している。たとえばジャスティン・ビーバーの楽曲「Company」では、楽曲NFTを購入したファンがストリームにおいて支払われるロイヤリティ配分の1%を受け取ることができる。同社のプロジェクトにはLaidback LukeやBoys Noizeなどのダンスミュージックにおける大物のほか、The Weekndなど音楽シーンのアイコンも参加している。また、現在はマイケル・ジャクソンの楽曲のNFT化も進めているという。

 サイード氏はNFTについて「新しい音楽との接し方」と表現しており、先の事実が示す通り、エコシステム自体はすでに確立され始めている。「Company」の例を見ても、これからはアーティストを応援することに対し、音源やライブとは別に具体的なリワードが用意されると予測した。

 最後のトークセッションは「日本の音楽NFTの現在地と未来」というテーマで行われ、株式会社レコチョクから小南勇介氏、株式会社ゐきかたが運営する『Sound Desert』から奥井颯平氏が登壇し、モデレーターを鈴木貴歩氏が担当した。

トークセッション・「日本の音楽NFTの現在地と未来」
トークセッション・「日本の音楽NFTの現在地と未来」

 Web2においてはあまり存在感を示せなかった日本の音楽シーンだが、3の世界観との相性は極めて良いかもしれない。というのも、着うたや着うたフルなどのカルチャーはまさしく「所有すること」が重要だったからだ。2009年当時の着うた市場は、約1200億円の経済規模を築いていた。その中でレコチョクは界隈の最大手として君臨しており、多くのユーザーが着うた(フル)をダウンロードして楽しんでいた。

 小南氏が「ダウンロードコンテンツにおいては日本の音楽シーンに貢献してきた自負がある」と語るように、Web3でこれまで培ったノウハウを駆使しようとする企業は多そうな印象を受けた。

株式会社レコチョク・小南勇介氏、『Sound Desert』・奥井颯平氏
株式会社レコチョク・小南勇介氏、『Sound Desert』・奥井颯平氏

 また、ロビーにはレコチョクのブースも展開されており、ワンストップECソリューション『Murket』、NFT所有者専用サイト『mupla』に関する資料の配布や機能体験が行われた。“音楽NFTの遊び場”というコンセプトの『mupla』は、先述した「所有」の先に行こうとしているように見えた。このサイト内では、NFTの所有者が限定的に楽しめるコンテンツが用意されている。つまり、特定のNFTを持つユーザーだけが楽しめる「体験」があるのだ。NFTの購入者にどのようなリターンを返してゆくかは、本稿で登場するすべてのサービスにとって重要なテーマだが、体験を具体的に提案できるのは『mupla』の強みだと感じた。

 『Sound Desert』も素晴らしいサービスを提供している。奥井氏はこのセッションの中で、強固なファンベースの例として「VTuber」を挙げていた。分かりやすい定量的な観点(音源の売上やフォロワーの数など)でボリュームを持っていなかったとしても、Web3においてはその力学を覆すことができる。

 ロビーでは『Sound Desert』も企業ブースを展開しており、NFTの音源がレコード棚を模したセクションに並べられていた。音楽ライターとして恥を忍んで書くが、そこに並んでいたアーティストのうち筆者が知っていたのは2組だけだった。けれども、NFTだけでひと月は生活できるぐらいの収益を上げるアーティストもいるという。その中にバーチャルシンガーの作品もあったが、奥井氏によるとやはりファンの後押しが強力なのだそうだ。

 また、同氏はイラストレーターとしてのバックボーンがあり、当初はそちらの観点からNFTの状況を注視していた。イラスト界隈でNFTが流通してゆく様を見て、この考え方は音楽にも転用できるのではないかと思い至ったそうだ。

 そして次のライブパフォーマンスで、ファンベースの熱狂を実際に目の当たりにしたのである。

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